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窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

脳科学で紐解く「ウェルビーイングと経営」ー第176回YMS

2025年05月15日 | YMS情報


 5月14日、コミュニティラウンジ「Benten103」にて、第176回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。



 講師はSocial Healthcare Design株式会社、代表取締役CEOの亀ヶ谷正信様。近年よく聞かれるようになった「ウェルビーイング(Well-Being)」という概念と経営との関係についてお話しいただきました。

 ウェルビーイングとは何でしょう?WHOの定義によれば、「病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」とあります。日本語では「幸福」と訳されますが、やはり「幸福」と訳される「happiness(ハピネス)」が一時的な喜びや満足感を指すのに対し、ウェルビーイングは持続的な安定した状態を指します。

 ウェルビーイングに関する研究は、ここ20年ほどの間に、マーティン・セリグマンによるポジティブ心理学や、慶應義塾大学・前野隆司教授の幸福学などを通じて発展してきました。前野教授は、幸せについて、「長続きしない幸せ(地位財)」と「長続きする幸せ(非地位財)」の区別を明らかにしていますが、前述のように、ウェルビーイングは後者の「長続きする幸せ」にあたります。

 尤も、亀ヶ谷さんは、こうした心理学的アプローチとは一線を画し、「脳科学」からこのテーマに切り込んでいます。亀ヶ谷さんは、ウェルビーイングを「ココロとカラダとキズナの3つが満たされた状態」と捉えます。特に「キズナ」は見落とされがちですが、人とのつながりこそが安定したココロの状態を生む鍵となります。そして、「満たされている状態」は個々人で異なるため、唯一の正解というものはありません。幸せは与えられるものではなく、自分で自分を満たさなければならない。これは今回のお話し全体を貫く、重要な考え方です。

 また、一般に定義される「健康」とは「心身ともに健常なさま」をいい、そこには「キズナ」、すなわち「人間関係」の要素が欠落しています。さらに、「健常」とは「特別の異常がないこと」を指すので、心身が「満たされている」ことと同義ではありません。したがって、WHOによる健康の定義と日本語の健康の定義は以上の点においてこことなります。今回は、時間の制約上、特に「ココロとキズナ」を中心に話を進めます。前回の第175回YMSにおける睡眠のお話は、いうなればウェルビーイングにおける「ココロとカラダ」に焦点を当てたものと言えるかもしれません。因みに「キズナ」とは、人間関係の中でも特に「信頼・愛着・共感などが含まれる、深く結ばれたココロのつながり」を指しています。つまり、人間関係は「ココロ」を介在しなくても成立する場合がありますが、キズナにはそこに互いの「ココロ」が影響し合っており、同時にキズナから生まれる相互作用は互いのココロにも影響を及ぼします。したがって、ウェルビーイングであるのに「ココロとキズナ」は不可分であるというわけです。

 そしてその「ココロ」は、脳の中で生じる「思考」・「感情」・「意識」が互いに影響し合って作り上げられます。思考と感情は異なるメカニズムで働いています。思考は「認知する力」、感情は「感じる力」であり、両者が一致する状態を脳は求めています。ウェルビーイングとは、「思考と感情が一致した状態」なのです。言い換えれば、前述の「ハピネス」は感情だけが満たされた状態ということができます。たとえば、「楽しい」は一時の感情ですが、それだけでは長続きしません。

 難しいのは、人間関係が、この「思考と感情の一致」を妨げる要因となりうるということです。何故なら、カラダやココロの健康はある程度自力で整えることができますが、キズナだけは相手がいて初めて成立するものだからです。だからこそ、思考と感情が一致した「ココロが満たされた状態」であるためには、人間関係が「キズナ」に昇華している必要があります。キズナは、第1次(親・親密なパートナー)、第2次(友人・知人・親族)、第3次(職場や地域などの社会的つながり)の3層に分けられ、このうち2層以上が機能していないと、人はココロの安定を保ちにくいとされています。

 さて、このように考えると、職場もウェルビーイングの重要な舞台となります。多くの人は、人生の多くの時間を仕事に費やしているからです。また組織にとっても、個人の思考と感情が一致していない状態ではキズナの構築が難しく、信頼関係が生まれないため、生産性に悪影響を及ぼします。

 では、思考と感情が一致する状態を作り上げるにはどうすればよいのでしょうか?人は外部から入ってくる膨大な刺激のすべてを認識しているわけではありません。人間は生存のためにエネルギーを節約する必要があるため、多大なエネルギーを消費する脳は、自分にとって必要と判断した情報にだけ焦点を当て、それ以外の情報は不要なものとして削除しようとするメカニズムが働いています。「自分にとって必要と判断した情報」とは、「意識を向けた情報」のことです。しかし、人が何に意識を向けているかは人によって異なるため、同じ事物に遭遇してもそれをどう認識しているかに違いがあり、それが誤解や衝突を生む原因となります。誤解や衝突は人間関係を毀損し、思考と感情の不一致につながります。

 ある事実に対し、それをどう「意味づけ」するかは個人によって異なる上、その意味づけは無意識に行われます。しかし、組織における価値観や規範、文化や風土といったものは、個々の意味づけをある程度同じ方向に揃え(意識をどこに向かせるか?)、予測可能にすることによって誤解を生まないようにすることが可能ですが、より根本的にはやはりコミュニケーションを通じて互いを受け入れる行為が必要でしょう。

 企業経営とは、個人では到達できない価値創出を、組織という枠組みで実現する行為です。個人の成長と組織の成長を切り離すことはできず、組織の成長の前提として個人の成長がなければなりません。個人の成長段階は、自己理解と受容(内省)に始まり、他者理解と受容(傾聴・対話・共感)へと進みます。それができて初めて、組織において健全な形での協働関係の構築(チームビルディング)が可能となり、それが発展して組織パフォーマンスの最大化につながるのです。「初めに自己受容ありき」。現代人は「外に向かう意識」に偏りがちです。しかし、真の成長とは、内省を通じた自己理解の深化から始まるのです。

 この自己受容を妨げるものは「恐れ」です。恐れを克服することが自己を成長へと導きます。恐れとは未知のものに対して生まれる感情です。恐れを感じるのは単純にそれを知らないからだけだと意味づけし直すことが、学びと成長の起点となります。ただ、そのためにはその人が「恐れ」を克服できると信じ、克服する意思を持っている必要があります。そのため、組織としては適切な課題設定を行うことで、メンバーの成長意欲と内発的動機づけを促す手助けをすることができます。自己成長を感じさせる方法とは、1.できそうだと感じられる課題を与えること、2.少し頑張る必要がある目標設定を行うこと、3.自分で選択した課題・目標設定であることです。



 ウェルビーイングとは、単なる「幸せ」ではなく、「ココロ・カラダ・キズナが満たされた状態」であり、思考と感情の一致を伴う安定のことです。そしてそれは、他者との関係性の中でこそ育まれるものです。経営とは人を活かして個人では達成できない価値を生み出す行為であり、その根底には人間理解と信頼の構築があります。その点においてウェルビーイングと経営は重なり合う部分があり、昨今経営におけるウェルビーイングが注目される一因があるのだと思います。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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良い眠りが最高のパフォーマンスにつながる、経営者のための睡眠学ー第175回YMS

2025年04月11日 | YMS情報


 4月9日、コミュニティラウンジ「Benten103」にて、第175回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。

 今回の講師は、「実践型パーパス経営ラボ」の勉強会でもご一緒させていただいていた、株式会社Three jobs代表取締役の矢間あや様。理学療法士や自ら著作物の広報・PRを手掛けられた経験から、現在睡眠事業、企業の広報・PR支援、一般社団法人睡眠body協会代表理事などを行っておられます。

 過去175回のYMSの中で最長と言われるスライド数、おそらく通常3時間くらい要するのではないかという内容を1時間半にギュッと凝縮してお話しいただきましたので、以下それをまとめます。



1. 睡眠の重要性と企業への影響

 睡眠不足は、経済に大きな影響を与えます。OECDの調査によれば、睡眠不足による経済損失は、世界全体で15兆円に達すると言われており、アメリカが最も高く、日本はその次に位置しています。ところが、睡眠時間という点で見ると、日本人は一晩で平均7.5時間と、世界的にも非常に短いのが特徴です。睡眠時間と幸福度には強い相関関係があり、幸福度が高い人ほど生産性も高いとされています。したがって、企業は従業員の睡眠について、福利厚生というよりはむしろ、企業活動に必須のビジネススキルの一つと捉えるべきです。

2. 睡眠不足がもたらすパフォーマンス低下

 睡眠時間と幸福度と生産性に密接なかかわりがあるのであれば、睡眠不足は従業員のパフォーマンス低下に直結し、それは企業にとって深刻な問題です。その損失は一人当たり33万円/年、これはアルコールに次ぐと言われています。例えば、睡眠不足が原因でミスが増えることがあります。過去の大事故、例えばスリーマイル島やチェルノブイリでの原発事故や、スペースシャトル「チャレンジャー」の爆発事故なども、睡眠不足による判断ミスが引き金となったと言われています。起床後、覚醒状態のまま17時間を超えると、課題対応能力が血中アルコール濃度0.05%の酒気帯び運転レベルまで低下するそうです。また、徹夜もしくは5時間/日睡眠を1週間続けると、血中アルコール濃度0.1%相当のパフォーマンスレベルになるそうです。仕事での重大なミスや事故は、先に挙げた過去の大事故と同様、企業の信用問題にも発展しかねません。

3. 人的資本経営と健康経営やWellbeing経営の必要性

 したがって、睡眠不足の問題は、単なる健康問題ではなく、企業戦略として捉えるべきです。現代の企業では、人的資本への投資が非常に重要であり、その一環として健康経営やWellbeing経営が求められています。人的資本経営では、企業の成長に必要なスキルや知識を持った人材を育成し、維持するための施策が必要です。そのために経営者が最も重要視すべきは、何よりもまず土台となる従業員の健康であり、特によく眠ることが、生産性向上に直結します。

4. 健康経営における睡眠の役割

 健康経営では、アブセンティズム(欠勤/休業)ばかりでなく、プレゼンティズム(出勤はしているが、パフォーマンスが低下している状態)が企業経営に与える影響を考慮しなければなりません。プレゼンティズムの問題は、健康関連コストの約70%を占め、企業の成長を妨げる要因となります。睡眠不足を改善することで、従業員の健康が保たれ、結果として企業の繁栄に繋がるのです。また、こうした人的資本経営、健康経営やWellbeing経営に対する取り組みは、可視化し情報開示することも必要です。なぜなら、それがその企業に対する投資時の評価や人材確保につながるからです。つまり、このような情報発信は企業のあらゆる活動を支える土台であり、企業と内外のステークホルダーと高度な関係づくりを行うことが、真の意味での広報・PR(文字通り、パブリック・リレーションズ)だからです。

5. 睡眠の基礎知識と改善方法

 睡眠には、いくつかの基本的なポイントがあります。まず、私たちの体には生体リズム(俗にいう、体内時計)が備わっています。このリズムは24時間より少し長いため、本来の24時間のリズムに正しく調整し直してあげる必要があります。そのために、規則正しい起床時間、起床時に日光を浴びる(2500~3000ルクス以上)が大切になります。

 次に、睡眠には、記憶を整理する役割があると考えられており、また、十分な睡眠を取ることは老廃物を除去し、認知症予防にも効果があると言われています。さらに、睡眠不足による体調不良は、イライラや前述のように判断力の低下を招きます。こうした影響を避けるためにも、良い眠りが大切です。良い眠りとは、時間だけでなく「身体と脳に十分な休息を与えていること」、目安としては、寝つきが良いこと(すぐ寝落ちしてしまうのはむしろ気絶に近い、布団に入って5〜10分くらいで自然に眠れること)、夜中に目覚めない、朝すっきり目覚め、日中眠気やだるさがない(つまり、しっかり疲れが取れている)ことなどが良い眠りであると言えます

6. 現代の睡眠問題とその原因

 現代の睡眠問題の原因として、便利な生活環境により、身体を動かさなくなったことが挙げられます。朝起きて光を浴びたり、体を動かしたりすると、前述のように体内時計がリセットされるとともに、俗に「幸福ホルモン」と呼ばれるセロトニンがたくさん分泌されると考えられています。そして夜になると、体は眠りの時間だと判断し、昼に作られたセロトニンを材料として、「睡眠ホルモン」と呼ばれるメラトニンを分泌すると最近の研究では考えられるようになっています。

 つまり、昼間のセロトニン分泌が十分でないと、夜のメラトニンが不足し、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなると考えられています(など)。そうなると、脳の休息が不十分でエネルギーが不足するため、セロトニンを分泌する活動も鈍くなるという悪循環に陥るのです。そこで、先に挙げた以外にも、規則正しい生活、バランスの取れた食事、適度な運動が、良い睡眠のために重要になります。睡眠問題を解決するためには、これらを一つ一つ見直し、改善することが必要です。因みに、適度な運動とは、身体のパフォーマンスを上げる「トレーニング」ではなく、最上のパフォーマンス発揮のために身体を整える「コンディショニング」のことを指します。有史以来、人間は動物として体を動かすようにできているにもかかわらず、現代社会は体を動かさない社会になってしまった。そのことが、あらゆる心身の不調の原因としてあります。

7. 健康な睡眠を実現するための5か条

 まとめとして、矢間さんは「良い睡眠を実現するための5か条」を提案されています。

1. 一定の時間に起き、朝日を浴びる。
2. 軽い運動をする。
3. バランスの取れた食事を心がける。
4. 昼寝を取り入れる。
5. 正しい姿勢を心がける。

 これらを実践することで、良い睡眠を得ることができ、結果としてより良いパフォーマンスが発揮できるようになります。よく寝る人は幸福であり、まず自分が幸福であるから人を幸福にでき、そして幸福な人は良く寝られるという好循環が生まれます。Wellbeing(心身ともに満たされた状態)のために何より睡眠が大切である所以です。

8. 個人的課題

 最後に、公に書いてしまってよいものか?今回のお話の中から抽出した僕自身の個人的課題をまとめます。僕はまさに前述の1日5時間睡眠を続けています。すなわち、僕のパフォーマンスレベルは血中アルコール濃度0.1%、酒気帯び運転で捕まる3倍相当のようなのです。そして、確かにお話にあった以下のような症状があります。

・疲れが取れない、一日中だるい
 対処:寝不足と運動不足が原因。軽く身体を動かす積極的休息を行う
 →これは、最近早朝ウォーキングを始めたので、解消を実感しています。
・筋肉量が少ない(深部体温の低下により睡眠に影響する)
 対処:運動せよ。
・食欲が止まらない(食欲を抑えるレプチンが減少し、食欲を増進させるグレリンが増加する。セロトニン不足も食欲増進の一因)
 対処:「寝ろ」としか…。
・夕食を食べてすぐ寝る
 対処:最低2時間(理想は4時間)空ける。





繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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日頃のマナーと相互理解がペット防災につながるー第174回YMS

2025年03月13日 | YMS情報


 3月12日、コミュニティラウンジ「Benten103」にて、第174回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。



 今回の講師は、深谷建築設計室代表、一級建築士の深谷美登里様。深谷さんは神奈川県動物愛護推進員でもあり、ライフワークとして「人とペットの防災」に取り組んでおられることから、今回は「間違いだらけ?の “ペット防災”」と題してお話しいただきました。何人も災害とは無縁とは言い切れない今日にあって、ペットの飼い主はもちろん、僕のように飼っていない者にとっても役立つお話でした。

 日本列島に居住している以上、避難せざるを得ないような災害に見舞われる可能性はどんな人にもあります。そして、今やペットの数が子供の数を上回っているとも言われる今日、避難所にいるのは人間ばかりでないというのは不可避であり、その意味でペット防災はすべての人にかかわる問題であると言えます。

 人とペットが共存して避難生活を送るためには、非飼育者と飼育者の相互理解が重要ですが、その下地はまだまだ十分とは言えません。2011年の東日本大震災などの経験を踏まえ、国は「人とペットの災害対策ガイドライン」を示していますが、住民の理解が追い付かないままに規則が先行するさまに危機感を覚えた深谷さんは、それをきっかけにトラブル防止のための啓発活動を始められたそうです。具体的には、自治体が防災訓練やYoutubeなどで行っている相互理解を深めるための啓発活動に、非飼育者と飼育者双方を含む住民としての立場から情報発信の協力をされています。

本日の話、

1.「同行避難」と「同伴避難」の違い

同行避難…災害発生時に飼い主が飼育しているペットを連れて避難すること(行動)。飼い主とペットが同じ空間で過ごすことを意味しているのではない。

同伴避難…災害発生時に飼い主とペットが同じ避難所で避難生活を送ること(状態)。ただし、避難所で、ペットと飼い主が別の場所で過ごす場合もあり、その場所が屋外である場合もある。

 さらに、公式な定義とは別に「同室避難」という言葉も生まれています。

同室避難…飼い主とペットが同じ安全な室内で避難生活を送ること。

 これらの言葉の意味は日常生活の中で曖昧に、あるいは混同されて捉えられており、そのことが誤解とトラブルを生む要因となっています。国や自治体としては全国各地域で環境や条件が異なるため、避難所におけるペットの飼育環境を一律で規定することは困難です。だからこそ、曖昧な部分を自分たちで補うことで、環境改善と問題解決を図る必要があります。

2.避難所生活の現実

 前述の通り、同伴避難と言っても、ペットと飼い主が同室で避難できるわけではありません。例えば、避難所が学校で、飼い主が校舎や体育館に避難しているとすれば、ペットは校庭の鶏小屋や行事で使うテントなどに居場所を確保することになります。あるいは、屋内ではなく屋外で飼うのが通例のペットは、鉄棒などにつないで避難場所とすることもあります。その他、小型のペットはクレート(ペット用のキャリーケース)に入れます。こうした規定は、各自治体の避難場所によって異なります。

また、飼い主は協力して、

 ① 害虫を発生させない
 ② 給餌と片付け
 ③ 病気の予防
 ④ 臭いや騒音防止
 ⑤ その他の安全確保

等の対策に努めなければならないと規定されています。しかし、人間にとっても非常時である状況の中で、こうしたことを求めるのが果たして現実的といえるでしょうか?

 避難所でよく起こるペットに関するトラブルの中で多いものを挙げると、以下の通りになります。

 ① 吠え声
 ② 抜け毛(僕もです)
 ③ 臭い
 ④ いたずら(例えば人間がペットにストレスを与えてしまう場合など)
 ⑤ 事故(咬みつきなど)
 ⑥ 盗難(ペットが連れ去られる)

 これらのトラブルについて、④~⑥は、飼い主がそばにいれば防ぐことができます。しかしながら、特に多い①~③は飼い主が離れたところにいては対処できませんし、②と③は飼い主にも臭いや抜け毛はつくので、飼い主自身がその元となってしまうこともあります。ペットも災害時は怯えますし、慣れない環境でストレスも感じているのです。

3.全員にやさしい避難所に

そこで、飼育者と非飼育者で空間を分けた方がいいのではという声もあります。実際、避難所自体を分けてしまうという動きもあります。一方で、ペットの存在が避難者の癒しとなっている側面もあり、むしろ分離している避難所の方が殺伐としているという声もあります。被災者の精神衛生上、どちらが望ましいのか難しいところです。

4.今取り組むべきこと(普段からやれること)

 現時点でさまざまな問題を抱えている避難所におけるペットと人間の共存ですが、簡単ではなく少なくもない課題を解決するのに、規則を整備したり、環境を整備したり、啓発活動を行っていくことはこの先も継続的に必要でしょう。しかし、見方を変えれば、「そもそも避難所に行く必要があるのか?」と問うことで、これらの課題を減らすことにつなげられるのではないでしょうか?すべての災害状況で、必ずしも避難所に避難しなければならないわけではありません。そもそも避難する条件やタイミングを理解しているか?自宅や勤務地周辺のハザードマップを理解しているか?こうした視点も重要です。幸い、「重ねるハザードマップ」という複数の災害を重ね合わせて見られる便利なサイトがあります。日頃から手軽に点検しておくことが大切でしょう。

 ペットも避難所へは行きたくはないのです。ですから、できるかぎり在宅避難を考え、ダメなら同行避難します。しかし、その場合でも、必ずしも指定避難場所である必要はなく、親類、友人宅、ペットホテル、動物病院など様々な避難先が考えられます。指定避難場所は最後の手段と位置付けます。そのためには、日頃からのご近所づきあいや飼い主同士のネットワークづくりが大切です。

 災害支援は人命優先であり、ペットは後回しにされがちです。水、薬、療法食など人間と共有が難しいもの、特にペットに特有のもの、またペットの年齢や性格に合わせた備蓄をしておきましょう。

 災害で迷子になったペットは痩せたり汚れたりして飼い主でも見分けがつかないほど相貌が変わってしまうことがあります。これに備えて、マイクロチップによる所有者明示がお勧めです(首輪は痩せると抜け落ちてしまうことがあります)。
普段から遊びの中に取り入れ、クレートに慣れさせる練習をしておきます。クレートは一見狭いところに閉じ込めるので可哀想なように思えますが、動物の本能からすればむしろ巣穴に近く、慣れれば安心できるようです。Youtubeで遊びながら調教する動画が見られますので、参考になるでしょう。しつけやマナーを守った日常の暮らし方が、災害対策につながります。また、日頃から様々な体験をさせたペットの方が、災害時でも適応力が高いと言われています。ペットを家族だと思うからこそ、地域社会の一員であるという自覚も併せて持つべき、というのはその通りだと思いました。

 大型犬、中型犬は外傷予防のブーツ、咬みつきなど他者とのトラブルを未然防止する他、動物が苦手な方への配慮のため、口輪を用意します(今はさまざまなタイプの口輪があります)。

 また、散歩しながら、避難場所やそこまでの距離、途中の障害などを経験しておくのも良いでしょう。

 最後に、建築士の観点からペットにまつわる、建物の安全対策について。

 1.自宅の安全対策…とにかく、モノが落ちない、割れない、倒れないようにします。安全なばかりでなく、逃げる時間を確保することができ、片付けの手間が小さくて済むので、早く在宅避難に戻ることができます。

 2.家具の固定…突っ張り棒だけでなく、ストッパー、滑り止めマットとの併用が望ましいです。突っ張り棒は家具の両端、かつ一番奥に設置します。

 3.停電復帰後の通電火災予防…感電ブレーカーを設置します。後付けも可能で、そんなに高くないそうです。

 4.窓ガラス…飛散防止フィルムを貼ります。言うまでもなく、割れたガラスによる怪我防止、また窓からペットが出て行ってしまうことを防ぐためです。

 5.ベランダ…ペットが驚いて飛び出してしまわないよう、ネットを張ります。

 6.ドア…同じくドアが開いたとたんに出て行ってしまわないよう、ペットゲートを設置します。

 7.備蓄品…ペットの分も忘れないようにする。ペットフードは用意していても、水を忘れていたといったことが起こりがちです。日常生活で使用する食料や日用品を、災害時に備えて多めに買い置きしておくローリングストックや、災害時に備えて特別なものを用意するのではなく、日常生活で役立つものを災害への備えとして利用するフェーズフリーなどの工夫をします。



 これまで173回のYMSの中で、防災およびペットに関するお話はなかったと記憶しています。2010年にYMSが始まって以来、直後に東日本大震災を経験し、コロナも経験しました。この15年間で様々な環境や規範などの変化があった中、新鮮な角度で物事を捉えていくことは常に大切なことではないかと思います。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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最新のお米事情について―第173回YMS

2025年02月16日 | YMS情報


 2月12日、コミュニティラウンジ「Benten103」にて、第173回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。

 今回の講師は、有限会社初音屋代表でおこめアドバイザーの芦垣裕さん。そして何より芦垣さんはYMSの常連メンバーであり、今まで多くの興味深い講師をご紹介いただいています。ただ、大変残念だったのは、今回僕が出張のため参加できませんでした。そこで、今回のレポートは参加者からお寄せいただいたものを掲載したいと思います(ありがとうございました)。



 講師の芦垣さんは、YMSで長いお付き合いがある。昨年(2024/9/13)に著書『米ビジネス All about the rice business』を出版され、2刷重版して人気急上昇中のようだ。セミナーでも、昨年のコメ不足の話題が盛り上がり、今年はもっと危機的な状況で推移しているらしい。コメ不足の原因は複合的なもので、コメを取り巻く状況の変化のほとんどが、コメ不足の方向に向かっているけれども、政治的な理由で表面には現れない、闇の中の原因もありそうだ。


※上記の『米ビジネス All about the rice business』については、以前感想を載せておりますので、リンクからご覧ください。



 人気のある新種米について、丁寧に解説していただいた。特に、宇都宮大学の実験農場で偶然発見された「ゆうだい21」は、福島県天栄村で栽培され、「天栄米」として、数々の賞を得ている。



 セミナーは、炊き立ての「天栄米」を試食する、素晴らしいサービスで締めくくられた。「つやつや!もちもち!あまくておいしい!」というキャッチフレーズそのものの、美味しいごはんだった。



 お米をペットボトルで保存する方法、パック米の選び方、洗米しすぎずに一晩水につけるなど、秘伝のノウハウも教えていただいた。



 懇親会は、初参加者の自己紹介や、講師自身による乾杯など、和やかに盛り上がった楽しいひと時だった。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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知られざるお墓の話ー第172回YMS

2025年01月21日 | YMS情報


 1月8日、2025年最初の第172回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。



 今年から新たに、昨年5月にオープンしたコミュニティラウンジ「Benten103」さんにお世話になることになりました。



 会場には、当社のリサイクル手袋「よみがえり」シリーズが展示(販売)されていました。結構、買っていってくださるそうです。



 さて、新年最初の講師は、羽田にある株式会社鈴木石材店社長、鈴木宏和様。創業明治18年、今年でちょうど創業140周年を迎えられる老舗です。講義は、鈴木さんとYMSの竹田理事との対話形式で進みました。

Q.石材店のお仕事について教えてください。

 墓石系と建築系とがある。墓石業者が建築資材も扱うケースはあるが、逆は稀。基本的に業界が異なる。鈴木石材店は墓石9割 建築1割。

 地域性の強い業種で、営業に関しては、葬儀社、互助会、霊園との繋がりはさほど強くない。お寺については、繋がりの度合いはお寺による。霊園は公営霊園と民間霊園とがあり、公営霊園はどの石材屋でも入れるが、民間霊園は営業権を持っている石材屋しか仕事ができない。

 人材不足が課題。40年ほど前は技術継承に時間がかかることが問題だったか、現在は職人も事務員もそもそも確保することが難しい。後継者問題もある。

Q.最近のお墓事情ですが、お寺と霊園どちらが良いのですか?

 世話をしないで済むという点では、霊園が良い。お布施が明朗会計、(少なくとも首都圏では)永代使用料も霊園の方が安い。お寺の場合、同じ地域、宗派でもバラツキがある。また、同じ寺でも代が変わると言うことが変わることがある。檀家の知り合いがいるなら、聞いてみると良い。

Q. 建墓。墓石について教えてください。

 お墓を建てるのに慣れている人はいないので、なるべく数回会って話を聴くようにしている。特に、鈴木石材店は受注生産なので納期がかかる。墓石には、伝統的な和型、洋型、霊園の場合はデザイン型もある。

 近年、中国の石が大量に入ってきている(原石を中国で加工しているケースも)。石材は国産、海外産を含めると300種以上ある。中国産の墓石は、特にデザイン墓の加工賃は、国産の割増料金分だけで全部賄えるほど価格差がある。最高級の庵治石(あじいし)も近年中国への流出が見られる。

※香川県高松市庵治町、牟礼町で産出する花崗岩。硬く、加工が難しい。

 デザイン型の墓石というのは、例えば多宝塔、五輪塔など。鈴木石材店は、「回転墓誌」という戒名を沢山彫ることのできる墓誌を作成、特許を取得した。その他、キャラクター、お稲荷様、不動明王像などがある。

※キャラクターというのは、浦和駅に建っている「うなこちゃん」みたいなものでしょうか?(窪田談)


Q.お墓をリフォームするというのはどういうことですか?

 古いお墓などは、風化する石を使っていることがある。先々墓を守る子孫の目途が立っているのであれば、風化しない御影石などに切り替えれば、建て替える必要がなくなる。

Q.近年注目の「墓じまい」について教えてください。

 確かにここ数年、問い合わせは増えている。終活がマスコミに取り上げられるようになり、そこから解釈が広がった。お寺によっては名義人以外、お墓に入れないことがあるので注意。ただ、近年は後継ぎがいなくても孫が継承できることもあるし、かなり遠い親戚でも継承できる場合もある。お寺次第なので、確認してみてほしい。

 お墓のことは正直僕は考えたことがなかったのですが、かくいう僕もお墓を守る人がいないんですよね…。平成13年に福岡から転宗して祖父母の墓をこちらに持ってきましたが、僕が最後。他人事ではありません。



 お墓のお話の後は、生命力みなぎる料理と懇親会。黄泉がえりました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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2024年の感謝を込めてー第171回YMS

2024年12月13日 | YMS情報


 2024年12月11日、1年の締めくくりとなる忘年会、第171回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。

 今回は初めて、1959年創業、横浜中華街の老舗『牡丹園』さんにお邪魔しました。生憎僕は参加できなかったのですが、大変好評だったようです。参加された方からいくつか感想をいただいていますので、ご紹介します。



「大きな鯛のおかしらつきお刺身のサラダ仕立てから始まり、アワビ、ホタテ、エビ、カニ、ウニ、フカヒレなど、豪華食材の中国料理をいただき、最後のチャーハンに鯛のスープをかけていただきました。デザートもついて、とても満足・満腹です。中華街の真ん中のパワースポットのような牡丹園さん、ありがとうございました。エネルギーが充満したところで、締めのご挨拶が「ふるさと納税」の話でした。横浜から全国にふるさと納税しているのに、引き合いが少ないワーストワンだそうです。YMSの役割を再認識しました。自分自身でも、今年は中華街に納税してみます。」



「お料理が素晴らしくおいしかったです。写真を撮り忘れてしまったのですが、ウニの茶碗蒸しは必ず注文したい一品でした。来年からお世話になる、benten103さんにご挨拶頂き、次回に続くことが感じられたこともよかったです。」



「2024年の忘年会、今年から参加された新顔、久々の方にもお逢い出来、とても楽しい時間を過ごすことが出来ました。牡丹園さんのコースは、今では珍しくなった、手作り感のあるスタンダードな中華料理が並び、懐かしい思い出に浸りながら、素敵な時間を過ごすことが出来ました。まるで昭和にタイムトリップしたようなお店で、楽しいひと時、最高の時間になりました。本当にありがとうございました。」

 また、2024年のYMSは以下のようなセミナーを開催しました。

第159回(1月):中国茶を楽しむ
第160回(2月):進化し続ける「かき氷」について
第161回(2月):自社の知財を見つけるセミナー(沖縄開催)
第162回(3月):日本の田舎をどうにかしようと思ったら、東南アジアでホテル経営をしていた件
第163回(4月):ベンダーマネジメントのすすめ~ 外部のデジタルの専門家たちとどうやりとりを行えば、自社のデジタル導入がうまくいくのか ~
第164回(5月):クルージングを利用したエンゲージメント向上 /複業人材活用のすすめ
第165回(6月):エンターテインメント業界が経済に及ぼす影響
第166回(7月):発達障害が拓いたYouTube JAPANトップクリエイターへの道 〜生意気小僧を添えて〜
第167回(8月):目的はワイン、目標は3,000人。パリオリンピックを記念して、フランスワインを楽しむ
第168回(9月):非日常の体験で人生を変える『キャリアツーリズム®』
第169回(10月):経営者におすすめ!おにぎりダイエット活用術
第170回(11月):教養としての「和牛」

 14年と3ヶ月で、のべ参加者総数は3,072名になりました。すでに、2026年の講師紹介を募集しております。来年も魅力的なセミナーを多数ご用意しておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

牡丹園



神奈川県横浜市中区山下町147



繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

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みんな大好き、今が「旬」のお肉の話―第170回YMS

2024年11月19日 | YMS情報


 11月13日、NATULUCK関内セルテ 801にて、第170回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。

 昨年6月の第151回YMSで、ながさき一生さんからお魚の話をしていただきました。今回は「肉」、和牛がテーマです。和牛に関するテレビ出演やSNSによる発信で活躍されている、小池克臣様より「教養としての『和牛』」と題してお話しいただきました。

 小池さんは地元横浜市生まれ。意外なことに実家は魚屋さんでした。しかし、魚に溢れた生活を送ってきたがゆえに、ご家族みんな肉好きになったそうです。18歳の時、アルバイトで稼いだお金で焼肉屋に行くようになり、次第にその回数が増え、現在では年間和牛を食べない日は4、5日しかないとか。肉好きが高じて本業とは別の独自の道としてYoutubeチャンネル「肉バカの和牛大学」をはじめ、本も数冊出版され、和牛に関する情報発信をされています。







 特に上記の外国人向けに書かれた『THE WAGYU BOOK』をきっかけに、U.A.Eの皇太子からも助言を求められるほどになりました。



1.「和牛」とは何か?

 さて、本題の「和牛」の話に進みましょう。まず、「国産牛」についてですが、国産牛とは、生まれた場所や品種に関わらず、日本での飼育期間が最も長い牛を言い、今回のテーマである「和牛」、「交雑種」、「その他」に分類されます。国産牛の一分類である和牛と交雑種は、在来種と外来種の交配により品種改良された牛で、和牛=在来種ではありません。

 さらに、和牛は「黒毛和種」、「褐毛和種」、「日本短角種」、「無角和種」に分類されます。なお、黒毛和種は私たちにとって一番馴染みがあると思いますが、実際に柔らかく甘みのある黒毛和種は人気があり、和牛の大半を占めているそうです。逆に、褐毛和種や日本短角種は赤身がしっかりしており、希少ですが近年の霜降り肉偏重に辟易している人に良さそうです。

2.和牛の美味しさ

 和牛の特徴として、柔らかさ、肉本来の旨味、良質の脂による甘み、きめの細かな食感、とろける舌ざわり、そして香りが挙げられます。輸入牛は日本に持ってくるまでの流通過程の制約から、どうしても肉本来の旨味が出にくくなってしまうそうです。甘みに関しては、前述のように近年は逆にサシが多すぎ、甘すぎるのが逆に問題なのではないかという意見もあります。僕もこの歳になるとそれは感じます。

3.ブランド和牛

 皆さんもよくご存じの通り、全国各地には様々なブランド牛があります。このブログでも過去いくつかのブランド和牛が登場しました。

但馬牛
松阪牛
近江牛
鹿児島黒牛

おまけとして、韓国の国産牛「韓牛(ハヌ)」も挙げておきます。
韓牛

 肉牛農家は、繁殖農家と肥育農家とに分かれ、肥育農家は繁殖農家から子牛を購入して育て、食肉処理施設に出荷します。各肥育農家はそれぞれ好みの牛を調達し、独自の工夫を凝らして育てているため、同じ銘柄のブランド牛でも違いがあるそうです。また、ブランドとして一定の定義はあるものの、全国的に似たような方向を指向した結果、特徴が出にくくなっているということもあるようです。

 その中で異彩を放っているのが「但馬牛」。但馬牛は、他のブランド牛のような肥育した場所ではなく、「但馬の牛」という血統を表しています。外来種との交配を止め、但馬牛同士の交配によって品種改良を重ねてきました。有名な「神戸ビーフ」や「三田牛」は但馬牛を肥育したものだけが名乗れるブランドです。

4.美味しさを決める要素

 焼肉屋さんでアピールされている、A5ランクやA4ランクといった格付けは、どれだけ肉が採れるかという「歩留等級」と1.サシ、2.色沢、3.肉の締まりとキメ、4.脂肪の色沢と質による「肉質等級」で評価したものです。したがって、必ずしもA4よりA5の方が良い肉であるとは限りません。また、格付けされる牛の約20%がA5と評価されるそうですが、上記のようにみな似たような品種改良の方向を指向した結果、A5ランクが一番多くなってしまったそうです。

 牛肉の美味しさを決める要素は、1.性別。オスよりもメスの方が美味しいと言われ、オスも去勢牛でメスに近づけています。2.月齢。牛は26ヶ月頃成長期が終わります。これ以上は大きくならないので、経済上の観点だけで見れば、この時が屠畜のタイミングになります。しかし、肉の味を左右する、餌の影響が表れるのは、成長期が終わった後の30ヶ月~32ヶ月頃からと言われ、松阪牛の中でも特に厳選された「特産松阪牛」は、39ヶ月もの間肥育します。ただ、長く育てるということはそれだけコストがかかり、病気などにかかるリスクも高まるので、簡単ではありません。その他、但馬牛のところで述べた4.血統や5.生産者の技術(飼料、水を含む)などがあります。水について言えば、硬水の方が肉に味がのりやすいそうです。

5.良い和牛とは何か?

 結局、「良い和牛」とは何なのか?様々な声を集めると、生産者、精肉店、飲食店、消費者、またはメディアによって「良い和牛」の捉え方は異なるようです。生産者にとっては、高く売れる肉、例えば霜降りで身体が大きい牛が良いということになりますし、精肉店にとっては売りやすい肉、例えばチャンピオン牛であるとかがそれに当たります。牛の体形というのも重要なようで、話を聞いてなるほどと思ったのですが、牛にも個性があって、腹側の肉が多い牛もいれば、背中側が厚い牛もいます。



 しかし、上の図をご覧ください。牛は背中側に値段の高い部位が集中しています。つまり、背中側が厚い牛はそれだけ値段の高い肉が多く採れる、良い牛ということになります。



 ところで、神奈川県が牛に見えているのは僕だけでしょうか?

 飲食店にとっては、扱いやすい牛肉が「良い牛」ということになります。メスよりもオスの方が肉は硬い傾向にあるでしょう、一方でメスの方が脂肪が多く、用途によっては歩留まりが悪い(手間がかかる)かもしれません。消費者にとっては、美味しさ、ブランド牛としての分かりやすさ、値段と味の比例、味の安定性、購入しやすさなどが良い肉の決め手になるでしょう。そして、メディアにとっては希少性だったり、ブランドが重要になるようです。

6.焼肉(ホルモン)を知る

 最後は、和牛のホルモンの豆知識についてまとめます。



 鮮度の良いホルモンとは?ホルモンは内臓なので、消化酵素で痛むこともありますが、大抵は処理の仕方にあります。屠畜後、取り出された内臓は、水槽に入れられます。その結果、ホルモンは水を吸い、重さが2、3割増します。私たちがホルモンを食べた時肉汁だと思っているものは、実は水なのだそうです。水を吸ったものは腐りやすいという問題があります。かつては、朝どれのホルモンもあったそうですが、狂牛病が騒がれるようになってからなくなってしまいました。したがって、時間のかかる流通過程に乗る前に、いかに丁寧に処理をするかが大事になります。また、一部には水に漬けないというところもあるそうです。

 ホルモン独特の課題は、客の増減に関わらず自由に仕入れられないという点です。例えば東京都の場合、都が決まった量を割り当て、品物も選ぶことができません。できるだけ自分が望むホルモンを仕入れるためには、結局のところ人間関係がモノを言う側面があり、新規参入業者は不利ということができます。

 シマチョウ(大腸。韓国語読みでテッチャン。上の写真)の縞が伸びているのは鮮度が落ちているためではないそうです。ホルモンを洗浄する処理ラインが繁忙になると、普段休止しているラインを稼働させるのですが、そのラインの水圧が通常より強いため、縞が伸びてしまうのだそうです。

7.和牛に「旬」はあるのか?

 魚や野菜に旬があるように、和牛にも旬があるそうです。牛は暑さに弱いため、寒い時期が旬になります。また寒くなるとすき焼きなどの需要が高まるため、値段が上がります。したがって、生産者もこの時期に出荷するので鮮度が良くなるというわけです。具体的には11月から1月にかけてで、特に12月はおすすめとのこと。なお、肉牛の品評会もこの時期に行われます。これは牛耕時代の名残で、米の収穫後に品評会を行ったからだそうです。



 さんざんお肉の話を伺った後でしたが、お金のないYMSは焼き鳥屋で懇親会を行いました。しかし、小池さんのYoutubeチャンネルには、美味しそうな焼肉屋さんが沢山出てきます。是非参考になさってください。

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お米をしっかり食べて健康的に痩せる、おにぎりダイエット-第169回YMS

2024年10月12日 | YMS情報


 10月9日、NATULUCK関内セルテ 801にて、第169回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。今回の講師は、株式会社BePlus 代表取締役の小澤幸治様。「ダイエットの敵」とされがちな炭水化物である「おにぎり」をしっかり食べて、手軽に簡単に行える「おにぎりダイエット」についてお話しいただきました。



 おにぎりダイエットは、何と女性なら1日に6個、男性なら7個のおにぎりを食べながら、無理なく健康的に痩せていこうというものです。「こんなに食べても大丈夫なのか?」というのがまず驚きでした。

 ポイントは、摂取カロリー<消費カロリーの原則です。この関係が成り立っていれば、食べても自然に痩せていくのです。では、どの位のカロリーなら摂取しても良いのか?簡単な目安として、次の計算式で把握します。

①BMI(ボディマス指数)を求める
BMI = 体重(kg)÷{身長(m)×身長(m)}

 BMIが18.5未満が低体重、18.5以上25未満が普通体重、25以上が肥満とされます。男性なら22、女性なら21が標準です。現在23.8の僕は、BMI22にするには62.83㎏(標準体重)にしなければならず、5㎏ほど体重を落とさなければならないということになります。

②適性エネルギー量の計算
適正エネルギー = 標準体重 × 係数(25~30)



 僕の場合、車通勤+デスクワークのため、運動強度はかなり低いと考えられるので、係数25として、適性エネルギー量は1570.75kcalということになります。2021年(当時47歳)に体重を68.8㎏から半年で60.1㎏に落とした時、1日の摂取カロリーは平均1,055kcalに抑えていました。それを考えると、1,570.75kcalも摂取して良いのか、というのは意外でした。おにぎり1個のカロリーを200kcalとすると、確かに7個食べても1,400kcalなので摂取カロリー<消費カロリーの関係が成り立つわけです。

1.糖質制限ダイエットの落とし穴

 さて、ダイエットは長期戦であり、体重は一進一退を繰り返しながら落ちていくものなので、少しでも上手くいかないとやり方に疑問を感じ、集中できなくなってしまいます。したがって、「痩せる理論(しくみ)」について理解しておくことは、ダイエットを継続させる上で重要です。ダイエットは、①カロリー制限ダイエットと②糖質制限ダイエットに大別され、おにぎりダイエットは前者です。一方、巷で人気なのは後者の方ですが、これには大きな落とし穴があります。

 まず、糖質制限をする理由として、糖質(ここではお米)を摂取するとなぜ太るのかについてのメカニズムについて考えてみます。①糖質(炭水化物)を食べる→②グルコースとなり血糖値が上がる→③インスリンが分泌される→④グルコースを脂肪細胞に引き込む→⑤太るという仕組みです。さらに、人は食事をすると代謝量が増加します。これを食事誘発性熱産生(DIT)といい、蛋白質は摂取エネルギーの約30%、糖質は約6%、脂質は約4%を消費すると言われています。糖質制限ダイエットは糖質を制限し、蛋白質中心の食事となるため、この高い食事誘発性熱産生も利用できるという理屈です。

 しかし、糖質制限ダイエットにはデメリットもあります。一つ目は、強い空腹感。血糖値を上昇させない ため、何を食べても空腹な状態が続くことになります。満腹中枢を刺激するには、胃を拡張させる、よく噛む、血糖値を上昇させることが必要です。二つ目は、強い疲労感。糖質(炭水化物)は三大栄養素のうち最も効率の良いエネルギー源です。糖質を制限すると、脳のエネルギー源であるブドウ糖が不足し、代替エネルギー源としてケトン体を生成するまでの間、エネルギー不足のために疲れやすくなる傾向があります。三つめは、維持が難しいということです。糖質制限ダイエットは、短期間で劇的に痩せますが、リバウンドするのです。エネルギー不足により、脂肪細胞ばかりか、筋肉細胞までも分解してしまい、太りやすくなるのです。

2.カロリー制限ダイエットについて

 では、炭水化物を食べて痩せる、カロリー制限ダイエットについて。日本糖尿病学会は、減量や生活習慣病の食事療法として糖質制限食は、現時点ではエビデンスが不足しているとの見解を示しており、引き続きカロリー制限食を支持しています。おにぎりダイエットは、この日本糖尿病学会の糖尿病治療食事療法の考え方をベースにしています。

 糖尿病食には3つのルールがあります。①摂取カロリーの制限を守る、②栄養バランスを整える、③1日3食規則正しくです。①については既に述べました。② PFCバランス(蛋白質、脂質、炭水化物の比率)のことですが、炭水化物40%~60%、タンパク質20%、脂質20%~30%に抑え、食物繊維の多い食材を摂ることを心がけます。要するに、炭水化物を摂る一方、脂質を抑えるということです。前述の2021年のダイエットの際、PFCバランス(蛋白質、脂質、炭水化物の比率)はカロリー比で、平均38.4:11.6:50.0であり、悪くはなかったと思うのですが、摂取カロリーが少なすぎたようです。確かに痩せはしましたが、筋肉量も落ちてしまうのが悩みでした。日本糖尿病学会が推奨する具体的なメニューを見てみると、ご飯に焼き魚、納豆、鶏の胸肉、皿だ、キムチ、キノコ、海藻類、野菜たっぷりの具沢山味噌汁など。要するに、普通の量の和食メニューと考えて差し支えないでしょう。③については、少量を頻度よく食べるのが良く、可能なら4食や5食に分けてもいいそうです。

3.カロリー制限ダイエットの具体的な方法

 さて、僕のように好き放題飲み食いしている人がいきなりカロリー制限ダイエットに取り組むのはストレスになり、持続しない恐れがあります。今回のお話のポイントを一言で表すとすれば、「ストレスなく、難しく考えない」です。そこで、以下の①から④へと段階的に進めていきます。

①量で調整。ご飯よりむしろおかずを減らす
②お菓子・ジュースを控える
③調理方法を選択する。なるべく油を使わないもの
④おすすめの食材を取り入れる。少しずつ栄養バランスを調整する。

 現在は、写真を撮るだけで自動的にカロリーやPFCバランスを出してくれるアプリも沢山あるそうです(例えば、カロミル)。大事なのは完璧を目指そうとせず、細かいことより空腹感を起こさせないことです。したがって、もし夜お腹が空いて寝られないというのであれば、おにぎりを1個食べても良いのです。たかが200kcal程度です。 



 それから、どうしても飲み会があったりということがあります。そんな日は、前後含む3日(最大4日)で摂取カロリーを調整します。ただし、夜飲むからと昼食を抜くというのはダメで、むしろ飲み会行く前に先におにぎりを1個、2個食べる方が良いそうです。また、アルコールを飲むのは構いませんが、飲み過ぎると筋肉を分解してしまいます。度数の高い酒を飲んで、早めに酔っぱらってしまうのが良いでしょう。

 ダイエットは長期戦です。脂肪だけで体重を落とすには、月2㎏程度が限界ですので、月1㎏~1.5㎏減を目安とします。個人的に課題だと思ったのは、よく噛むこと(本当に噛まない)と適度な運動です。

4.ダイエットを継続するためのマインドセット

 ダイエットを継続するために、まず以下の5つを頭に入れておくことが大事です。

①痩せても周りに気づかれない…少しずつの変化なので、それは当然だと思うことです。
②停滞期は必ず来る…停滞期は身体の防衛本能の一つです。停滞するのは当たり前と心得、ストレス緩和のため、時にはチートデイを作るのも方法です。
④不健康に痩せなさい…ダイエットを始めるとぼーっとしたり、力が入らなかったりすることがあります。これは満腹中枢が正常稼働していないためです。だからといって、栄養失調や身体に害が及ぶことはあり得ません。
⑤やる気は続かない…ダイエットは長期戦なので、やる気を低下させる時が来ます。

 したがって、持続させるためには、①たとえ0.1㎏の変化でも褒めることです。喜びは習慣化につながります。次に、体重は一進一退で減っていくものなので、②1週間単位で一番体重の低いところで体重を比較します。短期の増減で一喜一憂しないことです。そして、③ストレス食いを防止するため、食事以外のストレス発散方法を事前に見つけておくことです。④運動をする場合、退屈な運動は続かないので、例えばボクササイズのような、ある程度複雑性を持ったものが良いでしょう。

 実は、50歳を過ぎてから覿面に痩せなくなり、今年8月半ばに人生最大の体重を記録してしまいました。そこから一時風邪をこじらせたことも手伝い、現在4㎏ほど減っているのですが、標準体重には程遠いです。月1㎏を目安とするなら、来年3月頃には標準体重を達成したいですね。そのために、今までできていたこと、できていなかったことが今回のお話でハッキリしました。コロナ禍でやめてしまったボクシングフィットネスもいずれ再開したいと思います。



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人生を変え、組織を変え、地域を変えるキャリアツーリズム®ー第168回YMS

2024年09月12日 | YMS情報


 9月11日、NATULUCK関内セルテ 801にて、第166回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。今回は、株式会社せんのみなと 代表取締役社長 高崎澄香様より、「非日常の体験で人生を変える『キャリアツーリズム®』」と題してお話しいただきました。



 僕が「キャリアツーリズム®」について初めて聞いたのは、昨年3月にZOOMでの勉強会でお話しさせていただいた時です。その時参加されていた、同社共同代表の長嶺将也さんに「ぜひYMSでお話を」とお願いしたのが同年6月、それから1年3ヶ月を経てようやく実現の運びとなりました(YMSは大抵1年先までの講師が確定しているため、どうしてもお待たせしてしまうことになってしまいます)。遠く、千葉県香取市からお越しいただきありがとうございます(Googleマップで調べたところ、「せんのみなと」さんが出てきました)



 さて、高崎さんは2021年に千葉県香取市で株式会社せんのみなとを創業。築100年の古民家を改装し、「泊れるキャリア相談所」として活用されています。元々人材紹介会社でコンサルタントをされていた高崎さん、コロナ禍で恐らくメンタルの面で休職していく人が相次ぐ状況の中、「遊びながら、事業しながら、社会に役立つ」、人間らしい生き方、人間らしい世界を目指し、古民家から組織コンサルティング、キャリア支援、キャリアツーリズム®の研究・推進を行っておられます。

 そんなお二人は、会社のパーパス、『体験と会話で生業の可能性を拡げ「ここにいて良かった」と誇れる人・社会を共創すること』を非常に大切にされています。オンライン上とはいえ、僕が長嶺さんとお会いしたのも、自分のパーパス、企業のパーパスについて考える勉強会、「実践型パーパス経営ラボ」においてでした。このパーパスがどういうことなのか、後のお話で明らかになります。

 まず、「キャリアツーリズム®」に先立ち、なぜ都会から離れた古民家に宿泊して自身のキャリアについて考えるのか?ということについてですが、「日常から離れること」に大きな意味があります。非日常的な空間に身を置き、リラックスした環境で、時にはお酒を酌み交わしながら対話する。そうすることで、日常の思考の枠組みを外れ、より深く自己を見つめたり、環境のとらえ方が転換したりすることが期待できます。

 もう一つ、「キャリアツーリズム®」に連なる大きな出来事として、2022年に、「キャリア相談だけで日本一周できるか?」という、広報を兼ねたプロジェクトを実施されたそうです。それも相談料は任意の物々交換で。それこそ缶コーヒー1本という方もいらっしゃれば、数万円という方もいたそうです。この各地を回ったことが、全国の地域事業者とコミュニティづくりを推進するきっかけとなりました。

 いよいよ、「キャリアツーリズム®」についてのお話です。そもそも人はなぜ旅をするのか、その動機や目的はそれこそ十人十色の多様な価値観があると思いますが、キャリアツーリズム®は「旅」が持つ性質を利用して、「自身でキャリアを切り拓く力を身に着けること」を目的としています。キャリア相談に旅を結びつけることで、例えば次のようなことが期待できます。

1. 物理的な移動…一言でいえば「気分転換」ですが、日常から離れた環境に身を置くことは、精神的にリフレッシュすることが分かっており、これを「転地効果」と言います。リラックスした環境に身を置くことで、普段気づかなかった本音が浮かび上がってくることがあります。僕も閃きやパラダイムシフトは、海外出張した先のホテルで起こることが多かった気がします。
2. 第三者との対話…キャリアツーリズム®では、旅先で出会う、バックグラウンドの全く異なる第三者と対話することになります。そこでは、第三者からの「問い」を通じて自己理解を深め、潜在意識下に眠っていた価値観などを顕在化していきます。例えば、都会に暮らす農業とは全く縁のない相談者が、農家の人から発せられる予想外の切り口からの「問い」により、パラダイムシフトが促される可能性があります。
3. 異なる価値観と文化…キャリアツーリズム®は一種の越境学習ですが、異なる価値観と文化に触れることは自己理解や成長を促す効果が期待できます。
4. 目指す方向性…対話を通じて、自分と組織のパーパスを明らかにします。

 この他、そもそも既存の枠組みから外れる経験をすることで、想定外のことにチャレンジできるようになります。また、受け入れる地域の方も、外部から異なるバックグラウンドを持った人々と交流することにより刺激になるようです。近年、メディカルツーリズムやウェルネスツーリズムが世界的に盛んになっていますが、将来的に「自己理解と成長、そして共創」を目的として外国人が来日するようなことにも繋げていきたいとおっしゃっていました。

 キャリアツーリズム®は、下図のような個人の行動変容のメカニズムを刺激するものと言ってよいでしょう。



 なぜ今、キャリアツーリズム®なのか?それには、日本における働き方、キャリアの重ね方の変化が背景にあります。大雑把に言えば、企業が個人のキャリアを用意し、一つの組織の中で評価されることが社会的成功とイコールだった時代から、様々な場所で経験を積み、自分自身の成功のために自ら進む形への変化です。後者を「キャリア自律」と呼んでいます。キャリア自律型の時代は、決して組織と個人が対立関係にあるのではなく、むしろパーパスを共有しながら良い関係性を築いていくことが重要になります。

 なぜなら、キャリア自律型の人は、雇用の安定性や働く仲間との関係性(これらも重要ですが)よりも達成感やパーパスへの共感、成長を重視しているからであり、そうした個人で構成される組織は、むしろ成長しやすいという関係にあるからです(下図)。





 さて、ここでワークショップを行いました。最初に個人で、以下の問いについて考えます。

問.あなたが考える理想の町についてイメージしてみて下さい。

 次に、グループで次の問いについてディスカッションしました。

問.チームで理想の街をつくるとしたら、

・どんな雰囲気で どんな人がいるか?
・何を大事にしている町か?
・その町の中であなたは何をしている人か?
・その町でやっていけないことは何か?

 後で分かったことですが、これはキャリアツーリズムの疑似体験でした。これを物理的に離れた場所に身を置き、(YMSのような知己ではなく)第三者と対話し、時間をかけて行うとさらに深いものになるということです。

 現在、キャリアツーリズム®には以下のような様々なプログラムがあります。

 宮城県三陸…「復興から学ぶレジリエンス」
 和歌山県熊野…「歩く世界遺産 歩いて自分を見つめ歴史を学ぶ」
 千葉県香取…「伊能忠敬とリスキリング」

 キャリアツーリズム®を通じた交流は、コミュニティづくり、地域創生にもつながります。こうしたキャリアツーリズム®の特徴は、以下の5つにまとめられます。

1. 旅とキャリアの研究
2. 実践的なプログラム
3. 組織開発と採用の専門家
4. 地域事業者との連携
5. 地方創生、CSR

 地方との取り組みとしては、キャリアコンサルティングの他、大学でのキャリア講義、地域おこし協力隊のキャリア支援などを行っています。一つの例として、今年、地方のまちづくりや人材の確保、PRやビジネスを通じて地域経済を創発していく「Community Branding Japan」プロジェクトが始まりました。例えば、青森市で廃棄コスメを「ねぶた祭」の山車の染料として再利用するねぶた師の支援、北海道夕張郡長沼町で、本屋減少問題に立ち向かう主婦が立ち上げた、町の小さな本屋さん「KIBAKO」の支援、空き家問題を抱える鳥取県湯梨浜町で古民家を改装したサウナを手掛ける会社のPRおよびブランディング支援などです。

 キャリア支援を行ってきた高崎さんは、その過程で培ったチーム作りの手法は、基本的にまちづくり、仕事づくり、コミュニティづくりでも同じだとおっしゃっていました。YMSも過去何度か、まちづくり、地域創生に携わる人をお招きし、お話を伺ってきました。そうした方々が有機的につながり、さらに大きな力となるといいですね。

【参考:地域づくりをテーマにした過去のYMS】
第162回:「日本の田舎をどうにかしようと思ったら、東南アジアでホテル経営をしていた件」
第152回:「地域の自立・自走を目指す伴走型支援」
第143回:「主力サービスのピボットと社名変更に至る道のり~地方創生の現状と私たちが目指す地域活性化~」
第108回:「沖縄の演劇、芸能活動を通じた地域振興の取り組みについて」

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オリンピックにかこつけて、フランスワインを楽しむ-第167回YMS

2024年08月08日 | YMS情報


 8月7日、今年で10回目を迎える恒例のYMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー馬車道十番館ワインセミナーを開催しました。

【過去のワインセミナーの様子】
2023年:酷暑にこそ合わせたい!ワインと料理のマリアージュ
2022年:真夏にガブ飲みできるスッキリ爽やかワイン
2019年:おうちで楽しめるテーブルワイン
2018年:ワインを飲んでいる時間を無駄な時間だと思うな。その時間にあなたの心は休養しているのだから
2017年:酷暑の中でさっぱり飲めるワイン特集
2016年:世界が認める勝沼甲州ワインを軸にした日本ワインとフレンチのマリアージュ
2015年:夏に合うワインと料理のマリアージュを楽しむ
2014年:注目のジャパニーズ・ワインを楽しむ
2013年:手ごろなワインと料理のマリアージュを楽しむ

 台風5号の接近に伴い、南から異常とも思える湿った空気が流れ込み、時に雷鳴も轟く蒸し暑い夜。こんな日は、冷たいワインで涼をということでいつも大変ご好評いただいています。また、今回の出席者は33名となり、YMSの延べ参加者総数が3,000人を超えました(3,001人)。本当にありがとうございます。

 さて、今年のテーマは、「目的はワイン、目標は3,000人。パリオリンピックを記念して、フランスワインを楽しむ」。オリンピックに因み、フランスワインに絞りました。ラインナップは以下の通りです。



・マム・グラン・ゴルドン(シャンパン)
・アルベール・ビジョ― シャブリ ラ・キュヴェ・デパキ 2021
・アルベール・ビジョ― ドメーヌ・アデリー メルキュレ アン・ピエール・ミレ 2020
・ドメーヌ バロンド ロートシルト サガR
・ムスカデ・セヴール・エ・メーヌAC
・ロゼ・ダンジューAC
・M.シャプティエ コート・デュ・ローヌ ブラン ベルルーシュ
・M.シャプティエ コート・デュ・ローヌ ルージュ ベルルーシュ



 また、毎年馬車道十番館さんがワインに合うお料理を提供してくださいます。今年は特にワインと料理のマリアージュが素晴らしいと感じました。

・一口オードブル パテ・テリーヌ盛り合わせ
・真鯛と桜海老のサフラン風味ピラフ
・牛頬肉の煮込み 赤ワイン風味のデミグラスソース
・鶏胸肉の蒸し焼き 夏野菜入りガーリックソース
・豚ロース肉のロースト 茸入りマディラソース
・オーストラリア産ローストビーフ開化風 野菜炒め添え
・つぶ貝と飯蛸のトマトソースのショートパスタ
・白身魚の白ワイン蒸し 海老飾り カルディナール風



 最後に、開催に際し、いつも多大なご尽力を頂いている株式会社横濱屋の山本社長、馬車道十番館の本多社長に心より御礼申し上げます。

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