宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

稲垣足穂『一千一秒物語』(その9)(41)「月のサーカス」、(42)「MOONRIDERS」、(43)「煙突から投げこまれた話」、(44)「TWILIGHT」、(45)「黒猫を射ち落した話」

2023-06-12 15:42:39 | Weblog
※稲垣足穂(イナガキタルホ)(1900-1977)『一千一秒物語』(1923、23歳)
(41)「月のサーカス」
A  すべてのものがガラス箱に納まってシーンとしている深夜、「ゼンマイ仕掛の木馬」が沢山走っていく。追っかけると公園前の大きなテント張り(「サーカス」)の中へはいってしまった。
B テントの隙間からのぞいたが、ガスのようなものが立ちこめて、その上アセチレンの灯が暗いのでよくわからなかった。忍びこんで行くと、きれいなビラを貼ったトランクが積み上げてあった。
B-2  近づいたとたん、その下から「黒いもの」が躍り出して自分をハネ倒した。テントの中がにわかに混雑して、「小屋馬車」が幾台も幾台も自分の上を通りぬけて行った。
C  気がつくと何もなくなって、むこうのホテルの上に青い「月」が照っていた。
《感想》①まるで《たぬき》に騙されたような話だ。②サーカスの「ゼンマイ仕掛の木馬」・「黒いもの」・「小屋馬車」等々は、「月」が《魔術》で生み出した客観的事実か、あるいは主観的な《幻想》か?③稲垣足穂氏は「月」が好きだ。

(42)「THE MOONRIDERS」(月の騎士隊)
A 月が高く昇った刻限、どこからともなく「白い仮面の騎士隊」があらわれ、音もなく街を駆けて、又月影のさゆらぎの中へ消え失せてしまうということをきいた。
B  その夜の一時頃、はるかの街かどを一散に廻ってゆく「白い一隊」を見た。
C  自分は、さっそくモーターサイクルにまたがって追っかけた。「白い一隊」は公園を横切り、高架線のレールにそうて走りながら郊外へ進んだ。
C-2  が、とうとうそのゆくえを見失ってしまった。
D 帰ろうとして広場のほうへ廻ると、そこに「白い騎士」が集まっていた。モーターサイクルのブレーキをかけようとするうちに衝突した!自分はトンボ返りを打った・・・・・・
D-2  モーターサイクルの下敷になった自分が起き上がると、はるか野の果ての木立へ、「白い一隊」の駆けこんでゆくのがチラッと見えて、露にぬれた草の上には、「白い、何にもかいてないカード」が「一面に落ちていた」。
《感想》①「白い仮面の騎士隊」・「白い一隊」はいったい誰or何か?②「白い、何にもかいてないカード」は何か、またなぜ「一面に落ちていた」のか?③これらの出来事は、《魔術》が生み出した客観的な事実か、あるいは主観的な《幻想》か?

(43)「煙突から投げこまれた話」
A ある晩、三角屋根の上に猫の眼が一つ光っていた。
B  「どうしてもうひとつ見えないのであろうか」と首を傾けたとたん、ヤーッという懸声がしてからだが浮き上がった。眼下に月に照らされた屋根や植込みや白い道が恐ろしい速さで廻って行った、と思ったらドシン!と煙突から家の中へ投げこまれた。
《感想》①「猫の眼が一つ」で「もうひとつ見えない」のはなぜか?②「ヤーッという懸声がしてからだが浮き上がっ」て、自分が「屋根や植込みや白い道」の上空まで達したのはなぜか?(ア)《念動力》または《念力》(サイコキネシス)か、あるいは(イ)《騒霊》(ポルタ―・ガイスト)の仕業か?③これらの出来事は、《魔術》が生み出した客観的な事実か、あるいは主観的な《幻想》か?

(44)「A TWILIGHT EPISODE」(黄昏のエピソード)
A  ある夕方、「電燈がともらなかった」ので人々がさわいでいた。自分は自転車に乗って、電燈会社に交渉に出かけた。
B  電燈会社の事務所も発電所も無人だった。
C  発電所は粉のようなものが一ぱい充ちて、何事だろうと中に入ると、バタバタと音を立てて鳥みたいなものが頭の上を通って、トワイライトの方へ低く飛んで行く。
C-2  帽子で叩くと、パタッと落ちてガラガラとあがき廻った。「バネ仕掛の蛾」だった。同時に街にパッと灯がついた。
《感想》①「バネ仕掛の蛾」が、どのようにして「電燈がともらなかった」ことの原因になったのか?因果連関が不明だ。②これらの出来事は《魔術》が生み出した客観的事実か、あるいは自分の主観的《幻想》か?

(45)「黒猫を射ち落した話」
A 夜中に眼をさますと、部屋の「電燈」が「消えて」廊下のほうに「ともって」いた。スイッチの所へ行ってみたが、何事もない。ハテとふり返るとこんどは廊下が「真暗」になって、何かコトコトいうものがある。
B 部屋に戻ってローソクをつけようとすると、「頭の上をスレスレに窓の外へ抜けた」ものがある。
C 「亜鉛(トタン)屋根の上を逃げてゆく」音がしたのでピストルを射つと、ヒラヒラと落ちた。懐中電燈で照らしてみると、煉瓦の歩道の上に「ボール紙製の黒猫」が落ちていた。
《感想》①「電燈」があちこち「ともって」いたり「消え」たりすることと、「ボール紙製の黒猫」の因果連関が不明だ。②「ボール紙製の黒猫」がなぜ、生きているかのように「頭の上をスレスレに窓の外へ抜けた」り、「亜鉛(トタン)屋根の上を逃げてゆく」ことができたのか?③これらは客観的な《魔術》か、あるいは主観的な《幻想》か?

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稲垣足穂『一千一秒物語』(その8)(36)「水道へ突き落とされた」、(37)「月をあげる人」、(38)「THE MOONMAN」、(39)「ココアのいたずら」、(40)「へんなものが通った」

2023-06-12 10:57:16 | Weblog
※稲垣足穂(イナガキタルホ)(1900-1977)『一千一秒物語』(1923、23歳)
(36)「水道へ突き落とされた話」
街を歩いていると足の下から「棒のようなもの」が飛び出して自分を突き飛ばし、むこうのかどを曲がってしまった。「水道(マンホール)」の蓋が開いていたので、のぞこうとすると、「うしろから突き落とさ」れた。頭の上で蓋がしまると、「家」へ帰っていた。
※①自分を突き飛ばした「棒のようなもの」は何か?
※①-2 自分をマンホールに「うしろから突き落とし」たのは誰or何か?
※①-3 「水道(マンホール)」の蓋がしまると、そこは「家」だった。これは《瞬間移動》《テレポーテーション》だ。
※①-3-2  なお《ワープ》は超高速航法、すなわちSFで、宇宙空間のひずみwarpを利用して瞬時に目的地に達する航法のことだ。

(37)「月をあげる人」
ある夜おそく公園のベンチのうしろの木立で「人声」がした。「大いそぎでやろう。」カラカラと「滑車」の音がして、「赤い月」が昇り出した。「OK !」そこで「月」は止まり、それから「歯車」の音がして、月は動きはじめた。自分は木立のほうへとんで出たが、只の月の光が落ちて、夜風の音ばかりだった。
※②「赤い月」は不吉と言われる。
※②-2 「月」は「滑車」と「歯車」で昇り・動く。それらは「人声」を発する妖しい者たちによって操作される。

(38)「THE MOONMAN」(「月の人」)
ホフマンスタールの夜景に昇った月の中から人が出てきて、丘や、並木道を歩きまわって、頭の上に大きな円弧をえがいて落ちる月の中へ、再びはいってしまった。その時パタン!という音がした。「月の人」とは、ちょうど散歩から帰ってきてうしろにドアをしめた「自分」だった。
※③ホフマンスタール(1874-1929)はウイーン世紀末文学の詩人・劇作家だ。
※③-2 「自分」が自分(「月の人」)を見ている。「月の人」は《自己像幻視》あるいは《ドッペルゲンガー(二重身)》だ。
※③-3「月の人」は、昇り始めて地上に接している「月」から(地上に)出て来て、地上に接して沈む「月」の中へ(地上から)帰っていった。「月の人」は合理的に行動する!

(39)「ココアのいたずら」
ある晩、ココアを飲もうとすると、ココアの中からゲラゲラと笑い声がした。びっくりして窓の外へほうり投げた。庭へ下りて、闇の中で白く見える茶碗らしいものを、いじろうとしたらホイ!という懸声(カケゴエ)もろとも屋根の上までほうり上げられた。
※④「ココアの中で笑っていた」のは誰か?「ホイ!という懸声(カケゴエ)で自分を屋根の上までほうり上げた」のは誰か?
※④-2 「ポルターガイスト」(Poltergeist)(騒霊)は、原因不明の飛石,物体の移動,叩音(コウオン)発生,発光,発火,湧水など,通常では説明不能な物理的現象を起こす。

(40)「電燈の下をへんなものが通った話」
ある晩、ぼんやり考えごとをしていると、電燈の真下を、半分すきとおった長方形のものが、ゆらゆらとコンブのようにゆれながら通って行った。そのことに五分間ほどあとで気がついて、ギョッとして部屋からとんで逃げた。
※⑤「半分すきとおった長方形のもの」は蒟蒻に似る。薄く切った蒟蒻なら「ゆらゆらとコンブのようにゆれる」。ただし「通って行った」から意図的に行動する。

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