goo blog サービス終了のお知らせ 

窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

ドナルド・トランプ大統領の筆跡

2025年05月21日 | 筆跡心理関係


 久しぶりに筆跡診断について投稿します。第二次トランプ政権がスタートし、彼がさまざまな大統領令に署名するシーンが度々ニュースなどで流れました。まるで剣山のような密集した刺々しい特徴的なサインは印象的で、ご記憶の方も多いのではないかと思います。ご覧になられてない方も、ネットで例えば” Donald Trump signature”というようなキーワードで検索すればたくさん出てきますので、ぜひご覧ください。

 上の動画での分析とは関係ないのですが、10年近く前に読み、このブログでもご紹介したアンドレア・マクニコルの” Handwriting Analysis Putting It to Work for You”によれば、普通に書いている文章の筆跡がその人の「本当の、私的な自己像」を反映しているのに対して、サインは「公的な自己イメージ」を表しているのだそうです。つまり、公の場で自分をどう見せたいか、他人にどう思われたいかといった「社会的ペルソナ(仮面)」を象徴しています。それには、実際に他人が自分のことをどう見ていると「自分が考えているか」も含まれます。



 したがって、ある人のサインの筆跡を分析する時、本当はその人が書いたサイン以外の文章の筆跡とも比較したいところです。何故ならそれによって、私的な自己像と公的な自己像とのギャップが見えてくるからです。

 さて、そのトランプのサインの筆跡をざっと見てみますと、何と言っても特徴的なのは、字間と語間が極端に狭く、まるで棘のように過度に角ばっている点です。これは、神経質、狭量、非開示的、厳格、柔軟性がない、かつ他人のパーソナルスペースやプライバシーを侵害する傾向であることを表しています。そして全体的に垂直ですが、やや右に傾いています。これもオープンマインドで将来指向な傾向はみられるものの、感情抑圧的で現在指向の傾向の方が強く表れています。

 筆圧は何とも言えませんが、強そうに見えます。一般に筆圧が強い人は意思が強く、自己主張が強く、積極的、活動的、極端だと好戦的と言われますが、僕などはペンがしばしば折れてしまうほど握りが強く、筆圧も強いので、自己抑圧的という解釈もあるのではないかと個人的に思っています。上の動画で、ミシェル・ドレスボルドが「筆圧が強い人は、非常に緊張感が高く、強迫的な傾向があります」と述べていますが、それですね。字の大きさは大きそうに見えますが、ジョセフ・バイデン前大統領が同じく大統領令に書いたサインと比較しても、必ずしも特別大きいということはなさそうです。因みに、大きな文字は、社会的に卓越したい、大きな名声を得たい、公の場で目立ちたいといった傾向を表しています。そして、筆記体を三本の罫線で分類した場合の、上・中・下の空間を表すゾーンについて見ると、一見Donald TrumpのD、d、T、pが上に突き出ているので、単語の一部だけが上に優勢とも思えますが、サインの場合は姓名の最初が突き出るのは普通にあることです。しかし、ベースラインから見て11文字の内4文字がいずれも上に優勢というのは興味深い点で、現実を犠牲にして空想の世界に生きている人、アイデアはあるが根拠がない人といった性質があるかもしれません。

 因みに上の動画で、ドレスボルドは、「(やはり刺々しい文字に対して)リラックスできない性質を持っている。つまり、緊張感が強く、競争心が強く、行動的で、攻撃的で、怒りを抱えている人物だと読み取れる」、「(サインの真ん中部分の文字が衝突している点に関して)これは『私に逆らうな、さもなければ、戦う準備がある』ということを示しています」と分析しており、興味深い点として「実は彼の内面は、自分が大物だとは感じていません。むしろ強い不安感を抱えていて、それを過度に補う形で外向的、自信満々に振る舞っているのです」と述べています。これは先ほども述べたように、サインは公の場で自分をどう見せたいか、他人にどう思われたいか、あるいは他人が自分のことをどう見ていると「自分が考えているか」といった「公の自己像」が現われるということを踏まえれば、十分考えられることです。「公の自己像」だからこそ、恣意的にサインをデザインしているかもしれません。



 なお、トランプのサインですが、” Handwriting Analysis Putting It to Work for You”に掲載されている、80年代から90年代初頭頃のものと思われるサインとは似ても似つかぬほど違います。同書の中で当時の彼のサインは、気取ったり自分がいかに大物か他人に分からせようとしたりする必要がない「人生で本当に成功した人」に多く見られる、非常に平均的なサインの代表例として説明されているのです。ところが、そのサインが90年代後半になると現在のような刺々しいサインへと変化が見られます。それでもまだ現在のものほど字間は詰まっていません。2015年の第1次政権発足前時点でも同様です。ところが第1次政権発足時になるとほぼ現在と同じサインになっています。これが彼の内面の変化によるものなのか、意図的にそうしているのかは分かりません。同じ人でも筆跡は変化します。例えば、ナポレオン1世のサインも若い時と晩年とでは全く違います。僕も30年前、20代前半だった頃の筆跡を見ると、あまりの違いに自分でも驚くほどです。

 最後に、以前も述べたように、筆跡特徴とパーソナリティの相関関係を調べた研究はネガティブなものの方が多いです。しかし、コンコーディア大学のアフナン・ガルートの論文“Handwriting Analysis and Personality: A Computerized Study on the Validity of Graphology”(2021)によれば、性格を測る心理テスト「ビッグファイブ性格特性マーカーテスト」による結果と自動筆跡分析システムによる結果の相関関係をスピアマン相関分析によって検証した結果、外向性については、弱いながらも正の相関があり、誠実性と開放性については中程度の相関があり、協調性については強い正の相関があり、情緒安定性につてはごく弱い相関にとどまったことが明らかになりました。なお、この自動筆跡分析システムは、英語、フランス語、中国語、アラビア語、スペイン語で書かれた計1,066人分の筆跡サンプルを学習させたAIによる筆跡分析システムで、予測精度93%、AUC(予測の信頼度を示す指標)0.94、Fスコア(バランス評価指標)90%という結果が得られたものだそうです。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

脳科学で紐解く「ウェルビーイングと経営」ー第176回YMS

2025年05月15日 | YMS情報


 5月14日、コミュニティラウンジ「Benten103」にて、第176回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。



 講師はSocial Healthcare Design株式会社、代表取締役CEOの亀ヶ谷正信様。近年よく聞かれるようになった「ウェルビーイング(Well-Being)」という概念と経営との関係についてお話しいただきました。

 ウェルビーイングとは何でしょう?WHOの定義によれば、「病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。(日本WHO協会訳)」とあります。日本語では「幸福」と訳されますが、やはり「幸福」と訳される「happiness(ハピネス)」が一時的な喜びや満足感を指すのに対し、ウェルビーイングは持続的な安定した状態を指します。

 ウェルビーイングに関する研究は、ここ20年ほどの間に、マーティン・セリグマンによるポジティブ心理学や、慶應義塾大学・前野隆司教授の幸福学などを通じて発展してきました。前野教授は、幸せについて、「長続きしない幸せ(地位財)」と「長続きする幸せ(非地位財)」の区別を明らかにしていますが、前述のように、ウェルビーイングは後者の「長続きする幸せ」にあたります。

 尤も、亀ヶ谷さんは、こうした心理学的アプローチとは一線を画し、「脳科学」からこのテーマに切り込んでいます。亀ヶ谷さんは、ウェルビーイングを「ココロとカラダとキズナの3つが満たされた状態」と捉えます。特に「キズナ」は見落とされがちですが、人とのつながりこそが安定したココロの状態を生む鍵となります。そして、「満たされている状態」は個々人で異なるため、唯一の正解というものはありません。幸せは与えられるものではなく、自分で自分を満たさなければならない。これは今回のお話し全体を貫く、重要な考え方です。

 また、一般に定義される「健康」とは「心身ともに健常なさま」をいい、そこには「キズナ」、すなわち「人間関係」の要素が欠落しています。さらに、「健常」とは「特別の異常がないこと」を指すので、心身が「満たされている」ことと同義ではありません。したがって、WHOによる健康の定義と日本語の健康の定義は以上の点においてこことなります。今回は、時間の制約上、特に「ココロとキズナ」を中心に話を進めます。前回の第175回YMSにおける睡眠のお話は、いうなればウェルビーイングにおける「ココロとカラダ」に焦点を当てたものと言えるかもしれません。因みに「キズナ」とは、人間関係の中でも特に「信頼・愛着・共感などが含まれる、深く結ばれたココロのつながり」を指しています。つまり、人間関係は「ココロ」を介在しなくても成立する場合がありますが、キズナにはそこに互いの「ココロ」が影響し合っており、同時にキズナから生まれる相互作用は互いのココロにも影響を及ぼします。したがって、ウェルビーイングであるのに「ココロとキズナ」は不可分であるというわけです。

 そしてその「ココロ」は、脳の中で生じる「思考」・「感情」・「意識」が互いに影響し合って作り上げられます。思考と感情は異なるメカニズムで働いています。思考は「認知する力」、感情は「感じる力」であり、両者が一致する状態を脳は求めています。ウェルビーイングとは、「思考と感情が一致した状態」なのです。言い換えれば、前述の「ハピネス」は感情だけが満たされた状態ということができます。たとえば、「楽しい」は一時の感情ですが、それだけでは長続きしません。

 難しいのは、人間関係が、この「思考と感情の一致」を妨げる要因となりうるということです。何故なら、カラダやココロの健康はある程度自力で整えることができますが、キズナだけは相手がいて初めて成立するものだからです。だからこそ、思考と感情が一致した「ココロが満たされた状態」であるためには、人間関係が「キズナ」に昇華している必要があります。キズナは、第1次(親・親密なパートナー)、第2次(友人・知人・親族)、第3次(職場や地域などの社会的つながり)の3層に分けられ、このうち2層以上が機能していないと、人はココロの安定を保ちにくいとされています。

 さて、このように考えると、職場もウェルビーイングの重要な舞台となります。多くの人は、人生の多くの時間を仕事に費やしているからです。また組織にとっても、個人の思考と感情が一致していない状態ではキズナの構築が難しく、信頼関係が生まれないため、生産性に悪影響を及ぼします。

 では、思考と感情が一致する状態を作り上げるにはどうすればよいのでしょうか?人は外部から入ってくる膨大な刺激のすべてを認識しているわけではありません。人間は生存のためにエネルギーを節約する必要があるため、多大なエネルギーを消費する脳は、自分にとって必要と判断した情報にだけ焦点を当て、それ以外の情報は不要なものとして削除しようとするメカニズムが働いています。「自分にとって必要と判断した情報」とは、「意識を向けた情報」のことです。しかし、人が何に意識を向けているかは人によって異なるため、同じ事物に遭遇してもそれをどう認識しているかに違いがあり、それが誤解や衝突を生む原因となります。誤解や衝突は人間関係を毀損し、思考と感情の不一致につながります。

 ある事実に対し、それをどう「意味づけ」するかは個人によって異なる上、その意味づけは無意識に行われます。しかし、組織における価値観や規範、文化や風土といったものは、個々の意味づけをある程度同じ方向に揃え(意識をどこに向かせるか?)、予測可能にすることによって誤解を生まないようにすることが可能ですが、より根本的にはやはりコミュニケーションを通じて互いを受け入れる行為が必要でしょう。

 企業経営とは、個人では到達できない価値創出を、組織という枠組みで実現する行為です。個人の成長と組織の成長を切り離すことはできず、組織の成長の前提として個人の成長がなければなりません。個人の成長段階は、自己理解と受容(内省)に始まり、他者理解と受容(傾聴・対話・共感)へと進みます。それができて初めて、組織において健全な形での協働関係の構築(チームビルディング)が可能となり、それが発展して組織パフォーマンスの最大化につながるのです。「初めに自己受容ありき」。現代人は「外に向かう意識」に偏りがちです。しかし、真の成長とは、内省を通じた自己理解の深化から始まるのです。

 この自己受容を妨げるものは「恐れ」です。恐れを克服することが自己を成長へと導きます。恐れとは未知のものに対して生まれる感情です。恐れを感じるのは単純にそれを知らないからだけだと意味づけし直すことが、学びと成長の起点となります。ただ、そのためにはその人が「恐れ」を克服できると信じ、克服する意思を持っている必要があります。そのため、組織としては適切な課題設定を行うことで、メンバーの成長意欲と内発的動機づけを促す手助けをすることができます。自己成長を感じさせる方法とは、1.できそうだと感じられる課題を与えること、2.少し頑張る必要がある目標設定を行うこと、3.自分で選択した課題・目標設定であることです。



 ウェルビーイングとは、単なる「幸せ」ではなく、「ココロ・カラダ・キズナが満たされた状態」であり、思考と感情の一致を伴う安定のことです。そしてそれは、他者との関係性の中でこそ育まれるものです。経営とは人を活かして個人では達成できない価値を生み出す行為であり、その根底には人間理解と信頼の構築があります。その点においてウェルビーイングと経営は重なり合う部分があり、昨今経営におけるウェルビーイングが注目される一因があるのだと思います。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

過去のセミナーレポートはこちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

Youtubeチャンネル出演のお知らせ

2025年05月09日 | メディアアーカイブ


 Youtubeチャンネル『三橋TV』にて、拙著に関連したお話をさせていただきました。



 繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

#82 孫子で読む交渉学⑤

2025年05月02日 | メディアアーカイブ


 Podcast、「人をつなぐ、未来をつなぐ。 トレードオンの交渉学」でお話ししました。

 戦車を引く馬に兵士が騎乗するという…。

 繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2025年4月アクセスランキング

2025年05月01日 | 人気記事ランキング


 新年度が始まり、あっというまに1ヶ月。夏を思わせるような陽気になったかと思えば、場所によっては季節外れの降雪に見舞われるなど、体調管理が難しい季節ですね。

 さて、2025年4月にアクセスの多かった記事、トップ10です。まず定番記事からご紹介しましょう。4ヶ月連続でランクインしていた、「横浜在住51年、なのに初!―ハングリータイガー(横浜駅)」がとうとうランク外に(15位)。大型連休もあるので、すぐ復活しそうな気がしますが。以下の2記事は4月も安定したアクセスがあり、残りました。

3位:川沿いにできた、驚きの居酒屋―ささご(野毛)(5ヶ月連続)
4位:Yema(イェマ)-フィリピンのお菓子(11ヶ月連続)

 個別記事で他を引き離していたのは、2位:「良い眠りが最高のパフォーマンスにつながる、経営者のための睡眠学ー第175回YMS」です。講師の矢間さんの顔の広さもさることながら、睡眠は結構幅広い層の関心事だったのではないかと思います。また、過去のYMSのレポートの集合である「カテゴリー(YMS情報)」も9位に入りました。

 会社関連では、5位:「第2回同人研修を開催しました」。昨年の「第1回同人研修を開催しました」も14位に入っています。

 Podcastの連続シリーズ、8位:「#78 孫子で読む交渉学④」は4回目にして初のランクイン。明日5月2日、第5回が公開予定です。また、交渉の本の関連で言うと、友人が監修した新刊本、『異文化理解で磨くクローバル交渉力 なぜ を読み解く 文化の7タイプ』(Independently published)の記事「良い理論で経験を解釈した実用的な本」が、4月25日17時過ぎの投稿で日が浅かったにもかかわらず、7位に入りました。

1 トップページ
2 良い眠りが最高のパフォーマンスにつながる、経営者のための睡眠学ー第175回YMS
3 川沿いにできた、驚きの居酒屋―ささご(野毛)
4 Yema(イェマ)-フィリピンのお菓子
5 第2回同人研修を開催しました
6 屋形船から大岡川お花見②
7 良い理論で経験を解釈した実用的な本
8 #78 孫子で読む交渉学④
9 カテゴリー(YMS情報)
10 2025年3月アクセスランキング

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

良い理論で経験を解釈した実用的な本

2025年04月25日 | レビュー(本・映画等)


 ちょうど、日本人の交渉スタイルについての文献を読んでいるとき、タイムリーに発売されたので早速購入し読んでみました。本書は複数の指標で異なる文化を測定した異文化理解の先駆的研究であるヘールト・ホフステードの6次元モデル(当初は5次元でしたが、後に1次元追加されました)をベースに、異なる文化に属する交渉者のマインドセットを「勝負師」、「プロセス信奉者」、「つながり重視」、「外交官」、「身内びいき」、「スタミナ自慢」、「職人」の7つの型に分類しています。約60ヶ国の交渉者のマインドセットがこのいずれかに分類可能だそうです。

 前者の次元による分析には、ジェズワルド・W・サラキューズの研究(1998)や、より最近ではエリン・メイヤーの研究(『異文化理解力―相手と自分の真意がわかる ビジネスパーソン必須の教養』、英治出版、2015)があります。後者の交渉者のマインドセットについては、ずいぶん前に読んだので正確には覚えていませんが、エリカ・フォックスの研究(『ハーバード実践講座 内面から勝つ交渉術』、講談社、2014)などがあったかと思います。

 さらに本書は、典型的な交渉プロセスである「営業」を例に、「アポイント」、「信頼関係構築」、「ニーズの見極め」、「提案」、「価格交渉」、「クロージング」のスッテプごとに各型の交渉者にどのようにアプローチするのが良いのかを説明しています。折に触れて挿入される実際の経験に基づく事例が豊富なのも本書の特徴です。このように、理論と経験が補完し合った、読みやすく実用的な本となっています(なので、早くもコメントが書けるのです)。本書のブラーブにもあるように、「小説のように読みやすく…理論を簡潔にまとめ…内容は極めて実践的」です。

 もちろん、本書も前提として断っているように、文化を説明する次元の値は相対的なものですし、その国における平均値であって、ある文化のすべての人に特定の型が当てはまるものでないことは理解しておく必要があります。サラキューズ(1998)が明らかにしているように国よりも職業による文化差の方が大きく出ることもあります。しかしながら、それを踏まえた上で、初対面の異文化の交渉者と交渉する際、相手を理解する手がかりとしてこれらが有用であるという点は変わらないでしょう。

 例えば、前述の営業プロセスにある「信頼関係構築」。お互いがWin-Winの結果となる合意を目指す「統合型交渉」においても信頼関係の構築は成功の鍵となる要素ですが、ある文化においては率直な物言いが信頼関係を構築する要素として認識されているのに、それが他の文化では無礼であると受け取られる場合があるなどです。マインドセットの型を知っていれば、少なくともそのような誤解が生じる前に探りを入れることができたでしょう。すなわち、統合型交渉の基本ステップを我々の中に無意識に刷り込まれている自国文化の基準に従ってなぞっても、上手くいかないことがあるということです。これは本書を読んでいて感じた、非常に興味深い点でした。

 同じように考えると、俗に「ハーバード流」と呼ばれるアメリカ発の交渉理論が、日本人には使えないといった意見を時々耳にします。しかしこれも、文化的相違を考慮することにより、理解の隔たりを埋めることができるのではないでしょうか?すなわち、交渉を「Win-Lose」ではなく「Win-Win」の結果を目指すものと捉え、それを良しとする「統合型交渉」の概念と理論は、本書の言葉を借りれば主にアングロサクソンの「勝負師」型文化で生まれ、発展してきました。本書でも示唆されている通り、何をもって「Win-Win」とするかにも文化差があるかもしれないと理解すれば、ハーバード流は「使えない」のではなく、「ちょっとしたカスタマイズが必要」というレベルにとどまるのではないかと思います。



繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

屋形船から大岡川お花見②

2025年04月17日 | その他


 4月12日、昨年に続き屋形船「ずーみん」での花見にお誘いいただきました。昨年は座敷形式でしたが、今回はテーブル形式でした。



 また、昨年は昼でしたが今年は夜桜見物。船はまず横浜港を周遊し、それから大岡川を遡上しました。



 桜も満開は過ぎましたが、このところの気温の低さからかまだまだ十分見ごろでした。大岡川は横浜の桜の名所です。



 お刺身の船盛りやエビは昨年も載せたので、今回はカレイの煮つけなどそのほかのお料理をご紹介します。

 

 屋形船と言えば天ぷらですね。栗の天ぷらは初めて食べました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第2回同人研修を開催しました

2025年04月16日 | リサイクル(しごと)の話


 4月10日、昨年に続き第2回同人研修をマホロバ・マインズ三浦にて行いました。



 「同人」とは何かや研修の主旨については昨年の「第1回同人研修を開催しました」をご覧いただければと思うのですが、今年は新たに同人になった2名を含む計9名が参加しました。



 昨年と違い生憎の曇り空でしたが、暑くもなく寒くもない過ごしやすい天気でした。また、今年は和室付きの部屋で、よりリラックスした形で行うことができました。研修の内容も昨年と同様ですが、前回の経験を踏まえ補足や事例などを増やしました。



 正直、1回聞いただけでは良く分からないと思いますので、今後の業務活動を通じ、様々な場面でフィードバックしていければと思っています。

 

 マホロバ・マインズ三浦の魅力は、地元三浦名物のマグロはもちろん、種類豊富なバイキング形式の夕食。それから、温泉の大浴場もゆっくりできてよいです。



 僕は先に失礼してしまいましたが、朝食も良かったようですよ。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

良い眠りが最高のパフォーマンスにつながる、経営者のための睡眠学ー第175回YMS

2025年04月11日 | YMS情報


 4月9日、コミュニティラウンジ「Benten103」にて、第175回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。

 今回の講師は、「実践型パーパス経営ラボ」の勉強会でもご一緒させていただいていた、株式会社Three jobs代表取締役の矢間あや様。理学療法士や自ら著作物の広報・PRを手掛けられた経験から、現在睡眠事業、企業の広報・PR支援、一般社団法人睡眠body協会代表理事などを行っておられます。

 過去175回のYMSの中で最長と言われるスライド数、おそらく通常3時間くらい要するのではないかという内容を1時間半にギュッと凝縮してお話しいただきましたので、以下それをまとめます。



1. 睡眠の重要性と企業への影響

 睡眠不足は、経済に大きな影響を与えます。OECDの調査によれば、睡眠不足による経済損失は、世界全体で15兆円に達すると言われており、アメリカが最も高く、日本はその次に位置しています。ところが、睡眠時間という点で見ると、日本人は一晩で平均7.5時間と、世界的にも非常に短いのが特徴です。睡眠時間と幸福度には強い相関関係があり、幸福度が高い人ほど生産性も高いとされています。したがって、企業は従業員の睡眠について、福利厚生というよりはむしろ、企業活動に必須のビジネススキルの一つと捉えるべきです。

2. 睡眠不足がもたらすパフォーマンス低下

 睡眠時間と幸福度と生産性に密接なかかわりがあるのであれば、睡眠不足は従業員のパフォーマンス低下に直結し、それは企業にとって深刻な問題です。その損失は一人当たり33万円/年、これはアルコールに次ぐと言われています。例えば、睡眠不足が原因でミスが増えることがあります。過去の大事故、例えばスリーマイル島やチェルノブイリでの原発事故や、スペースシャトル「チャレンジャー」の爆発事故なども、睡眠不足による判断ミスが引き金となったと言われています。起床後、覚醒状態のまま17時間を超えると、課題対応能力が血中アルコール濃度0.05%の酒気帯び運転レベルまで低下するそうです。また、徹夜もしくは5時間/日睡眠を1週間続けると、血中アルコール濃度0.1%相当のパフォーマンスレベルになるそうです。仕事での重大なミスや事故は、先に挙げた過去の大事故と同様、企業の信用問題にも発展しかねません。

3. 人的資本経営と健康経営やWellbeing経営の必要性

 したがって、睡眠不足の問題は、単なる健康問題ではなく、企業戦略として捉えるべきです。現代の企業では、人的資本への投資が非常に重要であり、その一環として健康経営やWellbeing経営が求められています。人的資本経営では、企業の成長に必要なスキルや知識を持った人材を育成し、維持するための施策が必要です。そのために経営者が最も重要視すべきは、何よりもまず土台となる従業員の健康であり、特によく眠ることが、生産性向上に直結します。

4. 健康経営における睡眠の役割

 健康経営では、アブセンティズム(欠勤/休業)ばかりでなく、プレゼンティズム(出勤はしているが、パフォーマンスが低下している状態)が企業経営に与える影響を考慮しなければなりません。プレゼンティズムの問題は、健康関連コストの約70%を占め、企業の成長を妨げる要因となります。睡眠不足を改善することで、従業員の健康が保たれ、結果として企業の繁栄に繋がるのです。また、こうした人的資本経営、健康経営やWellbeing経営に対する取り組みは、可視化し情報開示することも必要です。なぜなら、それがその企業に対する投資時の評価や人材確保につながるからです。つまり、このような情報発信は企業のあらゆる活動を支える土台であり、企業と内外のステークホルダーと高度な関係づくりを行うことが、真の意味での広報・PR(文字通り、パブリック・リレーションズ)だからです。

5. 睡眠の基礎知識と改善方法

 睡眠には、いくつかの基本的なポイントがあります。まず、私たちの体には生体リズム(俗にいう、体内時計)が備わっています。このリズムは24時間より少し長いため、本来の24時間のリズムに正しく調整し直してあげる必要があります。そのために、規則正しい起床時間、起床時に日光を浴びる(2500~3000ルクス以上)が大切になります。

 次に、睡眠には、記憶を整理する役割があると考えられており、また、十分な睡眠を取ることは老廃物を除去し、認知症予防にも効果があると言われています。さらに、睡眠不足による体調不良は、イライラや前述のように判断力の低下を招きます。こうした影響を避けるためにも、良い眠りが大切です。良い眠りとは、時間だけでなく「身体と脳に十分な休息を与えていること」、目安としては、寝つきが良いこと(すぐ寝落ちしてしまうのはむしろ気絶に近い、布団に入って5〜10分くらいで自然に眠れること)、夜中に目覚めない、朝すっきり目覚め、日中眠気やだるさがない(つまり、しっかり疲れが取れている)ことなどが良い眠りであると言えます

6. 現代の睡眠問題とその原因

 現代の睡眠問題の原因として、便利な生活環境により、身体を動かさなくなったことが挙げられます。朝起きて光を浴びたり、体を動かしたりすると、前述のように体内時計がリセットされるとともに、俗に「幸福ホルモン」と呼ばれるセロトニンがたくさん分泌されると考えられています。そして夜になると、体は眠りの時間だと判断し、昼に作られたセロトニンを材料として、「睡眠ホルモン」と呼ばれるメラトニンを分泌すると最近の研究では考えられるようになっています。

 つまり、昼間のセロトニン分泌が十分でないと、夜のメラトニンが不足し、寝つきが悪くなったり、眠りが浅くなると考えられています(など)。そうなると、脳の休息が不十分でエネルギーが不足するため、セロトニンを分泌する活動も鈍くなるという悪循環に陥るのです。そこで、先に挙げた以外にも、規則正しい生活、バランスの取れた食事、適度な運動が、良い睡眠のために重要になります。睡眠問題を解決するためには、これらを一つ一つ見直し、改善することが必要です。因みに、適度な運動とは、身体のパフォーマンスを上げる「トレーニング」ではなく、最上のパフォーマンス発揮のために身体を整える「コンディショニング」のことを指します。有史以来、人間は動物として体を動かすようにできているにもかかわらず、現代社会は体を動かさない社会になってしまった。そのことが、あらゆる心身の不調の原因としてあります。

7. 健康な睡眠を実現するための5か条

 まとめとして、矢間さんは「良い睡眠を実現するための5か条」を提案されています。

1. 一定の時間に起き、朝日を浴びる。
2. 軽い運動をする。
3. バランスの取れた食事を心がける。
4. 昼寝を取り入れる。
5. 正しい姿勢を心がける。

 これらを実践することで、良い睡眠を得ることができ、結果としてより良いパフォーマンスが発揮できるようになります。よく寝る人は幸福であり、まず自分が幸福であるから人を幸福にでき、そして幸福な人は良く寝られるという好循環が生まれます。Wellbeing(心身ともに満たされた状態)のために何より睡眠が大切である所以です。

8. 個人的課題

 最後に、公に書いてしまってよいものか?今回のお話の中から抽出した僕自身の個人的課題をまとめます。僕はまさに前述の1日5時間睡眠を続けています。すなわち、僕のパフォーマンスレベルは血中アルコール濃度0.1%、酒気帯び運転で捕まる3倍相当のようなのです。そして、確かにお話にあった以下のような症状があります。

・疲れが取れない、一日中だるい
 対処:寝不足と運動不足が原因。軽く身体を動かす積極的休息を行う
 →これは、最近早朝ウォーキングを始めたので、解消を実感しています。
・筋肉量が少ない(深部体温の低下により睡眠に影響する)
 対処:運動せよ。
・食欲が止まらない(食欲を抑えるレプチンが減少し、食欲を増進させるグレリンが増加する。セロトニン不足も食欲増進の一因)
 対処:「寝ろ」としか…。
・夕食を食べてすぐ寝る
 対処:最低2時間(理想は4時間)空ける。





繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

過去のセミナーレポートはこちら
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

著者に聞く:ビジネスに活かす実践的戦略とは?

2025年04月09日 | メディアアーカイブ


 2年前も取り上げていただいた「中小企業・自治体DXニュース」にて、インタビュー記事が掲載されました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

#78 孫子で読む交渉学④

2025年04月04日 | メディアアーカイブ


 Podcast、「人をつなぐ、未来をつなぐ。 トレードオンの交渉学」でお話ししました。

 春秋時代はまだ騎兵ではなかったと言っているのですが、指示が悪かったのかAIに伝わらなかったみたいです。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

2025年3月アクセスランキング

2025年04月01日 | 人気記事ランキング


 4月になりました。桜も満開ですが、一方で真冬に逆戻りしたかのような冷たい雨の降る新年度のスタートです。ナカノ株式会社は、本日より2025年度となります。引き続きよろしくお願いいたします。

 さて、2025年3月にアクセスの多かった記事、トップ10です。個別記事の1位は「書籍出版のお知らせ」でした。Amazonでコメントもいただいていますが、自分では気づかなかった視点が得られて勉強になります。ありがとうございます。

 3月はWBN、YMS、燮会と3回のセミナーがあり、いずれも多くのアクセスを頂きました。僕自身にとっても興味深い内容ばかりでした。

4位:「【WBN】アロマセラピー入門~香りで心と体の声をきく~」
6位:「無敵の交渉術(敵対的交渉の調和的交渉への転換)ー第68回燮(やわらぎ)会」
7位:「日頃のマナーと相互理解がペット防災につながるー第174回YMS」

 定番記事ですが、10ヶ月連続でランクインしていた「近くにできたハンバーグ屋さんに行ってきましたー万平食堂(吉野町)」がついに途絶えてしまいました(19位)。一方、投稿から15年が経過しているにもかかわらず根強い人気がある「Yema(イェマ)-フィリピンのお菓子」は10ヶ月連続に達しました。過去には100ヶ月を超えた記事もあります(「エコノミーとエコロジーの語源」)。

3位:Yema(イェマ)-フィリピンのお菓子(10ヶ月連続)
5位:川沿いにできた、驚きの居酒屋―ささご(野毛)(4ヶ月連続)
10位:横浜在住51年、なのに初!―ハングリータイガー(横浜駅)(4ヶ月連続)

1 トップページ
2 書籍出版のお知らせ
3 Yema(イェマ)-フィリピンのお菓子
4 【WBN】アロマセラピー入門~香りで心と体の声をきく~
5 川沿いにできた、驚きの居酒屋―ささご(野毛)
6 無敵の交渉術(敵対的交渉の調和的交渉への転換)ー第68回燮(やわらぎ)会
7 日頃のマナーと相互理解がペット防災につながるー第174回YMS
8 カンボジアの港町で評判のピザーToto‘ Pizza (シハヌークビル)
9 伊勢の味とクラフトとビールが楽しめるお店ー伊勢角麦酒(丸の内)
10 横浜在住51年、なのに初!―ハングリータイガー(横浜駅)

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

無敵の交渉術(敵対的交渉の調和的交渉への転換)ー第68回燮(やわらぎ)会

2025年03月24日 | 交渉アナリスト関係


 2025年3月21日、品川区の文化コミュニティ施設「きゅりあん」にて第68回燮会がオンラインとの併用で開催されました。燮会は日本交渉協会が主催する交渉アナリスト1級会員のための勉強会です。





 初めに、3月14日にセルバ出版より発売となった、『交渉の戦略 孫子の哲学が導く意思決定の技術』をご紹介いただきました。どうぞよろしくお願いいたします。



 前回同様、今回も2部制で行われました。第1部は定例の「交渉理論研究」第26回。「第三者の介入(2)」と題してお話しさせていただきました。



 前回は、仲裁者(メディエーター)が交渉に介入するパターンを扱い、これまで述べてきた統合型交渉のためのテンプレート作成と分析、評価のプロセスについてお話ししました。今回はそれを受け、増大したパイをいかに分けるのが公平と言えるのか?規範的に導かれる、以下に挙げる幾つかの基準についてお話ししました。公平分配については、「第22回交渉理論研究」でも扱いましたので、そちらもご覧ください。

●マクシミン解
●中間の中間
●マイモーン解
●ナッシュ解
●バランス・インクリメント解



 第2部は、1級会員で弁護士専門経営コンサルタントの向展弘さんより、「無敵の交渉術(敵対的交渉の調和的交渉への転換)」と題してお話しいただきました。扱うのは、弁護士の事案解決術です。



 弁護士にとっての経営的課題を大きく分けると二つあります。一つは「依頼者満足」であり、クライアントにできるだけ喜んでもらえる解決を目指すことです。それがリピートや紹介の増加、単価のアップにつながるからです。二つ目は、「効率化」です。時間、労力、ストレス、経費などを最小化する観点から、できるかぎり法廷での裁判ではなく、示談で解決する方が効率的だと言えます。そして、早い解決の方が、顧客満足度も高くなるのです。

 訴訟を避けるには、敵対的交渉によって対立がエスカレートしないよう、交渉を調和的交渉に転換する必要があります。そのための技術が、今回の主題である「主導権の握り方」になります。



  なぜ主導権を握る必要があるのかといえば、こちらが調和的交渉を望んでも相手もそうであるとは限らないからです。むしろ、現実の事案ではその方が普通であると言えます。調和的解決を望まない相手を導くには、交渉そのものをコントロールする、つまり主導権を握ることが欠かせないのです。

 ところで、主導権とは何なのでしょう?向さんは、主導権を「相対的主導権」と「絶対的主導権」の二つに区別しています。前者は、一般的に我々がイメージするもので、相手より自分の力が強ければ、主導権を握れるというものです。一方、後者は、自分以外の力を自分の力にできることを言います。自分だけでなく相手や外部の力も取り込み、交渉をコントロールし、調和的解決のフレームをはめ込むのです。

 この絶対的主導権を確立するために、向さんは二つの重要な視点を挙げています。一つ目は、向さんが「ヨットモデル」と名付けているもので、19世紀のアメリカの詩人、エラ・ウィーラー・ウィルコックスの「運命の風((The Winds of Fate))」という詩に次のような一節があります。

同じ風に吹かれながら
東へ進む船もあれば、西へ進む船もある
向かう先を決めるのは
吹く風ではなく、帆の向き

 つまり、交渉をコントロールしているのは外部の要因ではなく自分自身だということです。風は交渉相手や外部の力です。それを受け止め、利用し、自分が進みたい方向を決めるのは、自分というヨットの中の帆なのです。

 二つ目は、「合気道モデル」です。これは想像できますね。合気道で小さくて非力な人が大きくて剛力な人を倒すことができるのは、相手の力に逆らわず、それを自分の力としてりようしているからです。同じように、環境を上手に活用することができれば、主導権を握ることができます。合気道の創始者、植芝盛平の言葉に、次のようなものがあります。

合気とは敵と戦うことではなく、世界を調和させ、人類を一家のごとくまとめあげる道である。

 外部の力を拒絶したり、抵抗したり、相手を負かすのではなく、受け入れ、調和し、自分の力として活用する調和的交渉の精神です。敵対的交渉は、意識の焦点が「相手」にあり、相手に囚われやすくなります。一方、調和的交渉は、意識の焦点が「自分」にあり、相手に囚われにくいのです。そのため、敵対的交渉は「Youメッセージ」になりがちであり、対立をエスカレートさせてしまうのに対し、調和的交渉は「Iメッセージ」が中心となり、相手に配慮しつつも自分の主張を的確に伝えることができます。

 この後、「合気道モデル」に則っり交渉の主導権を握った事例が紹介されました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

#74 孫子で読む交渉学③

2025年03月19日 | メディアアーカイブ


 出張で更新が遅くなってしまいましたが、Podcast、「人をつなぐ、未来をつなぐ。 トレードオンの交渉学」でお話ししました。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【WBN】アロマセラピー入門~香りで心と体の声をきく~

2025年03月19日 | WBN情報


 3月18日、WBN(早稲田ビジネスネット横浜稲門会)の分科会に参加してきました。



 今回は、芳香療法士、調香師の中田真世様より、自然の力で心と体を癒すアロマセラピーについてのお話を伺いました。



 アロマセラピー、つまり香りを用いた療法では、エッセンシャルオイルと呼ばれる植物の香り成分を抽出した油を用います。素人の僕は、油に植物の香りをつけたものだと思っていたのですが、違うんですね。水蒸気蒸留法や圧搾法によって抽出された貴重なオイルは、わずか1滴に450グラムものハーブが必要なのだそうです。

 香りと人類との歴史は古く、およそ3000年前、古代エジプトに遡るそうです。彼らは政治交渉、医療、美容、権威づけなどの場で香りを活用していました。例えば、身分の高い女性や神官が、ミルラやフランキンセンス(乳香)と牛脂を混ぜ、ワインで煮て固めた香油コーンを頭にのせている絵が古代の墓の壁画に描かれています。牛脂が溶けることで体臭をおさえる、あるいは儀式のために用いられていたと考えられています。また、ミルラには乾燥させる効果があり、彼らはミイラを作るためにそれを用いていました。

 ちょっと脱線してしまいますが、香油コーンのお話を伺ったとき、白隠禅師(1686–1769)の「軟蘇の法」を思い出しました。「軟蘇の法」とは、呼吸により気を丹田集めることで心身の調和、健康回復を目的とした瞑想のことですが、その際、頭の上にのせた「蘇」がゆっくりと溶け、それが全身に染みわたるようにイメージせよと述べているのです。「蘇」とは、通常チーズあるいはヨーグルトのような乳製品とされますが、禅師の『夜船閑話』では、「蘇」について次のように表現しています。

「蘇とは、乳のごとく白く柔らかにして、香気馥郁(ふくいく)として、鼻を撲(う)つがごとし」

それが呼吸とともに溶けていくというのです。勝手な想像ですが、ここで蘇と言われているものは古代エジプトの香油コーンに源流があるのかもしれません。



 そもそも、嗅覚は視覚や聴覚などと比べて最も古くからある感覚です。視覚や聴覚が、多細胞生物が進化した後に発達したと言われているのに対し、嗅覚は単細胞生物の時代からあったと考えられています。嗅覚とは生存のために化学物質を感知する能力のことであり、人間の場合、鼻の奥にある嗅毛が受容体の役割を果たし、わずか0.2秒で脳の大脳辺縁系に届くのだそうです。このことは、生まれたての赤ちゃんで目が見えず、耳が聞こえない段階でも、嗅覚はあるということからも分かります。この大脳辺縁系は感情、情動、本能に関わる、進化の過程から見て比較的古くからある部分です。つまり、香りは脳にほぼダイレクトに届き、感情や情動、自律神経などに働きかけます。香りが心身の調和に資するメカニズムはここにありそうです。本能的な快/不快のレベルなので、自分が好きな匂いだと感じれば、それが脳内ホルモンの分泌を促し、心身を活性化させたり、落ち着かせたりします。逆に不快だと感じれば、それは生存のために脳が危険だと判断していることでもありますので、かえって心身の負担となってしまうことがあります。アロマセラピーでは、自分が好きと思える香りを見つけることが大切です。

 さて、今回5種類のエッセンシャルを体感しました。

1.オレンジ(実)



 オレンジの皮から抽出したオイルです。今回の中では、個人的に一番好きな香り。不眠、不安、ストセスなどに良いとされ、ストレス性消化器疾患、便秘や下痢などに効能があるようです。個人的には柑橘系の香りが好きなのだなと思いました。

2.ユーカリ(葉)



 コアラが大好きなユーカリですが、実は毒性の強い植物なのだそうです。そんなユーカリを食べざるを得なかったコアラ。クマ科なのに竹を食べざるを得なかったパンダとともに、生存競争の悲哀を感じます。ユーカリはウイルス性の風邪や花粉症などに良いとされ、呼吸器系に働きかけます。また、集中力を増すのにも良いそうです。

3.ジャスミン(花)



 ジャスミン茶のイメージからは想像もできない、僕には形容しがたい香りでした。クレオパトラはこのジャスミンのオイルを好んだそうで、政治交渉の場で相手を威圧するためにも用いていたそうです。ホルモンバランスを保つ、自信をつけるのに良いとされています。香りは嗅いだ時に肺からも吸収され、血液によって全身をめぐります。それを通じても臓器などに働きかけるようです。

 因みに、様々な香りを連続で嗅ぐのに、前の香りをリセットするには、水を飲む、コーヒー豆の香り、あるいはアンモニア臭を嗅ぐといった方法があるそうです。

4.フランキンセンス(樹脂)



 いわゆる乳香のことです。子供のころ読んだ物語の影響で、乳香や白檀は、中世アラブの交易商人によって高値で取引される香木というイメージがあります。



 こちらがフランキンセンスの樹脂。先ほどのユーカリを強くしたような香りに感じました。好き嫌いは別にして、落ち着きます。実際、外に向いた意識を内に向ける効果があり、瞑想の時などに用いられるそうです。

 因みに、複数の香りを組み合わせると、それぞれを強め合うことがあります。例えば、リラックスには、ラベンダー とスイートオレンジとサンダルウッド、爽やかさや活気にはペパーミントとレモンとユーカリといったようにです。

5.シダーウッド(木)



 比較的強い香り。どこか覚えがあると思っていたのですが、自分が28年使っている香水「アクア・ディ・ジオ」が、時間がたって古くなった時の香りに似ています。檜風呂からもイメージできるように、木系の香りは呼吸を落ち着かせる働きがあります。気を落ち着かせ、また霊性を高めるとも言われています。 



 個人には木系の香りは好きだと思っていて、今でも車でサンダルウッドのアロマオイルを使っているのですが、今回エッセンシャルオイルを直接嗅いだ限りでは、ちょっと強すぎるように感じました。泌尿器系に良いそうです。

 これを機会により意識的に香りを生活に取り入れてみようと思います。子供にも勧めてみます。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする