判決言い直し:求刑より重い,と指摘受け 奈良地裁裁判官 MSN毎日インタラクティブ
訓戒の後の言い直しはちょっと格好が悪い。
裁判は告知により外部的にも成立する。裁判機関もこれに拘束され,原則として撤回・変更することはできないが,この点に関連し,最判S51.11.4は次のように判示している。
ところで,判決の宣告は,裁判長(一人制の裁判所の場合には,これを構成する裁判官)が判決の主文及び理由を朗読し,又は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げることによって行うものであるが(刑訴規則三五条),裁判長がいったんこれらの行為をすれば直ちに宣告手続が終了し,以後は宣告をし直すことが一切許されなくなるものと解すべきではない。判決の宣告は,全体として一個の手続であって,宣告のための公判期日が終了するまでは,完了するものではない。また,判決は,事件に対する裁判所の最終的な判断であって,宣告のための公判期日が終了するまでは,終局的なものとはならない。そうしてみると,判決は,宣告のための公判期日が終了して初めて当の裁判所によっても変更することができない状態となるものであり,それまでの間は,判決書又はその原稿の朗読を誤った場合にこれを訂正することはもとより(最高裁昭和四五年(あ)第二二七四号同四七年六月一五日第一小法廷判決・刑集二六巻五号三四一頁参照),本件のようにいったん宣告した判決の内容を変更してあらためてこれを宣告することも,違法ではないと解するのが相当である。このように解することの妨げとなる法令の定めのないことはいうまでもなく,また,このように解することにより被告人その他の当事者に不当な不利益を与えたり,手続の明確性・安定性を害するものでもない。
なお,この最判の事案,被告人に対し,懲役1年6月,保護観察付き執行猶予5年を宣告し,その際,前刑の執行猶予期間が既に経過しているので保護観察付きの執行猶予にしたことなどを説示したところ,書記官から犯行が前刑の保護観察期間中に行われたものである点を指摘され,約5分後に先に宣告した主文は間違いであった旨を告げ,あらためて懲役1年6月の実刑を宣告したというものである。
目出度し,目出度しと言いたいところだが,第一審の裁判官が自ら説示しているとおり,前刑は第一審の判決宣告期日以前に執行猶予期間が経過し,刑の言い渡しは効力を失っている。執行猶予を言い渡すことに法律上の支障はなかったのである。書記官から突然言われ,裁判官,余程動揺したのであろう。何事も慌ててはいけない。
第一小法廷は,上記の後,このままでは著しく正義に反するとして第一審判決及び原判決ともに破棄し,当初の第一審と同じく,懲役1年6月,保護観察付き執行猶予5年と判決している。因みに,裁判長は団藤裁判官。
判例検索システム 昭和51年11月04日 窃盗被告事件
刑法の関連条文
(執行猶予)
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは,情状により,裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間,その執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け,情状に特に酌量すべきものがあるときも,前項と同様とする。ただし,次条第一項の規定により保護観察に付せられ,その期間内に更に罪を犯した者については,この限りでない。
(保護観察)
第二十五条の二 前条第一項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ,同条第二項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する。
2 保護観察は,行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
3 保護観察を仮に解除されたときは,前条第二項ただし書及び第二十六条の二第二号の規定の適用については,その処分を取り消されるまでの間は,保護観察に付せられなかったものとみなす。
(猶予期間経過の効果)
第二十七条 刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは,刑の言渡しは,効力を失う。
刑事訴訟法の関連条文
第三百四十二条 判決は,公判廷において,宣告によりこれを告知する。
刑事訴訟規則の関連条文
(裁判の告知)
第三十四条 裁判の告知は,公判廷においては,宣告によつてこれをし,その他の場合には,裁判書の謄本を送達してこれをしなければならない。但し,特別の定のある場合は,この限りでない。
(裁判の宣告)
第三十五条 裁判の宣告は,裁判長がこれを行う。
2 判決の宣告をするには,主文及び理由を朗読し,又は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げなければならない。
(謄本,抄本の送付)
第三十六条 検察官の執行指揮を要する裁判をしたときは,速やかに裁判書又は裁判を記載した調書の謄本又は抄本を検察官に送付しなければならない。但し,特別の定のある場合は,この限りでない。
2 前項の規定により送付した抄本が第五十七条第二項から第四項までの規定による判決書又は判決を記載した調書の抄本で懲役又は禁錮の刑の執行指揮に必要なものであるときは,すみやかに,その判決書又は判決を記載した調書の抄本で罪となるべき事実を記載したものを検察官に追送しなければならない。
訓戒の後の言い直しはちょっと格好が悪い。
裁判は告知により外部的にも成立する。裁判機関もこれに拘束され,原則として撤回・変更することはできないが,この点に関連し,最判S51.11.4は次のように判示している。
ところで,判決の宣告は,裁判長(一人制の裁判所の場合には,これを構成する裁判官)が判決の主文及び理由を朗読し,又は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げることによって行うものであるが(刑訴規則三五条),裁判長がいったんこれらの行為をすれば直ちに宣告手続が終了し,以後は宣告をし直すことが一切許されなくなるものと解すべきではない。判決の宣告は,全体として一個の手続であって,宣告のための公判期日が終了するまでは,完了するものではない。また,判決は,事件に対する裁判所の最終的な判断であって,宣告のための公判期日が終了するまでは,終局的なものとはならない。そうしてみると,判決は,宣告のための公判期日が終了して初めて当の裁判所によっても変更することができない状態となるものであり,それまでの間は,判決書又はその原稿の朗読を誤った場合にこれを訂正することはもとより(最高裁昭和四五年(あ)第二二七四号同四七年六月一五日第一小法廷判決・刑集二六巻五号三四一頁参照),本件のようにいったん宣告した判決の内容を変更してあらためてこれを宣告することも,違法ではないと解するのが相当である。このように解することの妨げとなる法令の定めのないことはいうまでもなく,また,このように解することにより被告人その他の当事者に不当な不利益を与えたり,手続の明確性・安定性を害するものでもない。
なお,この最判の事案,被告人に対し,懲役1年6月,保護観察付き執行猶予5年を宣告し,その際,前刑の執行猶予期間が既に経過しているので保護観察付きの執行猶予にしたことなどを説示したところ,書記官から犯行が前刑の保護観察期間中に行われたものである点を指摘され,約5分後に先に宣告した主文は間違いであった旨を告げ,あらためて懲役1年6月の実刑を宣告したというものである。
目出度し,目出度しと言いたいところだが,第一審の裁判官が自ら説示しているとおり,前刑は第一審の判決宣告期日以前に執行猶予期間が経過し,刑の言い渡しは効力を失っている。執行猶予を言い渡すことに法律上の支障はなかったのである。書記官から突然言われ,裁判官,余程動揺したのであろう。何事も慌ててはいけない。
第一小法廷は,上記の後,このままでは著しく正義に反するとして第一審判決及び原判決ともに破棄し,当初の第一審と同じく,懲役1年6月,保護観察付き執行猶予5年と判決している。因みに,裁判長は団藤裁判官。
判例検索システム 昭和51年11月04日 窃盗被告事件
刑法の関連条文
(執行猶予)
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは,情状により,裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間,その執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても,その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け,情状に特に酌量すべきものがあるときも,前項と同様とする。ただし,次条第一項の規定により保護観察に付せられ,その期間内に更に罪を犯した者については,この限りでない。
(保護観察)
第二十五条の二 前条第一項の場合においては猶予の期間中保護観察に付することができ,同条第二項の場合においては猶予の期間中保護観察に付する。
2 保護観察は,行政官庁の処分によって仮に解除することができる。
3 保護観察を仮に解除されたときは,前条第二項ただし書及び第二十六条の二第二号の規定の適用については,その処分を取り消されるまでの間は,保護観察に付せられなかったものとみなす。
(猶予期間経過の効果)
第二十七条 刑の執行猶予の言渡しを取り消されることなく猶予の期間を経過したときは,刑の言渡しは,効力を失う。
刑事訴訟法の関連条文
第三百四十二条 判決は,公判廷において,宣告によりこれを告知する。
刑事訴訟規則の関連条文
(裁判の告知)
第三十四条 裁判の告知は,公判廷においては,宣告によつてこれをし,その他の場合には,裁判書の謄本を送達してこれをしなければならない。但し,特別の定のある場合は,この限りでない。
(裁判の宣告)
第三十五条 裁判の宣告は,裁判長がこれを行う。
2 判決の宣告をするには,主文及び理由を朗読し,又は主文の朗読と同時に理由の要旨を告げなければならない。
(謄本,抄本の送付)
第三十六条 検察官の執行指揮を要する裁判をしたときは,速やかに裁判書又は裁判を記載した調書の謄本又は抄本を検察官に送付しなければならない。但し,特別の定のある場合は,この限りでない。
2 前項の規定により送付した抄本が第五十七条第二項から第四項までの規定による判決書又は判決を記載した調書の抄本で懲役又は禁錮の刑の執行指揮に必要なものであるときは,すみやかに,その判決書又は判決を記載した調書の抄本で罪となるべき事実を記載したものを検察官に追送しなければならない。