週内に2回の読後感は異例だが、
読んで日にちの過ぎた感想は気の抜けた炭酸の様で面白くない。
で、先週丸善で手に入れ、昨日読み終えた読後感を書いてしまう。
貫井徳郎著「新月譚」文春文庫刊
2010年から1年半続いた連載の単行本化の1冊。
カバー写真からしてただならぬ雰囲気
ー恋愛の陶酔と、地獄。ー
ー殺人も起こらず血も流れない。
・・魂の殺害を描いた渾身の大作である。ー
伝説となりかけている美貌の作家
20代の編集者が作家が筆を折った動機を探り
あわよくば、新作を書いてもらいたく訪れる。
58才の元作家は「一瞥で魂を掴んでしまう」ほどの美貌を保っていた。
若手編者が覚悟を試されたあげくに、
売れっ子作家に登り詰め、筆を折ったいきさつを聞く事になる。
自分の容姿(顔)に全く自信を持てなかった女子
会社を辞めたのも容姿のせい、友達が出来なかったのも容姿のせい
たまたま運良く就職出来た先きは3人だけの子会社
容姿を全く気にしない30代社長と社員
居心地が良かったものの、社長の恋人となりのめり込む
社長とたった一人の友人の裏切りに会い、会社を辞める。
小説を書き出すが、出版元に手ひどく扱われるのも容姿のせいにし
親を脅してお金を出させて容姿抜群に生まれ変わる。
会社社長とよりを戻し、小説に精進して文学賞を総なめにする。
そして断筆・・伝説の作家となる。
面白いが、気になりながら読んだカ所
どん底にくらい後ろ向きな性格、
自身に長所が見つけられない俯瞰力の無さ
社長が聡明と言う言葉以外に聡明さが見つけられない物語運び(最初のうち)
違和感を持ち読み進めた。
巻末の数ページで真相が明らかになるが
それでもなお疑問を呈したい。
他人を愛する心より自己愛の方が順位が低いなんて、考えられない。
小説を書く気持ちがそがれても、経済が豊かになっても
自分を愛でる精神の自立がないなんて、あり得ない。
そのくせ容貌のメンテナンスを続けるアンバランス加減
本文を読み終えた一昨日から疑問が沸々とわいて来る。
働く場所から、住む所、生活の全てを一人で決めて来た主人公
恋人に手ひどい裏切りを受けたからと言って
精神のよりどころを恋人に求め続けたからと言って、これは無いだろう・・・
物語の世界と言えども、私の思考は現実を彷徨ってしまう。
生活者の視点が違和感にきしみ、考え続けた昨日
歯科医院の椅子の上でも考えていたので
衛生士の「風をかけます」「痛かったら左手を上げて・・」
言葉一つ一つがうっとうしかった。
(とばっちりです)
そんな事を考えつづけられる「名作」です。
ところで、自分の魂を殺して普通の日々が送れるだろうか?
「新月譚」立ち読み