窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

第10回ネゴシエーション研究フォーラムに参加しました

2016年04月24日 | 交渉アナリスト関係


  4月22日、日本交渉協会主催の第10回ネゴシエーション研究フォーラムに参加してきました。



  今回の講師は、ワールドクラスパートナーズ株式会社・代表取締役であり、日本交渉協会の特別顧問でもある大森健巳先生。「ジョイント・ベンチャーと交渉~交渉を通じ、いかにパイを広げていくか~」と題してお話いただきました。

  1994年にノーベル経済学賞を受賞したジョン・ナッシュによれば、「二つの集団が協力すると、しなかった場合に比べほぼ必ずパイが大きくなる。双方の利益は、単独で得られる利益を上回る」のだそうで、彼はこれを数学的に証明しました。

  余談ですが、2001年のアメリカ映画「ビューティフル・マインド」はナッシュ教授の半生を描いた作品です。

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  とはいうものの、協力した方が良いと分かっていても協力できない、あるいは対立してしまうことが現実に数多く存在します。非協力的あるいは対立する関係交渉によって解決することは可能なのでしょうか?今回のテーマである「ジョイント・ベンチャー交渉」とは、まさに協力関係を築くために必要な交渉の要点と言えます。

  人は何故協力するのでしょうか?人はそれぞれ何らかのニーズを持っており、またそれぞれ有形無形の資産を持っています。自分にとって大事なものと相手にとって大事なものとの間には必ず差があります。そこで互いの持っている資産を交換することで互いのニーズを満たすことができれば良いのですが、必ずしも自分が常に相手のニーズを満たす資産を持っているとは限りません。故に、その資産を持っている誰かと協力する必要が出てきます。それが、本講でいう「ジョイント・ベンチャー」ということです。

1.ジョイント・ベンチャー交渉3つのステップ

①ニーズを満たす資産を持っている者は誰か?
②その人のニーズは何か?
③互いのニーズと資産の交換

  ピーター・ドラッガーは、「組織は本業に焦点を合わせ成果を上げて収入を得る。他の仕事はアウトソーシングする」と述べていますが、まさにそれが本講でいうジョイント・ベンチャーを言い表しているかもしれません。

  また、ジョイント・ベンチャーとは、言い換えれば戦略的提携のことでもあります。提携することで、パイを奪い合うのではなく、分け合うパイそのものを大きくすることができます(統合型交渉)。パイが大きくなり、得られた取り分が元の取り分より大きければ、たとえ大きくなったパイの取り分が少なかったとしても、その交渉は成功なのだと考えます。

2.ジョイント・ベンチャーの鉄則

①関係の力を知る
②強い相手と組む

3.ジョイント・ベンチャー交渉の三大原則

①目的・目標を明確にする
②ジョイントする相手のことを知る(ニーズ、資産)
③ジョイントする相手が行動する理由を知る(行動しない理由をなくす)

  自分が感じる価値やルールと相手が感じる価値とルールは異なります。自分の解釈は事実ではなく、意見に過ぎません。大切なのは、自分ではなく「相手の認識」であり、相手の価値とルールを使うことだそうです。この原則の大切さの事例として、第9回ネゴシエーション研究フォーラムでも登場した、ペンシルバニア大学ウォートン校のスチュアート・ダイアモンド教授の南米コカイン栽培業者をバナナ農家に変えた事例が紹介されました。

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4.関係の線

  1対1で話をしていた時にはまとまりかけていた交渉が、相手に影響を及ぼす人物が加わっただけで破談になるというようなことは、現実によく起こることかと思います。交渉を上手く進めるためには、交渉当事者とそこに影響力を及ぼす相手を含めた「関係の線」を理解することが大切になります。1対1の交渉の場合、関係の線は1本です。しかし、関係者が一人増え、3人になると関係の線は3本に、4人になると関係の線は6本に増えます。人数が増えるほど関係と交渉は複雑になります。

5.「私」ではなく「我々」



  上記の表は、スキルの高い交渉人と平均的な交渉人の交渉態度の違いを表したものです。スキルの高い交渉人は相手との共通の土台を作ることに圧倒的な時間をかけ、長期的視野に立ち、共に問題を解決していこうとする姿勢であることが分かります。スキルの高い交渉人は、主語も「私」ではなく「我々」を使うとのことです。相手に「我々の共通の問題は何でしょうか?」と聞くことは全く問題なく、むしろ極めて重要なことだそうです。

6.「感情」→「理性」→「価値創造」

  あらゆる交渉は感情的なものとして始まります。最も避けなければならないのは相手に脅威を与える言葉、つまり「脅し」だそうです。脅威は相手の感情を刺激し、必ず報復を招きます。また、人は感情的になると判断力が低下すため価値創造の妨げになります。したがって、交渉ではまず、相手の感情面に対する努力(これをスチュアート・ダイアモンド教授は「感情のお見舞い」と呼んでいます)が必要になります。この段階で正しいか否かの議論は意味を成しません

7.交渉段階:提案の5つのステップ

①なぜこの提案が「自分たち」に収益をもたらすのか?
②この提案を実行するにあたり、「自分たち」に何かリスクはないか?
③「自分たち」が多くの収入を得られると証明できるのか(ブランドがあればなお良い)?
④その提案をすることで、既存の収益源と競合する可能性はあるか?
⑤その提案が成功するという保証はあるか?ない場合は、成功しなかった場合の対策も用意する



  最後に、本講義のまとめとして、参加者の具体的事例を用いた即興の交渉過程が示されました。しかし、それ以上に、先生の話し方自体が、「ジョイント・ベンチャー交渉」そのものの体現であると感じました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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