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「私はこう見る(09衆院選) 教育改革」

2009年08月24日 09時30分50秒 | 教育 

 「私はこう見る(09衆院選)教育改革」
 8月21日付け毎日新聞の囲み記事、上のようなタイトルで衆院選に向けての識者の意見が掲載されていた。
 尾木直樹氏と西村和雄氏、お二人が書いている。

尾木直樹氏(法政大学キャリアデザイン学部教授 評論家)) 
 多くの日本人は、高校の授業料を払うことを「当然」と思い込んでいるが、世界の大勢は無償化だ。日本は79年に国際人権規約の社会権規約を批准したが「高等教育の無償化」を定めた条項は留保している。締約国160カ国で、留保しているのはマダガスカルと日本だけだ。現代は知識を基盤とした社会であり、すべての国民に高校卒業程度の教育を受ける機会を保障することは、国家の利益でもある。今回の衆院選で「高校の実質無償化」という政策が出てきたのは遅すぎるくらいだ。
 今の政治からは「国が教育に責任を持つ」との強い意思を感じない。日本の若者の現状への危機感が弱い。重要なのは、若者が精神的に自立し、常識を持った大人として生きていく力を高める教育の実践なのだ。
 日本の若者の精神状態は危機的だ。「トイレにこもって食事する大学生がいる」という話を聞き、学生465人にアンケートしたところ、11人が「経験がある」と回答し、驚愕した。「一緒に食事する友がおらず、一人で食べている姿を見られると『友人がいないことの証明』になるから」だという。人として生きていく力が衰弱している、と言うほかない。
 今の大学生の振る舞いは幼稚でしばしば20年前の中学生と同じに見える。若者が自立して生きる力を失った国に未来はない。目先の学力を向上させる前に、自立を促す教育が求められている。

西村和雄氏(国際教育学会長、日本経済学教育協会会長)
 この20年、日本では子供の教育に金がかかり過ぎるようになった。公立高校の授業料が値上がりしたことと、公教育の学力水準が低下して私立校を目指す子供が増えたという二つの原因がある。今回の衆院選で教育費の無償化や奨学金の充実など、今まで行われていない政策が公約に掲げられた点は遅すぎたとはいえ、評価はできる。
 問題は学力向上へ向けた具体策や学習指導要領の再検討などが十分に論議されていないことだ。安部内閣では教育再生会議が大きな役割を果たしたが、福田内閣以降は教育の具体的な中身に関する議論が減少した。教育は、優先課題から外されていたのだろう。
 経済格差で生じる教育格差をなくすには、教科書を子供が自学自習できるものにすることだ。今の教科書には問題の答えが書かれておらず、子供は1人で勉強できない。経済的に余裕ある家庭の子供は塾へ通うため、学力差が生まれる。
 自学自習できる教科書を編集し、貧しい家庭の子供が塾に通わずとも勉強できるようにすれば、大きな予算措置を取らなくても公立校の水準を回復することはできる。
 さらに優先的に取り組まなければならない課題は、小学校から高校までの学習カリキュラムの見直しだ。「ゆとり教育」時代のカリキュラムが今も残り、学力水準の低下を招いている。カリキュラムが子供の学習を妨げている状況を改善すれば、お金をかけずとも学力は向上する。

 尾木直樹氏はさすが、日本の自民党的政治の教育政策の貧困をずばり突いて厳しい。
 それに対し、西村和雄氏の文章にはあきれ果てるというか、その稚拙さに笑ってしまう。
 「今回の衆院選で教科書の無償配布や奨学金の充実など今まで行われていない政策が公約に掲げられた点は、遅すぎたとはいえ、評価できる」と言いながら、そのことが今日の教育の最も大きな課題を生み出したということには触れない。「この20年日本では子供の教育に金がかかり過ぎるようになった。」というが、それは親の負担のことである。教科書の作り方を少しいじれば低学力は回復できるとし、そうすれば「大きな予算措置を取らなくても」「お金はかけずとも学力は向上する」と言う。やはり教育にはお金をかけないということを前提とし、自民党的政治の教育政策のプロパガンダをつとめる。
 そしてこの人は公教育ということを誤解している。公教育とは公立の学校をいうのではない。私立の学校の教育も公教育なのだ。
 西村和雄氏、肩書きを見れば、国際教育学会長なのだそうだが、検索してみると別に国際的なものでもなんでもなく自分たちの集まりに「国際」という言葉をつけただけの組織のようだ。そしてこの組織の長を名乗っている。こういう人物が教育改革を語る人物として毎日新聞という大メディアが認知していることが怖い。
 この囲みの紹介として、前段に次のような記事がある。

 「・・・・・経済協力開発機構(OECD)の08年報告によると日本の国内総生産(GDP)に対する教育費の公財政支出の割合は3.4%で回答した28ヵ国中最低だった。不況で教育費の負担感は増し、親の所得格差が子供の教育の機会均等に影響する『教育格差』も問題になっている。・・・・・」(抜粋)。
 尾木氏の指摘といい、この記事といい子供の成長、発達、教育にはお金をかけないというこの国の特殊な仕組み、のもととなっているのは何か、である。


 


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