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日々好日・いちよう

ちょっとした日々の一コマです

吉田修一著「悪人」

2010-07-06 | 読書
3~4年前に朝日新聞に連載されていた新聞小説
「悪人」吉田修一作 朝日新聞出版

新聞小説はかなりの率で読んでいるが
連載が終わった後も気にして読み直す事はない。
・・が、この「悪人」は「どうして?」もう一度読んでみたい本だった。



このところ貫井徳郎ばかり読んでいたので、気分を変えたいと思っていた所
本屋さんで見つけた。

ストーリーは
母親に捨てられて、祖父母の元で育った何事にもハッキリしない青年。
髪を金髪に染め、叔父の解体現場で黙々と働き
出会い系サイトで女性を見つけ、ちょっとした弾みで殺してしまう。

それでも以前と変わらずに働き、祖父母に優しくし、仕事は少し前向きになりつつ
他の出会い系サイトの女性と軽く会ってしまう。
方や、女性もウツウツとして救われない気持ちから
金髪青年にメールをしてしまい、会う事になる。

救われない気持ちの二人は
「あの人に出会うまで、・・愛する気持ちがあったなんて・・」
「出会ったいま、もう一人でいることに耐えられない」帯の文字
殺人が発覚し、お互いをかばいつつの逃避行

最後には掴まってしまうが、
一緒に逃げていたはずの女性が「連れ回された被害者」になる。
この辺りが納得出来ずに「もう一度・・」と思い続けていた。

毎日少しずつ読み進める新聞小説なのに細部まで覚えていた(幻想かもしれないが)
細切れで読んでいる時な「なぜ?」あった違和感が
没頭して読み進むと無くなった。

女性が「つれまわされた被害者」の気持ちになる経過も理解出来たし
(生きるために楽な思考に落ちつく)
この世でただ一人と思い込んだ青年が首に手を回す心理も理解できた。

人に心を開けない捨てられた青年の「素の優しさ」
人に負担をかけない生き方を芯から発した行動。
「悪人」の対極にいた世間の「悪人」
どんな人でも「思い出すだけであたたかな気持ちになる対象」(被害者の父親のことば)
そんな気持ちとは無縁のお金持ちの軽薄坊ちゃん
ストーリー展開はもとより、
読むほどに胸の内の「俗っぽさ」を自覚させられる1册です。

今秋映画が公開されるが
帯の主人公に扮した妻夫木聡さん
いかにも暗く、いままでの軽やかで明るいキャラクターを粉砕
金髪以外は目立つことのない主人公を、たった1枚の写真で具現
作家のみならず俳優もただならぬ人ではないか・・
コメント
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