窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

第20回ネゴシエーション研究フォーラムに参加しました

2023年07月31日 | 交渉アナリスト関係


 2023年7月29日、品川区の文化コミュニティ施設「きゅりあん」で、オンラインとのハイブリッドで行われた、第20回ネゴシエーション研究フォーラムに参加しました。

 今回は、メンタルプラス株式会社代表取締役、和田隆様より、「パワハラを解決する心理学的手法~対人関係トラブルの理解と対応方法~」と題してお話しいただきました。和田様は元々サラリーマンでしたが、働けば働くほど自身の元気がなくなっていく、周りもうつ病になっていく人たちなどを目の当たりにして脱サラを決意。職場のハラスメント防止とメンタルヘルス対策をテーマにこれまで3,000回以上の講演、5万人以上の支援をされ、メディアにも多数ご出演されています。

 今回のお話は、

1.パワハラの本質と構造を理解する
2.関係のマネジメント

の二点です。

1.パワハラの本質と構造を理解する

 今回は数あるハラスメントの中でも「パワハラ」がテーマですが、ハラスメントの中でも突出して多く、10年連続で1位なのがパワハラなのだそうです。特に、パワハラとして認められる事実が存在するかという以上に、「パワハラを受けたと感じている」人が増えているという点に注意が必要です。というのも、ストレスに対するダメージの受け方、耐性が世代によって異なっており、そのギャップに対する認識のないことがパワハラを受けたと感じる人を増やしている可能性があるためです。

 何がパワハラなのか?については厚生労働省による「職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為」という定義があります。ポイントは、

①背景:優位性
②手段:違法・不当行為
③結果:ダメージ(身体・精神)

の3点であり、これらが揃うと、パワハラになる可能性があります。

 一つ目の「優位性」については、ほとんどの組織で上下関係は厳として存在し、無くすのは難しいと思います。また、上下関係を無くすということは権限と責任を平準化するということでもありますから、多くの組織でそれが望ましいとも言えないでしょう。逆に、三つ目の「精神的・身体的苦痛を与えるまたは職場環境を悪化させる行為(ダメージ)」、これはある程度まで取り締まることができるように思われます。「ある程度まで」というのは、二つ目の「業務の適正な範囲を超えている(不当である)」、これが難しいためです。

 何故難しいのかといえば、そこに世代間の認識、受け止める側の耐性にギャップがあるためです。したがって、現実にも「どうしたら良いのか分からない」と、少なくない上司や部下が悩んでいるのではないかと思います。これを解消するには、「パワハラの本質」を理解しなければなりません。その本質とは、パワハラは「人間」の問題ではなく「関係」の問題だということです。ほとんどのパワハラで、どちらかに一方的に原因があるというケースはまず存在しません。そして、一人だけでパワハラが成立するということもあり得ません。したがって、原因を個人に帰しても問題は解決しないのです。パワハラとは、個人の感情が絡んだ「関係」の問題だからです。

 つまり多くのパワハラは、職場におけるコミュニケーション問題、対人マネジメントの問題なのです。よく職場で「パワハラ研修をしましょう」などと言われると、「自分はパワハラなどしていないから関係ない」と思われる管理職の方もおられるでしょう。しかし、コミュニケーションの問題、対人マネジメントの問題に全く非の打ち所がないという方はほとんどおられないのではないでしょうか?そこで、後半は「関係のマネジメント」についてのお話しに移りました。



2.関係のマネジメント

 「対人関係療法」という、対人関係に焦点を当て、そこでの感情、行動、対人関係のパターンを見詰めながら問題の解決や対処法を身に着けさせる心理学のアプローチがあるそうです。対人関係療法の主要な4つのテーマの一つに、「役割期待」というものがあります。対人関係療法では、この役割期待にズレがあると対人関係にストレスを感じると考えます。「関係」における摩擦も、この役割期待のズレに起因するものと考えて良いでしょう。

 ところが、それを相手に対する性格、人格の問題と捉えてしまうから「怒り」が生じるのです。怒りは他者に向かう感情であり、生物学的には「「縄張り(生存に必要なテリトリ)の確保」のために存在すると考えられています。テリトリを侵されると、侵入者を排除するため戦闘態勢のスイッチが入ります。一方で、怒りは目的が誰かによって不当に妨害されたと感じ、かつそれを正すために状況を変えられるという見込みと、自分が行動すればそれが可能であるという自信によって生み出されます。しかし、実際は相手を変えることはできません。変えられないものを変えられると思っているので、ますます怒りが増幅してしまうというわけです。その行きついた先が「パワハラ」です。

 ですから、まず「他人は変えられない」と認識すること。そして、問題は「人」ではなく人と人との相互作用である「関係」にあると知ること。そしてとくに組織の上下関係における問題は「役割期待のズレ」に起因すると理解することが重要なのです。

 そして役割期待のズレを解消するには、コミュニケーションをとるしかありません。具体的には、相手の感情を受け止める力、相手の話を聞く力、こちらの認識や感情を相手に伝えるだけではなく、「伝わる」力などを身に着ける必要があります。これらの力は、私たちの多くは残念ながら系統立てて学んできていません。

 このことは交渉についてもそのまま当てはまります。交渉学の基本的な原則に「立場にとらわれるな、常に『関心』に焦点を合わせよ」というものがあります。人は何らかの問題があり、それを解決するために交渉するわけですが、その問題に対して交渉をする人がとる要求や提案を「立場」と言います。一方、交渉を通じて達成したい目的や満たしたいニーズ、利害のことを「関心」と言います。人はとかく表面的に見える「立場」に囚われがちなので、しばしばその根底にある「関心」に目が向けられないままに終わります。これが交渉合意を妨げる、あるいは満足度の低い合意に終わる要因であり、先の「役割期待のズレ」と同じです。

 交渉学では、そうした「ズレ」を解消するための様々なアプローチを学ぶことができますが、その多くも今回の対人関係療法におけるお話しと一致するものです。つまり、交渉学は「パワハラが生じている環境」の改善にも役立つものであるかもしれません。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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