法律の周辺

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自治会による寄付金の強制徴収について

2007-08-24 21:09:09 | Weblog
時事ドットコム 自治会費に寄付上乗せは無効=「決議による徴収は強制」-大阪高裁

 記事からは寄付金の使途がはっきりしない。この点が重要なはずだが。

さて,記事には原告側代理人のコメントとして,自治会をめぐるこの種の判決は全国初ではとあるが,管理人の知るものに佐賀地判H14.4.12がある。
地方自治法上のいわゆる「地縁による団体」である地域自治会が神社関係費を一般会計と区別しないまま一括して構成員から徴収していたという事案。神社関係費を納めなかった構成員が脱退扱い等の不利益を受けたとして地域自治会に対し不法行為に基づき慰謝料等損害賠償請求を求めたというもの。
佐賀地裁は,区費の徴収方法については,「神社神道を信仰しない原告らにとっては,事実上,宗教上の行為への参加を強制するものであり,原告らの信教の自由ないしは信仰の自由を侵害し,憲法20条1項前段,2項,地方自治法260条の2第7項,8項等の趣旨に反し,違法であったと認められる。」と判断。
地域自治会は任意団体。憲法上の争点については私人間効力が問題となるが,佐賀地裁,地域自治会の性格につき次のような検討を行っている。

ア 被告町区は,法律上は公法人ではなく,認可によって公共団体その他行政組織の一部とみなされるわけでもない(地方自治法260条の2第6項)。また,市町村長の一般的監督も受けない(同条15項,民法67条の準用がない。)。被告町区は,任意加入の団体であり,その加入及び脱退は,原則として区民の自由な意思による(地方自治法260条の2第7項は,正当な理由があれば加入拒否ができる旨定めるが,少なくとも脱退については,形式的には完全に自由である。)。
 しかしながら,任意加入の団体とはいっても,前記認定事実のとおり,被告町区は,その目的に従い,地区の清掃活動や体育祭,敬老会,回覧板の回付等の当該地域における様々な共同活動,広報活動を行い,地域活動における中核的な役割を果たしている上,a市との連絡や市報の配布等の事務を行うなど,公共的な役割をも担っている。そして,それらの活動及び各種サービスは,その性質上,当該地域の居住者全員が参加し,享受することが予定されたものであり,かつ,それが望ましい状態でもある。実際にも,被告町区への加入状況をみると,平成13年当時において,被告町区の総世帯数は500戸以上,人口も1600人を超え,その規模は必ずしも小さくないにもかかわらず,加入率は98パーセント以上と極めて高い。これは,住民らに対する熱心な勧誘の結果だとみるにしても,任意加入の団体としては極めて高い割合であり,結局,被告町区では,事実上,運用として全戸加入制がとられていたものとみるほかない(加入及び脱退の自由が確保されているかぎり,運用として全戸加入制をとること自体は望ましいものであったといえるが,そのような運用をする以上,構成員に対する関係では,より慎重な態度が要求されるというべきである。)。そして,被告町区に加入しないということは,生活の重要な基盤である居住地において,上記のような地域の共同活動に参加できず,かつ,各種サービスを受けられないということであり,しかも,事実上,全戸加入制をとってきた被告町区の方針に明確に反することでもある(そのことで,地域社会から疎外されることもあり得るし,そのことに大きな心理的負担を感じる者は少なくないと考えられる。)。これらの事実によると,被告町区への加入は,強制されているとまではいえないにしても,その自由は大きく制限されているというべきである。
 また,被告町区からの脱退が自由であるとはいっても,b町には被告町区以外の地域自治会は存在しないから(地域占拠性),脱退者には,居住地区の自治会には全く加入しないか(もちろん被告町区へ再加入するという方法もある。),居住地から離れた他の自治会へ加入するか(自治会がもともと地域に密着した活動を行うものである以上,一般的には加入の利益は少ないものと考えられるし,転居となれば相当に困難である。),いずれかの選択の余地しかない。これらの事実によると,脱退についても,その自由は大きく制限されているというべきである。
 そして,地方自治法は,地域自治会の法人化について,「良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行うことを目的としていること」(同法260条の2第2項1号)と定め,その目的の公共性を要件としている。また,「すべての居住者に構成員資格があること,その相当数の者が現に構成員となっていること」(同項2号)と定め,居住の事実のみが構成員の資格要件であり(特定の信仰,主義,主張等を共通にすることを前提としない。),現に相当数の者が加入していることが法人化の前提であるとしている。さらに,「正当な理由がないかぎり地域自治会への加入を拒否できない。」(同条7項)と定め,区による加入拒否を制限しているが,これは,地域自治会が公共的な役割を果たしていることを考慮したからにほかならない。
このことは,例えば一般企業が採否の自由(契約の自由)を有し,ことに傾向団体であれば,加入者に対して特定の信仰,主義,主張等を問うことが相当とされる場合もあるのとは明らかに異なる。さらに,「民主的な運営と不当な差別の禁止」(同条8項),「特定の政党のための利用の禁止」(同条9項)などを定め,地域自治会の公共性を側面から担保しようとしている。
イ これに対し,被告らは,「地域自治会は,自由加入の団体であり,何ら地域住民に対して強制力を持つような団体ではない。原告ら以外にも被告町区に加入していない者がいるし,他の自治会に加入している者もいる。原告らは加入しないことによる各種の不利益により,事実上加入が強制されていると主張するが,それらの不利益はいまだ加入を強制しているといえるような程度のものではない。」旨主張する。
 しかしながら,前記のとおり,平成13年当時において,総戸数500戸以上に対し,他の自治会に加入しているのがわずか7戸,原告ら以外でどこの自治会にも加入していないのはわずか2戸にすぎず,加入率は98パーセントを超えており,これは,都市化,住宅化が進み,他の地域からの転入者が増え続けている現状に照らすと,驚異的な加入率というほかない。また,たしかに,被告らが主張するとおり,加入しないことによる不利益は,各種サービスが受けられないという個々の部分だけをみると,すぐに日常生活に支障を来すような種類のものではないかもしれないが,むしろ,目に見えない部分のもの,地域社会から疎外されるという心理的負担は,個人差があるにせよ,軽視できるものではない。
ウ したがって,被告町区は,その公共性が法的にも明確に位置づけられている上,加入及び脱退の自由が,いずれも大きく制限されており,これらによると,被告町区は,強制加入団体とは同視できないにしても,それに準ずる団体であるというべきである。そして,被告町区がこのような性格を持つ団体である以上,その運営は,構成員が様々な価値観,信仰を持つことを前提にしてなされなければならない。


なお,地域自治会の原告構成員らに対する脱退認定取扱等が不法行為を構成するかについては,社会的許容限度を超え直ちに損害賠償を帰結するだけの権利侵害行為であったということはできないとし,主張は理由がないと退けている。


日本国憲法の関連条文

第二十条  信教の自由は,何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も,国から特権を受け,又は政治上の権力を行使してはならない。
2  何人も,宗教上の行為,祝典,儀式又は行事に参加することを強制されない。
3  国及びその機関は,宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

地方自治法の関連条文

第二百六十条の二  町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体(以下本条において「地縁による団体」という。)は,地域的な共同活動のための不動産又は不動産に関する権利等を保有するため市町村長の認可を受けたときは,その規約に定める目的の範囲内において,権利を有し,義務を負う。
2  前項の認可は,地縁による団体のうち次に掲げる要件に該当するものについて,その団体の代表者が総務省令で定めるところにより行う申請に基づいて行う。
一  その区域の住民相互の連絡,環境の整備,集会施設の維持管理等良好な地域社会の維持及び形成に資する地域的な共同活動を行うことを目的とし,現にその活動を行つていると認められること。
二  その区域が,住民にとつて客観的に明らかなものとして定められていること。
三  その区域に住所を有するすべての個人は,構成員となることができるものとし,その相当数の者が現に構成員となつていること。
四  規約を定めていること。
3  規約には,次に掲げる事項が定められていなければならない。
一  目的
二  名称
三  区域
四  事務所の所在地
五  構成員の資格に関する事項
六  代表者に関する事項
七  会議に関する事項
八  資産に関する事項
4  第二項第二号の区域は,当該地縁による団体が相当の期間にわたつて存続している区域の現況によらなければならない。
5  市町村長は,地縁による団体が第二項各号に掲げる要件に該当していると認めるときは,第一項の認可をしなければならない。
6  第一項の認可は,当該認可を受けた地縁による団体を,公共団体その他の行政組織の一部とすることを意味するものと解釈してはならない。
7  第一項の認可を受けた地縁による団体は,正当な理由がない限り,その区域に住所を有する個人の加入を拒んではならない。
8  第一項の認可を受けた地縁による団体は,民主的な運営の下に,自主的に活動するものとし,構成員に対し不当な差別的取扱いをしてはならない。
9  第一項の認可を受けた地縁による団体は,特定の政党のために利用してはならない。10  市町村長は,第一項の認可をしたときは,総務省令で定めるところにより,これを告示しなければならない。告示した事項に変更があつたときも,また同様とする。
11  第一項の認可を受けた地縁による団体は,前項の規定に基づいて告示された事項に変更があつたときは,総務省令で定めるところにより,市町村長に届け出なければならない。
12  何人も,市町村長に対し,総務省令で定めるところにより,第十項の規定により告示した事項に関する証明書の交付を請求することができる。この場合において,当該請求をしようとする者は,郵便又は信書便により,当該証明書の送付を求めることができる。
13  第一項の認可を受けた地縁による団体は,第十項の告示があるまでは,第一項の認可を受けた地縁による団体となつたこと及び第十項の規定に基づいて告示された事項をもつて第三者に対抗することができない。
14  市町村長は,第一項の認可を受けた地縁による団体が第二項各号に掲げる要件のいずれかを欠くこととなつたとき,又は不正な手段により第一項の認可を受けたときは,その認可を取り消すことができる。
15  民法第三十八条 ,第四十四条第一項,第五十条,第五十一条,第五十二条第一項,第五十三条から第六十六条まで,第六十八条(同条第一項第二号を除く。),第六十九条,第七十条,第七十二条から第七十六条まで及び第七十八条から第八十三条までの規定並びに非訟事件手続法 (明治三十一年法律第十四号)第三十五条 から第四十条 までの規定は,第一項の認可を受けた地縁による団体に準用する。この場合において,民法第三十八条第二項 ,第七十二条第二項及び第八十三条中「主務官庁」とあるのは「市町村長」と,同法第四十四条第一項 ,第五十三条から第五十七条まで,第五十九条第二号,第六十条,第六十一条,第六十三条,第七十条,第七十二条第二項及び第七十四条中「理事」とあるのは「代表者」と,同法第五十二条第一項 中「一人又は数人の理事」とあるのは「一人の代表者」と,同法第五十六条 中「仮理事」とあるのは「仮代表者」と,同法第五十九条第三号 中「総会又は主務官庁」とあるのは「総会」と,同法第六十八条第一項第四号 中「設立の許可」とあり,及び第七十二条第二項中「許可」とあるのは「認可」と,同法第七十二条第三項 中「国庫」とあるのは「市町村」と,非訟事件手続法第三十五条第一項 中「仮理事」とあるのは「仮代表者」と読み替えるほか,必要な技術的読替えは,政令で定める。
16  第一項の認可を受けた地縁による団体は,法人税法 (昭和四十年法律第三十四号)その他法人税に関する法令の規定の適用については,同法第二条第六号 に規定する公益法人等とみなす。この場合において,同法第三十七条 の規定を適用する場合には同条第四項 中「公益法人等」とあるのは「公益法人等(地方自治法(昭和二十二年法律第六十七号)第二百六十条の二第一項の認可を受けた地縁による団体を除く。)」と,同条第五項中「公益法人等」とあるのは「公益法人等(地方自治法第二百六十条の二第一項の認可を受けた地縁による団体を除く。)」と,同法第六十六条の規定を適用する場合には同条第一項及び第二項中「普通法人」とあるのは「普通法人(地方自治法第二百六十条の二第一項の認可を受けた地縁による団体を含む。)」と,同条第三項中「公益法人等」とあるのは「公益法人等(地方自治法第二百六十条の二第一項の認可を受けた地縁による団体を除く。)」とする。
17  第一項の認可を受けた地縁による団体は,消費税法 (昭和六十三年法律第百八号)その他消費税に関する法令の規定の適用については,同法 別表第三に掲げる法人とみなす。
18  次の各号のいずれかに該当する場合においては,第一項の認可を受けた地縁による団体の代表者又は清算人は,非訟事件手続法 により,五十万円以下の過料に処する。
一  第十五項において準用する民法第七十条 又は第八十一条第一項 の規定による破産手続開始の申立てを怠つたとき。
二  第十五項において準用する民法第七十九条第一項 又は第八十一条第一項 の規定による公告を怠り,又は不正の公告をしたとき。

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