へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

住職様のプロポーズ

2011-10-16 14:31:09 | へちま細太郎

副住職だ。

棒斐浄寺の修復がようやく終わり、姉の京(みやこ)がやっと帰ることになった。
俺には実家にはもう一人姉がいて、こっちは婿養子をもらってあとを継いでいてくれる。
そんな異色の藤川一族が集合して須庭寺で、恒例のお彼岸の大法要が行われた日のことを話そうとは思うが、これがまたとんでもない騒動の発端となった。
法要も終了し、本堂の縁側でのんびり茶のみをしていた場違いな客人のシスター百合絵は、一族の奇異な視線も何のその、バカ殿の甥や姪たちの相手をしていた。
法華のところの子供たちも大きくはなったが、また腹がでかくなっているのには驚いた。
「あんた何人子供を作る気だ」
と、聞けば、
「だって、いつも間に合わないんだもん、しょうがないじゃない」
と、あけすけな返事が返ってきた。
「最初からつけろ、バカ女」
「あんたと違って、体力あるんだもんしょうがないじゃない」
なんてこと言いやがるんだ、この女。
「ヤルだけ男のあんたと違う」
「うるせえ、そういうおめえだってヤルだけ女だろうが」
と、聞かれたら非常にまずい会話の途中で、住職の咳払いが聞こえた。
「おまえら、こういう話題は別な場所でしてくれんかな、百合絵さんが赤面している」
「あら、ごめんなさい」
さすがの法華も恥らっている。シスター姿の百合絵さんには、かっ飛び女の法華もかなわないか。
「な、なかなか藤川一族もおもしろかろう。うちの婿もな、娘と本堂でやらかしおってな、そこをひっつかまえて跡取りにしたんだな。本当は孝禎にやるつもりだったんだが、このバカの手がついてしまったもんでな」
住職め、本家乗っ取りを謀っていたのか。
「あら、でも孝洋さまもなかなかのお殿様ぶりではございませんの」
「そういってくれると、不詳の仏弟子も浮かばれるというもの」
死んでねえから
それに、殿様じゃねえし
「で、百合絵さんも神の花嫁になる前には、数ある結婚話もあったろうに」
「いえ、わたくしはご存じのように京さまにあこがれておりましたので」
なに?と、法華が怪訝な視線を向けてくる。
あとでな、と耳元でささやくと後ろからいきなり頭を強打された。
「何すんだ、てめえ」
と、まだまだヤンキーな俺はふりむきざまどついたやつを確かめもせずぶん殴れば、
「あら、またやきもちやいて」
と、法華が自分の亭主を助けようともせずに笑う。
「法華は俺のもんだ」
この唐変木野郎は、くそまじめな顔をしている割には、気が短く嫉妬深い。
「また従妹同士だ。文句言われる筋あいはないわ」
と、俺は意に介さない。
うすらでかい唐変木は、ごちょごちょと文句を言っていたが、俺たちが自分を無視して住職と百合絵さんに視線を移したので、口ごもるのをやめる。
「そうか、その年で生娘とは貴重なものだの」
おいおい、僧籍にあるまじき発言だろが。
「あら、わたくし神にすべてをささげてまいりましたから。ですが、やはり京さまに心を残していた自分は、もう神の花嫁でもありませんわ」
唐変木も目ん玉をひん剥いている。
「そう思うのなら、どうだ、ここいらで還俗をしてみてだな、拙僧の嫁になってはくださらんか」
え゛っ。
「住職さま」
「ばあさんが死んで、もう10年になる。許してもらえると思うんだが」
硬直している俺たちを見て、けんちゃんが、
「なんだ、どうしたんだ?」
と、声をかけてきたが、次の言葉に面食らってこいつも硬直。
「まだまだ、元気だぞ。かくいう拙僧も藤川家とは浅からぬ縁がある。男としては立派に役に立つうえに、子づくりも可能だ」
「ま
百合絵さまはぽおっと頬を赤らめた。
「ヤルだけ婿とは違うぞ」
法華たちが一斉に俺を見たが、俺は唖然だ。
「頼む、結婚してくれ、俺は、百合絵さんに惚れたんだあ」
ひえええええええ。
百合絵さんに向かって土下座をした義父の、年も住職の地位も脱ぎ捨てた、男の一吠えは、境内中にこだましたのであった。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿