鏡の国のアリス:短評

鏡の国のアリスの本を読みながら短評をする

赤の騎士・白の騎士が並んで落馬:自分の落馬は自分の敗北or相手の落馬は自分の勝利(GLASS8-5)

2010-01-03 09:20:43 | Weblog
 今度はアリスの前に白の騎士が現れる。彼はアリスの側に来て落馬する。再び白の騎士は騎乗し赤の騎士と睨み合う。赤の騎士が「アリスは私の捕虜だ!」と言う。白の騎士が「私は彼女を助けに来た!」と応じる。
 戦闘規則 the Rules of Battle にしたがって二人が戦う。アリスは樹の後ろから戦いを眺め「戦闘規則って何かしら?」と自問する。

 PS1:アリスはいつも通り好奇心が旺盛である。

 「第1規則は棍棒を撃ち相手を落馬させるか、それに失敗したら自分が落馬すること」
 「第2規則は棍棒をパンチ&ジュディのように持つこと」とアリスは命題化する。

 PS2:第1規則は“棍棒を撃つ”の後に起こる出来事の完全な二分法。相手の落馬か自分の落馬。
 
 PS3:第2規則にある“パンチ&ジュディ”は19世紀、ヴィクトリア朝時代に広く流行した人形劇。海辺で開かれる。小さな箱をセットしそれが小さな劇場になる。手にはめた人形を舞台の裏から出し操る。例えばパンチは赤ちゃんのお守りを妻のジュディに頼まれるが、からきし世話ができない。あるいはパイの取り合い。それでパンチとジュディは棍棒でたたき合いの大ケンカ。他に警官、お化け、道化師、クロコダイルなどが登場。パンチは赤ちゃんを蹴飛ばし警官を殴りクロコダイルに噛まれ無茶苦茶! 第2規則は『鏡の国のアリス』(1871)が書かれた時代を証明する。

 アリスが気づかなかったがキャロルが言うには「第3規則は落馬の際は頭から真っ逆さまに落ちること」である。
 さて戦闘は両騎士が並んで落ちたとき終わった。

 PS4:棍棒の振り方の第2規則、落馬の仕方の第3規則はいわば補則である。落馬か否かは第1規則にのみ従う。
 第1規則にのみもとづくと両騎士が並んで落ちるのはどのようなケースか?
 両騎士が“棍棒を撃つ”のが時間的に異なればこの第1規則からして相手の落馬か自分の落馬の二者択一であって二人が同時に落ちることはない。
 両騎士が同時に“棍棒を撃つ”場合はどうか?
 第1規則によれば①白騎士が相手の落馬に成功すれば自分は落ちない。①-2白騎士が相手の落馬に失敗すれば自分が落ちる。
 ②赤騎士が相手の落馬に成功すれば自分は落ちない。②-2赤騎士が相手の落馬に失敗すれば自分が落ちる。
 同時に“棍棒を撃つ”場合、命題①と命題②は両立不能であり矛盾する。命題①と命題②-2は両立可能、また命題①-2と命題②も両立可能、しかしこれらの場合、白騎士と赤騎士が並んで落ちることはない。命題①-2と命題②-2は両立可能でかつ二人が同時に落ちる。
 かくて第1規則にのみ従う時、両騎士が並んで落ちるのは、両騎士が同時に“棍棒を撃つ”場合で、しかも、ともに相手の落馬に失敗し自分が落馬した場合である。

 二人が並んで落ちたとき、戦いが終わる。二人は握手し赤の騎士が立ち去る。

 PS5:赤の騎士はなぜ立ち去ったのか?戦闘規則の中に勝敗の規則はない。赤の騎士は自分が落馬したので自分の敗北と考えた。アリスを捕虜にせず彼は立ち去る。(白の騎士も落馬したのだから、赤の騎士は自分の勝利と考えることもできたはずである。)

 白の騎士があえぎながら「栄光的な勝利だったではないかね?」と言う。アリスが「そうかしら?よくわからない!」と疑わしそうに答える。

 PS6:アリスは賢い。白の騎士は相手が落馬したので自分の勝利と考えた。(しかし白の騎士も落馬しているのだから、自分の敗北と考えてもよい。)
 
 PS7:“赤の騎士の落馬かつ白の騎士の落馬”という同一の事態を、赤の騎士は自分の敗北(相手の勝利)と解釈し、白の騎士は相手の敗北(自分の勝利)と解釈した。解釈は逆なのに結果が幸運にも一致して戦いは終わった。
 しかし事態を赤の騎士が相手の敗北(自分の勝利)と考えたら戦いは終わらなかった。


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