教育相談室 かけはし 小中連携版

ある小学校に設置された教育相談室。発行する新聞「かけはし」が、やがて小・中3校を結ぶ校区新聞に発展しました。

夏休みに家族の一員としての仕事分担を 2008年

2008年07月22日 | 子育て
 つい先日、愛知で中学2年生によるバスジャック事件が起こりました。犯行の動機を新聞は、「父親から彼女との交際について注意されたことを恨み、親を困らせてやろうと思った」と伝えていました。イタリア・フィレンツェ大聖堂への大学生の落書きが話題にもなりました。どちらも幼稚な行動が目立ちます。

 保護者の皆さんは、大人へのステップをどのように歩まれたでしょうか。私の場合は「まき割り」の仕事を任された小学校4年生のとき、少し大人になった気がしました。まきをまっ二つに割るという爽快感以上に、それまで手に触れることのできなかった斧という刃物を任されたことが嬉しかったのだと思います。中学校2年生の冬休みには、祖父の営んでいた食料品店を手伝うため、夜明け前から福島区の中央市場で働きました。初めて手にした給料袋(給料明細書も入っていた)には、お年玉とは全然違う重みがありました。自分の働きが社会で認められたように思えたのです。ふり返れば、私の子ども時代には、手伝いを通じて大人に近づくステップを親や社会からたくさん与えてもらっていたと思います。

 現代は子どもが大人になるきっかけを掴みにくい時代だと言われています。大人になるというのは、誰かに頼る割合を少なくし(お互いが支え合っているのでゼロにはなりません)、周囲の人を支え合える存在になるということです。学校での係活動や掃除活動、家庭での家事分担のように、誰かの為に働くことを積み重ねる中で、責任感・計画性・協力・優しさなどの社会性を身につけ、大人に近づきます。数学の因数分解が解っても、英語が話せるようになっても、それだけでは大人にはなれないのです。

 右の記事は1998年7月の朝日新聞投書欄に掲載された記事です。「実際に手を動かさずして・・・家族への感謝の心、いたわりの心も育たないであろう。」という一節に深く納得し、いろんな場で紹介してきました。(『かけはし』では2度目)バスジャックを行った少年も、もっと思い起こせば医師である母親と弟妹を殺した奈良県東大寺学園の生徒も、家族から、何よりも母親からたくさんの愛情を受けていたはずです。しかし実際に手を動かさなければ、家族の愛情を感じる心も育たないのです。いつも「してもらっている」子どもは、感じる心が麻痺してしまいます。甘いものを食べ続けると、舌の感覚が麻痺するように。麻痺した舌には、いつもは美味しいはずのコーヒーも苦く感じるのです。

 いよいよ夏休みです。遊びも、クラブ活動も、学習も頑張って欲しいと思います。しかし、子どもたちが家族のため何か一つでも家事(仕事)をする、そんな経験を積ませてみてはどうでしょうか。