窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

負けない交渉実践事例-第58回燮(やわらぎ)会

2022年12月12日 | 交渉アナリスト関係


 2022年12月2日、オンラインによる第58回燮会が行われました。燮会は日本交渉協会が主催する交渉アナリスト1級会員のための勉強会です。

 今回は二部構成。第一部は、1級会員の高瀬誠さんより「負けない交渉実践事例」と題してお話しいただきました。高瀬さんは2017年11月18日に行われた「第12回ネゴシエーション研究フォーラム」でも講師をしていただいています。

 さて、初めに参加者であるケースを読みました。時代は35年前のバブル期。父親から引き継いだ店の立ち退きを大家から迫られ、立ち退き料交渉にいわゆる「地上げ屋」が乗り込んできたというお話です。ここで言う地上げ屋とは、この時代に横行し、今でも悪いイメージが付きまとう原因となった人たちで、行われたのは交渉というより立ち退きを迫る恫喝でした。

 この状況にケースの主人公である20代の若者はどう対処したのか?まずは参加者から意見を出し合いました。僕などは全く想像もつかなかったのですが、さすが1級会員の皆さんは経験が豊富で的確な意見を次々出されていました。

 もちろん交渉に正解はなく、その成果は結果から推し量るしかないのですが、素人で恫喝してくる相手と対峙した主人公のとった対応は次のようなものでした。

・弁護士に相談(但し、当時店は赤字経営が続いており、主人公にはお金がありませんでした)
・交渉場所として、知人の喫茶店を選び、客の目がある13時を指定。窓を背に店の中央の席に座った。
・大家が立ち退きを求める真意が相続税の支払いにあることが分かった(支払期限があるため、相手には時間がない)。
・相手方提示額の3倍を提示し、立場を固定した。
・ただ立場を固定するだけでなく、その額を提示する正当性を示した。
・脅してくる相手にも理解を示し、自分の事情も正直に話した(いわゆる「浪花節」も含む)。

 結果的に、相手は主人公がやや譲歩したものの、ほぼ提示額に近い金額で合意しました。この主人公がとった行動には、交渉理論で扱われる幾つかの戦略・戦術が観察できます。例えば、

・ 交渉の「場」の戦略(環境、時間、対人位置):ゴフマン(1963)、ラパポート(1983)、アッカーマンら(2010)の研究では、部屋のデザインや中の椅子の配置などが人の感情、行動、解釈、交渉スタイルに影響を及ぼすことが分かっています。
・ 時間のプレッシャー:多くの場合、時間のプレッシャーは交渉者間で非対称です。焦りは迅速な譲歩や合意を生む要因となり得ます。本件では、焦りは相手側の方に強くありました。
・ 正当性:『ハーバード流交渉術』を著したロジャー・フィッシャーは、あらゆる交渉に含まれる7つの要素の一つに「正当性」を挙げています。正当性とは例えば客観的な数字による根拠などですが、説得の上で非常に重要です。霊長類学者のブロスナンとデ・ワールによると、オマキザルでさえ正当性を欠いた不公平な扱いには憤然と怒りを示したそうです。
・ 相手の受容、敬意、正直さなど。



 第二部は、「第20回交渉理論研究」。「分配型交渉の理論」の4回目、「オークションの理論」の後半についてお話ししました。今回は、1994年に米連邦通信委員会(FCC)が行った同時複数回の周波数オークションについて。同時複数回オークションを提案したポール・ミルグロムとロバート・ウィルソンは、「オークション理論の改良と新しいオークション形式の発明」の功績により、2020年にノーベル経済学賞を受賞しました。ゲーム理論を現実へ適用した成功例として有名な「FCC周波数オークション」ですが、どのような利益をFCCにもたらし、一方でどのような問題があるのか?これについて単純化したモデルを用いて検討しました。

 因みに、ポール・ミルグロムと言えば、すでに卒業した後でしたが大学時代の専攻の関係で、『組織の経済学』という電話帳のような分厚い本と格闘したトラウマに近い思い出があります。ちゃんと理解できたのかどうかは別として…。



 以上で「分配型交渉」のパートは終わりです。次回から「統合型交渉の理論」に入ります。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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