兵頭新児の女災対策的読書

「女災」とは「女性災害」の略、女性がそのジェンダーを濫用することで男性が被る厄災を指します。

最後の恋は草食系男子が持ってくる

2010-02-16 18:46:36 | レビュー

 まず、表紙を見てみましょう。
 帯にしたためられているのは、


 優しくて誠実、浮気はしない。
 結婚するなら草食系男子!
「草食系男子と恋愛すると幸せになれるの?」
「草食系男子にはどこで出会えるの?」
「草食系男子と結婚するには?」
 リアル草食系男子・多数登場!

 


 表紙を飾る美麗なイケメンのイラストはおかざき真里(日本の漫画家、イラストレーター。女性。代表作に『彼女が死んじゃった。』『セックスのあと男の子の汗はハチミツのにおいがする』『渋谷区円山町』など。ウィキペディアより)。


 すみません、ぼくもう、お腹一杯ですw
 前著、『草食系男子の恋愛学』もそうなのですが、森岡正博教授は「草食系男子」というマチズモから解き放たれた繊細で優しい男性を(それこそ、この数年、突然に日本に現れた人種ででもあるかのように扱って)、とにもかくにも肯定すべき存在であるかのように描写します。
 前著がベストセラーになったからでしょうか、上に挙げた装丁からも「日本中の女性が草食系男子であるボクに夢中!」とでも言いたげな、浮かれ気分が溢れています。その多幸感のオーラに当てられつつもページを開いてみれば、「草食系男子」と森岡教授との対談が展開されている、という仕掛けです(多数登場と謳っているわりには四人しか出てきませんが)。
「風俗に行って女を買うようなマチズモを持ちあわせていない」という草食系男子との対談で、教授は感極まって叫びます。


 女性からしたら、こういう感覚を持った男性って、「買い」だと思いますけどね。女性たちよ、目覚めてくれ~。

 


 更に教授はQ&Aコーナーにおいて、「草食系男子の彼は食事をおごってくれない、ただのケチだ」と洩らす女性を、「おごってくれて当然という考えはいかがなものでしょう」と優しく諫めます(それにしても俗に徹してるというか、自然にQ&Aコーナーを設ける辺り、よく女性誌を研究していますね)。
 女性たちへのアドバイスはまだまだ続きます。草食系男子は自分から女性をデートに誘わないので、女性がリードしましょう、なかなか告白してこないので焦らず待ちましょう、少しマザコンのケがあっても我慢しましょう、書店や図書館、電器屋やペットショップで草食系男子を捜してナンパしましょう……いやはや、読めば読むほど何だか女性が可哀想になってきます
 この、何とも居心地の悪いいたたまれなさの本質は、結局、「そんなことやってちゃモテないんじゃないですか?」という感想であるように思います。
 ここに挙げられた「草食系男子」たちは一生懸命おしろいを塗りたくって登場し、一見イケメンのように描写されてはいますが、実地で「草食系」的なメンタリティを持った男子たちを捜してみれば、網にかかってくるのはやはりオタク系が大部分でしょう(そしてオタクがモテないのは決して不細工だからというだけではなく、「男性性の欠如」によるところが大きいように思われます)。
 Q&Aコーナーにおける女性への数々の要求を読んでいくと「求めるばかりじゃなく自分からも動けよ」と「草食系男子」たちにお説教をしたくなると同時に、今まで女性たちがいかに男性に要求ばかりをしてきたかを今更ながらに思い知らされ唖然となってしまい、更にそれと共に「そこまでおっしゃるからには、今までの男女関係はひたすら男性が女性を搾取してきたのだというあなたが固持してきた自説が過ちであることに、そろそろお気づきになったのではないですか?」と教授を小一時間ほど、いや五日間ほどは問いつめたい気分に駆られます。
 教授がどれだけ「浮気、風俗、ギャンブルに興味のない草食系男子」の素晴らしさを女性にアピールしようと、現実に女性にモテるのが「浮気、風俗、ギャンブル」をするタイプの男性であるのは何故なのか。いかに「いや、そんな女性ばかりではない」と繰り返してみたところで、全体として見て、やはりそういったタイプの男性がモテるという現実。それに対する教授の認識の低さ。
 若年男性への(時代錯誤な)お説教が並ぶ前著に比べて、本書の読後感は別段悪いものでは決してありません。これだけこき下ろした後では信じてもらえないかも知れませんが、むしろ「女性たちよ、目覚めてくれ~。」に代表される教授の叫びには、共感する点が大です。
 しかし、それでも、ぼくよりもかなり年上で、はっきり言って結構なお年である教授が今更「女性たちよ、目覚めてくれ~。」という遅きに失した絶叫を始めたことに対して、ぼくはどうしても返さざるを得ないのです。
 その叫びはあなた以前に何回となく繰り返され、そして絶望と共に叫ばれなくなったものなんですよ、と。


 年末に大掃除をしていたら、どういうわけか十数年前の『POPEYE』が部屋の隅から転がり出てきた。「脱ヲタ」しようと思っていた頃に頑張って買い込んだものだ。広告に登場する昔のタレントの古くさい髪型を眺めているうちに思い出されるのは、当時の自分の必死な苦闘。自慢のバンダナ、パンツインネルシャツ、指空きグローブに身を包み、得意の絶頂でメイド喫茶に突撃、メイドさんにちやほやされてエビス顔だった頃の記憶。いたたまれず一人部屋の中をのたうち回るうち、角っこに足の小指をしたたか打ちつけ、痛みにこらえてうずくまっていると何だか世をはかなみたい気分に。
 本書を読んだ後に感じる居心地の悪さは、要するにそれと似たようなものに思えます。


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