へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

かっこわりぃ

2009-08-16 22:37:52 | へちま細太郎
こんばんは、へちま細太郎です。

ぼくは、背中に近衛少将さんを連れて、須庭寺に行った。
須庭寺では、藤川家の大法要が行われていて、のぶちゃん先生とけんちゃん先生も暑いのに、黒い服をきて法事をする大きな法堂の中でかしこまっていた。
「さてもさても、うらやましきことよのぉ」
背後で近衛少将さんがぶつぶつ。
「毎日お経あげて欲しいわけ?」
「そうは申しておらぬ」
法堂の入口近くには、関ヶ原と鳥羽伏見の二人のおじさんが 神妙な顔をして座っていた。 そうか、家臣だったもんな。
ってことは、
「あ~いたよいた」
美都田吾作が殿様のかっこをして、歩き回っていた。
「あれが美都田吾作か、ほんとにくそじじいであるな」
近衛少将さんは、ふんと扇のこちら側で鼻を鳴らした。 それを聞き付けたのか、美都田吾作がやってきて、
「こりゃそこのひな人形、無礼を申すな」
と、近衛少将さんに文句をつけてきた。
「何を申すか、主上の側近く仕える近衛少将に対し、無礼を申すでない、まろはこれでも公卿であるぞよ、藤川家は従五位上であろうが」
「何、ひな人形、近衛少将とて同格であろうが」
「まろは従四位上じゃ、何せ父親が右大臣であった故の」
ほ~っほっほっほっと高笑いをして、扇を閉じると美都田吾作さんの頭をぱきんと叩いた。
「この痴れものめが」
ひぇぇ
近衛少将さん、居丈高に踏ん反り返り、日本一有名な殿様を馬鹿にしまくり。 一方の田吾作さんは、死んでからもちやほやされてるせいか、この仕打ちに真っ赤になって怒っている。
「身分は身分じゃ、そこへ控えておじゃれ」
ひぇぇ、と“ムンクの叫び”になった関ヶ原と鳥羽伏見のおじさんたちと吾助どんと治兵衛どんが、騒ぎを聞き付けて飛んできた。
「これ、そこなものども、まろがついておるのじゃぞ、この痴れ者に頭なぞ下げてはならぬ」
田吾作さんはここまで言われても、言葉が返せない。
「まろは常日頃、このまろが血を伝える子孫たちが、なにゆえまろより身分低きこの者に頭を下げねばならぬのか、非常に許しがたきことと思うておったのじゃ、いや、思うことをいうて気が済んでおじゃる」
美都田吾作さんは、無礼うちにしようと刀に手をかけたが、
「殿、おやめくだされ、少将様もすでにこの世の者ではございませぬ」
と、とめられて怒りの矛先を向けようにも、文句を言った本人が自分より身分が高いときては、どうしようもない。ぼくに気がついたのかぼくに視線を向けてきたが、
「ほれ、お守り」
とぼくは棒斐浄寺の尼さんから貰ったお守りを見せた。
「美都田吾作に効き目抜群だって」
「なあんじゃと?」
「田吾作さんて、人参嫌いなんだって?だあめだなあ」
棒斐浄寺の尼さんが、お寺にあった日記を読みあさって、この天下の食いしん坊万歳が、実は人参が大の苦手だったと、突き止めたんだ。
「文句なら、尼御前さまに言ってね」
ぼくは怒り狂う美都田吾作さんを見て、くすっと笑ってしまった。
「このこわっぱめが~」
と、頭に血が上ってしまったのか、田吾作さんはその場にひっくり返ってしまった。
子孫(副住職)の敵を先祖でうつ、なあんてことを考えて、法堂の中でお経をよんでいる副住職の顔を思い浮かべていた。
「ほ~っほっほっ」
近衛少将さんの高笑いは、まだまだ続いていた。


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