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東京オリンピック 「ぼったく男爵」批判 「ぼったくり」は米国五輪委員会 バッハ会長は「ぼったくり男爵ではない」 メディア批判 

2021年06月16日 17時11分12秒 | 東京オリンピック
「ぼったくり男爵」批判 「ぼったくり」は米国五輪委員会
バッハ会長は「ぼったくり男爵」ではない メディアはファクトを凝視せよ





バッハ会長は「ぼったくり男爵」 日本政府は「五輪中止」で「損切り」を 米ワシントンポスト紙
 新型コロナ禍での五輪開催に否定的な報道が相次ぐ米国で、5月5日、米ワシントン・ポスト紙(電子版)は、バッハ会長を「ぼったくり男爵」(原文:Von Ripper-off, a.k.a. IOC President Thomas Bach)と呼び開催を強要していると主張するコラムを掲載した。貴族出身者が多いIOC委員を「地方行脚で食料を食い尽くす王族」と皮肉り、「開催国を食い物にする悪癖がある」と主張した。
(原文:Von Ripper-off, a.k.a. IOC President Thomas Bach, and his attendants have a bad habit of ruining their hosts, like royals on tour who consume all the wheat sheaves in the province and leave stubble behind.)
 コラムでは大会開催を前進させている主な要因を「金だ」とした。IOCは収益を得るための施設建設やイベント開催を義務付け、「収益のほとんどを自分たちのものにし、費用は全て開催国に押し付けている」と強調。コロナ禍で開催に向けて腐心する日本政府に対して、五輪を中止する「損切り」を訴えかけた。
(原文:Japan’s leaders should cut their losses and cut them now.)
 同紙では日本の世論調査で7割以上が中止・再延期を求めている現状や、多くの医療従事者に負担を強いることなども指摘。「コロナの世界的大流行の中で国際的なメガイベントを主催することは不合理な決定」と断言し、「五輪のキャンセルは苦痛だが、スッキリする」と結んだ。
(原文:A cancellation would be painful — but cleansing.)

 日本の新聞・雑誌・テレビなどのメディアでは『バッハ会長は「ぼったくり男爵」』という見出しが躍った。誰が訳したのか分からないが、なかなか「うまい」和訳で、メディアは飛びついた。
 しかし、一体、何をもって「ぼったくり男爵」と主張しているのだろうか。これだけ激しい言葉を使用して、バッハ会長を非難しているのだから、「ぼったくり男爵」と主張するファクトが書かれているのではと、記事を読んでみると、根拠が何も書かれていない。日本のメディアは、「ぼったくり男爵」という言葉に踊らされて盲目的にワシントン・ポスト紙に追随してバッハ会長を非難した。あまりにもジャーナリズムとしてお粗末、唖然とする。
 筆者がバッハ氏だったとしたら「名誉棄損」で告訴する。


トーマス・バッハIOC会長 出典 IOC Media

ワシントン・ポスト紙の原文を点検する
■ 原文:Baron von Ripper-off, a.k.a. IOC President Thomas Bach Baron Von
*Baronは「男爵」、Vonは貴族に使われるドイツ語。バッハ会長がドイツ出身なので揶揄するために使用。

*rip offは「騙し取る」、「略奪する」、「法外な料金を要求する」の意。

*a.k.a=also known asの略 「〜として知られる」「別名」
*von ドイツ語の前置詞。英語の前置詞 from/of
 vonは、ドイツ語圏で、諸侯・貴族の爵位(Fürst)や準貴族[地主貴族](Junker)の姓の初めに冠する称号として使用

*「ぼったくり」
 「ぼったくる」とは「ぼりたくる」が音的に変化したもので。「ぼり」は「暴利」を動詞化した「ぼる」の連用形。つまり、「ぼったくる」とは暴利を貪りまくること=法外な値段をとることをいう。(日本俗語辞書)
 
■ 原文:Japan’s leaders should cut their losses and cut them now.
*cut loss  「損切り」 
 含み損が生じている有価証券や株式などの投資商品を見切り売りして損失額を確定すること。(金融・証券用語)



出典 IOC Media

IOCは「ぼったくり」ではない


IOCの収入構造 放送権料とスポンサー収入で90%以上
 国際オリンピック委員会(IOC)の収入は、ソチ冬季大会とリオデジャネイロ夏季大会が開催された2013年~2016年の4年間で、約57億ドル(約6270億円)、内訳は放送権料が約41億6000万ドル(約4577億円)で73%、TOP Programmeスポンサー料が約10億2600万ドルで18%、その他の権利収入が4%、その他の収入が5%となっている。
 放送権料とスポンサー収入で90%以上が占められている。

収入の90%は、大会組織委や五輪関連団体に配布 IOCに残るのは10%
 約57億ドル(約6270億円)のIOCの収入の10%、約5億7000万ドル(約627億円)が、IOCの運営費用に充当され、残りの約50億ドル(約5500億円)が、開催都市の組織委員会や国際競技団体(IF)、各国オリンピック国内委員会、アスリートへの支援、ユース・オリンピックの開催経費などに分配される。

▼ 大会開催経費として、約25億ドル(約2750億円)、50%が組織委員会に配分される、リオデジャネイロ夏季五輪には15億3100万ドル(1684億円)、平昌冬季五輪には8億8700万ドル(約975億円)を配分。
 東京2020大会には、放送権料からのIOC負担金が850億円、TOPスポンサー料から560億円、合計1420億円を拠出することになっている。(組織委員会V4予算)

▼ 国際競技団体(IF:International Federation)や206の国と地域の国内オリンピック委員会(NOC)、五輪連帯プログラム(オリンピック・ソリダリティ・プログラム)には約19億ドル(約2090億円)、38%が配分される。

▼ ユース五輪(Youth Olympic)や追加のアスリート支援プログラム、五輪ソサイエティ推進プログラム(オリンピック・ソリダリティ・プログラム)などには約9億ドル(990億円)、12%が配分される。

 IOCのこうした巨額の分配金が、IFやNOCの組織運営を財政的に支援し、アスリートの競技活動を支えている。国際オリンピック委員会(IOC)のマネーフローのメカニズムが世界のスポーツ振興を支えているといっても良い。
 IOCの「巨大な権力」が、豊富な財政資金で構築されているのは間違いない。
 しかし、国際オリンピック委員会(IOC)の運営経費は、収入の10%、「管理費」程度である。
 4年間で約5億7000万ドル(約627億円)は、決して少額とは言えないが、10%は妥当な水準であろう。日本国内の国や地方自治体が発注する委託業務の管理費は、10%が常識、社会的に認知されている数字である。
 国際オリンピック委員会(IOC)の運営経費、「10%」を「ぼったくり」と批判するのは的外れだ。


出典 IOC Anual Report 2018
 
バッハ会長の収入は年収22万5000ユーロ(約2900万円)
 2015年4月、国際オリンピック委員会(IOC)は役員報酬の詳細を初めて公表し、トーマス・バッハ(Thomas Bach)会長は年間22万5000ユーロ(約2900万円)の経費を受け取ることが明らかになった。
 潤沢な資金を持つIOCの倫理委員会は声明で、「全面的な透明性を確保するために」、計102人の委員と計35人の名誉委員に対する報酬について詳細に公表すると述べている。
 4人のIOC副会長を含む計14人の理事には、会議や公務で出張する際に日当900ドル(約11万円)が支払われる一方で、他の委員は同様の場合に日当450ドル(約5万5000円)を受け取ることになっている。
 また、全IOC委員の報酬は年間7000ドル(約84万円)となっており、交通費や宿泊費については、別途IOCから支払われるという。
 IOC委員はボランティアで名誉職であり、基本的に無報酬だが、IOCの委員会として活動する場合は別途報酬が払われる。
 バッハ氏の年収22万5000ユーロ(約2900万円)は、低額とは言えないが、グローバルな巨大な組織の長としての報酬としては、他の国際機関の長と比較して、不当に高額とはいえない。
IOCの無駄遣いは改善を
 IOCの本部があるスイス・ローザンヌ、レマン湖を望める高い台に1915年創業の五つ星ホテル、「ローザンヌ・パレス・アンド・スパ」がそびえ立つ。最上階のスイートルームは、バッハ会長の住まいとして無償で提供されている。
 「ホテルのエントランスの上には五輪旗が翻る。IOCによると「会長がホテルに滞在しているときは旗を掲げるのが慣例」という。
 2019年6月、IOC本部の落成式直前に開かれた理事会は、このホテルが会場となった。地下1階の会議室はレストラン脇の広間。入ると、きらびやかなシャンデリアが下がる荘厳な雰囲気で、若人のスポーツの祭典を担う組織というより、「貴族のサロン」と揶揄されてきた伝統が薫る」(朝日新聞 2019年9月27日 五輪をめぐるローザンヌ:パレスホテルは「会長公邸」)
 国際オリンピック委員会(IOC)のこうした体質は批判されてもしかるべきで、是正する必要が急務だ。
 
 しかし全体として、バッハ会長を「ぼったくり男爵」として糾弾するのは無理がある。ワシントンポスト紙はどんなファクトをもとに「ぼったくり男爵」と批判したのか、メディアとしての正義が問われる。 


IOC本部 スイス・ローザンヌ 出典 IOC Media

高騰する放送権料の主役は米国メディアの熾烈な競争
 2014年5月、国際オリンピック委員会(IOC)は米NBCと2022年から2032年までの11年間に渡って6大会の米国内の放送権の独占契約を結んだ。
 契約料は空前の76億5000万ドル(約8415億円)、それに1億ドルの「オリンピック運動推進」を目的とした「ボーナス」も支払いうということで決着した。
 この契約は、2024年(パリ大会)、2028年(ロサンゼルス大会)、2032年(ブリスベン大会[予定])の夏季五輪大会と2022年(北京大会)、2026年(ミラノ/コルティナ・ダンペッツォ大会)、2030年(未定)の冬季五輪大会の6大会が対象となる。無料テレビ放送(地上波、衛星)、有料TV放送(衛星放送、CATV)、インターネット、モバイルの権利などすべてのプラットフォームの権利が含まれている。

 米国内では、NBCを始め、各ネットワークは、視聴者を獲得する「キラー・コンテンツ」としてスポーツのライブコンテンツに獲得に凌ぎを削っている。スポーツのライブコンテンツは、ほとんどの視聴者がリアルタイムで視聴するので、テレビコマーシャルをスキップしないため、広告主に人気がある。
 オリンピックのコマーシャル需要は依然としてスポーツイベントの中で最高ランクに位置付けられている。
 2013年、NBC Universalの経営権を手中にしたComcastは2014ソチ冬季大会に戦略的に取り組み、プライムタイムのライブ中継や関連番組を強化して、傘下のケーブルネットワークの視聴率の上昇に成功した。 また大会関連のライブストリーミング・サービスを拡充して数千万ドルの広告料を集めた。
 メディアアナリストは、Comcastが支払う放送権料は、前回の契約と比較して、1大会当たり「約20%増程度」としている。一般的には「20%増」は破格だが、これは他のビック・スポーツの放送権料の増加率とほぼ一致しているとして、平均の増加率だとしている。
 今回の契約でNBC Universalは6大会で、1大会当たり平均12億7500万ドル(ボーナス込み12億9200万ドル)を支払っています。これは、2012年の前回の契約の1大会当たり10億9500万ドルよりも約16%(同約18%)増加した。
 IOCのトーマスバッハ会長は、「NBCとの長期的なパートナーシップを築くことで財政的な安定性を確かなものにできた」 と述べた。

 2014年の放送権獲得を巡って、NBC Universal はDisney's ESPN/ABC や News Corp.'s Fox Sportsと激烈な競争を繰り広げてきた。
 しかし、IOCは前回のように公開入札プロセスを実施せず、IOCとNBCの2者間の秘密の交渉で取り決めが行われた。
 IOCはNBCとの契約交渉を行うにあたって、NBC Universalの競争相手のDisney's ESPN/ABCやNews Corp.'s Fox Sports、CBSにはアプローチしなかったとされている。NBC以外のネットワークとも交渉することで、「リスクを取る理由を見つけられなかった」と述べている。
 空前の76億5000万ドル(約8415億円)に高騰した放送権料の背景には、米国内の放送機関の熾烈な放送権獲得競争がある。

米国メディアの熾烈な競争は前回から始まっていた
 2012年6月、米メディア企業、NBC Universal (NBCU)は、2014年ソチ冬季五輪と16年リオデジャネイロ夏季五輪のほか、まだ開催地が決まっていない18年冬季五輪(平昌)と20年夏季五輪(東京)の計4大会の米国内向け独占放送権を獲得したと発表した。4大会の放送権料は合計43億8000万ドル(約3500億円)に達した。
 IOCは、2014年ソチ冬季五輪以降の米国内の放送権については、米国内のメディアを対象に入札を行った。応札したのはNBC Universal の他、Disney's ESPN/ABCやNews Corp.'s Fox Sportsである。
 News Corp.'s Fox Sports は、NBC Universalと同じく4大会放送権一括取得を提案し、提示額は34億ドル。Disney's ESPN/ABCは14年、16年の2大会のみ対象の14億ドルを提示したとされている。
 結果、4大会一括で43億8000万ドルを提示したNBC Universal が落札した。破格に高額の落札額に対して、NBC Universalは「法外な高値で落札した」と非難を浴びた。
 ライバルの1つであるESPNは、「規律ある入札」を行ったとの声明を発表し、「これ以上先に進むことは、私たちにとってビジネス上意味がない」と述べた。
 ウォールストリート・ジャーナル紙などによれば、NBC Universalは2014ソチ冬季大会に、7億7500万ドル(ソルトレーク冬季大会[自国開催]に支払った8億2000万㌦を下回る)、2016年リオデジャネイロ夏季大会に12億2600万㌦。開催地が決まっていない2018年冬季大会(平昌大会)に9億6300万㌦、2020年夏季大会(東京大会)に14億1800万㌦を支払うことで合意したという。

NBCが決める放送権料の相場
 世界各国・地域の放送権料は、基本的には視聴者数に応じて決められるのが原則である。
 しかし、実態は、NBC UniversalとIOCで決められる放送権料が、世界各国・地域の放送権料の「相場」になる。
 IOCは、常に最初に米国内の放送権の交渉を開始する。
 米国内の放送権料が決まると、概ね欧州はその半分程度、日本は欧州の半分程度が目安になる。
 米国内の放送権を握るのはNBC Universal、欧州地域はDiscovey/Euro Spots。日本ではNHKと民放キー局5社で構成するJapan Consortium、この3者でIOCの放送権料収入の大半を占める。
 五輪の放送権料の暴騰は、米国内のメディアの放送権獲得競争が主因であることは間違いないだろう。


NBCのオープンスタジオ Rio2016 コパカバーナ・ビーチ 出典 NBC

「ぼったくり」は米国五輪委員会
 放送権料に次いでIOCの収入の約18%を支えるのはTOP Programmeスポンサーシップである。
 TOP Programmeに参加している企業は、現在、世界各国の大企業、14社で、Airbnb, Alibaba, Atos, Bridgestone, Dow, GE, Intel, 蒙牛/Coca-Cola, Omega, Panasonic, P&G, Samsung, TOYOTA, Visaが名を連ねている。
 日本の企業は、トヨタ自動車、パナソニック、ブリジストンの3社である。
 IOCが手に入れるTOP Programme収入は、2014ソチ大会と2016リオデジャネイロ大会で10億3000万ドル(約1100億円)、2018平昌大会と2020東京大会で11億ドル(約1210億円)、2022北京大会と2024パリ大会で20億ドル(予想)とされている。
 TOP Programme収入は、33%が夏季五輪組織委員会に、17%が冬季五輪組織委員会に、20%が米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOPC)、10%はIOC、残りの20%は各委員会にそれぞれ分配されることになっている。
 ここで問題なのは、20%が米国USOPCに特例で配分されることだ。TOPに占める米国企業の割合が突出しているためにこの優遇措置が設けられている。
 余りにも唖然とする米国優遇措置である。
 また、IOCの放送権料収入は、開催都市の組織委員会が49%、米国USOCが12.5%、残りの38.5%は国際スポーツ連盟連合(GAISF)、各国NOC、IOCに配分される。
 ここでも米国USOCは、12.5%という優遇措置が設けられている。その理由は、米国の放送機関が放送権料の半分近く負担していることである。
 
 TOP Programmeの「20%」、放送権収入の「12.5%」、米国に対する優遇措置は眼に余る。
 「ぼったくり男爵」はバッハIOC会長ではなくて、米国オリンピック・パラリンピック委員会(USOC)だろう。

 ワシントンポスト紙を始め、メディアはこうしたファクトを知っているのだろうか、仮に「知らずに」批判をしたとしたら、余りにもお粗末な報道である。



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国際メディアサービスシステム研究所 International Media Service System Research Institute(IMSSR)



2021年6月21日
Copyright (C) 2021 IMSSR

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廣谷 徹
Toru Hiroya
国際メディアサービスシステム研究所
代表
International Media Service System Research Institute(IMSSR)
President
E-mail
thiroya@r03.itscom.net
imssr@a09.itscom.net
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