法律の周辺

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反倫理性等の低い近親婚について

2007-03-09 22:23:36 | Weblog
asahi.com おじ・めいの近親婚でも遺族年金の受給権 最高裁初判断

 原審が不支給処分を相当とした理由は,概略,以下の3つ。
第1に,遺族厚生年金は社会保障的性格が強い給付であり,内縁関係にある者の受給に係る資格判断(厚生年金保険法第3条第2項参照)にあたっては公益的要請を無視できないこと。
第2に,内縁関係にある者の受給に係る資格判断にあたっては,婚姻関係の一般法である民法の規定及び趣旨が尊重されるべきで,厚生年金保険法は民法の定める婚姻法秩序に反するような内縁関係にある者まで保護する趣旨ではないこと。
第3に,民法の近親婚の禁止規定に反するような婚姻関係の反倫理性,反社会性は,時の経過によって治癒されることはあり得ず,厚生年金保険法はそのような関係にある者を公的支給を受給し得る者として保護することを予定していないこと。
最高裁は,直系血族間及び2親等の傍系血族間の内縁関係と3親等の傍系血族間の内縁関係は反倫理性,反社会性という点では基本的に変わりはないとしつつ,次のように述べ,上記3番目の理由は是認できないとした。

 もっとも,我が国では,かつて,農業後継者の確保等の要請から親族間の結婚が少なからず行われていたことは公知の事実であり,前記事実関係によれば,上告人の周囲でも,前記のような地域的特性から親族間の結婚が比較的多く行われるとともに,おじと姪との間の内縁も散見されたというのであって,そのような関係が地域社会や親族内において抵抗感なく受け容れられている例も存在したことがうかがわれるのである。このような社会的,時代的背景の下に形成された三親等の傍系血族間の内縁関係については,それが形成されるに至った経緯,周囲や地域社会の受け止め方,共同生活期間の長短,子の有無,夫婦生活の安定性等に照らし,反倫理性,反公益性が婚姻法秩序維持等の観点から問題とする必要がない程度に著しく低いと認められる場合には,上記近親者間における婚姻を禁止すべき公益的要請よりも遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという法の目的を優先させるべき特段の事情があるものというべきである。したがって,このような事情が認められる場合,その内縁関係が民法により婚姻が禁止される近親者間におけるものであるという一事をもって遺族厚生年金の受給権を否定することは許されず,上記内縁関係の当事者は法3条2項にいう「婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に該当すると解するのが相当である。

 記事にもあるとおり,反対意見を述べた横尾裁判官は元社会保険庁長官。反対意見の中で,民法第734条第1項は何ら留保を置かず近親婚を禁止しているのであり,各婚姻関係間において,反倫理性,反社会性の大小を論ずることには躊躇せざるを得ないと述べている。

 一読して,婚姻関係に至った経緯や生活状況等に係る事実を丁寧に拾っているという印象。

判例検索システム 平成19年03月08日 遺族厚生年金不支給処分取消請求事件


民法の関連条文

(近親者間の婚姻の禁止)
第七百三十四条  直系血族又は三親等内の傍系血族の間では,婚姻をすることができない。ただし,養子と養方の傍系血族との間では,この限りでない。
2  第八百十七条の九の規定により親族関係が終了した後も,前項と同様とする。

(婚姻の届出)
第七百三十九条  婚姻は,戸籍法 (昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより届け出ることによって,その効力を生ずる。
2  前項の届出は,当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で,又はこれらの者から口頭で,しなければならない。

(婚姻の届出の受理)
第七百四十条  婚姻の届出は,その婚姻が第七百三十一条から第七百三十七条まで及び前条第二項の規定その他の法令の規定に違反しないことを認めた後でなければ,受理することができない。

厚生年金保険法の関連条文

(この法律の目的)
第一条  この法律は,労働者の老齢,障害又は死亡について保険給付を行い,労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とし,あわせて厚生年金基金がその加入員に対して行う給付に関して必要な事項を定めるものとする。

(用語の定義)
第三条  この法律において,次の各号に掲げる用語の意義は,それぞれ当該各号に定めるところによる。
一  保険料納付済期間 国民年金法 (昭和三十四年法律第百四十一号)第五条第二項 に規定する保険料納付済期間をいう。
二  保険料免除期間 国民年金法第五条第三項 に規定する保険料免除期間をいう。
三  報酬 賃金,給料,俸給,手当,賞与その他いかなる名称であるかを問わず,労働者が,労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし,臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは,この限りでない。
四  賞与 賃金,給料,俸給,手当,賞与その他いかなる名称であるかを問わず,労働者が労働の対償として受けるすべてのもののうち,三月を超える期間ごとに受けるものをいう。
2  この法律において,「配偶者」,「夫」及び「妻」には,婚姻の届出をしていないが,事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。

(受給権者)
第五十八条  遺族厚生年金は,被保険者又は被保険者であつた者が次の各号のいずれかに該当する場合に,その者の遺族に支給する。ただし,第一号又は第二号に該当する場合にあつては,死亡した者につき,死亡日の前日において,死亡日の属する月の前々月までに国民年金の被保険者期間があり,かつ,当該被保険者期間に係る保険料納付済期間と保険料免除期間とを合算した期間が当該被保険者期間の三分の二に満たないときは,この限りでない。
一  被保険者(失踪の宣告を受けた被保険者であつた者であつて,行方不明となつた当時被保険者であつたものを含む。)が,死亡したとき。
二  被保険者であつた者が,被保険者の資格を喪失した後に,被保険者であつた間に初診日がある傷病により当該初診日から起算して五年を経過する日前に死亡したとき。
三  障害等級の一級又は二級に該当する障害の状態にある障害厚生年金の受給権者が,死亡したとき。
四  老齢厚生年金の受給権者又は第四十二条第二号に該当する者が,死亡したとき。
2  前項の場合において,死亡した被保険者又は被保険者であつた者が同項第一号から第三号までのいずれかに該当し,かつ,同項第四号にも該当するときは,その遺族が遺族厚生年金を請求したときに別段の申出をした場合を除き,同項第一号から第三号までのいずれかのみに該当し,同項第四号には該当しないものとみなす。

(遺族)
第五十九条  遺族厚生年金を受けることができる遺族は,被保険者又は被保険者であつた者の配偶者,子,父母,孫又は祖父母(以下単に「配偶者」,「子」,「父母」,「孫」又は「祖父母」という。)であつて,被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時(失踪の宣告を受けた被保険者であつた者にあつては,行方不明となつた当時。以下この条において同じ。)その者によつて生計を維持したものとする。ただし,妻以外の者にあつては,次に掲げる要件に該当した場合に限るものとする。
一  夫,父母又は祖父母については,五十五歳以上であること。
二  子又は孫については,十八歳に達する日以後の最初の三月三十一日までの間にあるか,又は二十歳未満で障害等級の一級若しくは二級に該当する障害の状態にあり,かつ,現に婚姻をしていないこと。
2  前項の規定にかかわらず,父母は,配偶者又は子が,孫は,配偶者,子又は父母が,祖父母は,配偶者,子,父母又は孫が遺族厚生年金の受給権を取得したときは,それぞれ遺族厚生年金を受けることができる遺族としない。
3  被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時胎児であつた子が出生したときは,第一項の規定の適用については,将来に向つて,その子は,被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時その者によつて生計を維持していた子とみなす。
4  第一項の規定の適用上,被保険者又は被保険者であつた者によつて生計を維持していたことの認定に関し必要な事項は,政令で定める。

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