昨日の柔道世界選手権の女子63キロ級の決勝戦のことである。日本代表の田代未来選手は絶好調だった。得意の足技がさえて順調にベスト4に勝ち上がり、準決勝ではオリンピックチャンピオンのティナ・トルステニャクをも下した。決勝の相手は、力、スピード、技の切れのどれをとってもこのクラスでは傑出している実力ナンバー1のフランス代表のアグベニュ―選手である。彼女はここまで相手を寄せ付けない強さで勝ち上がってきていた。
田代はアグベニュ―をよく研究していた。右手で相手の利き腕の左をけん制しながら、小刻みに足技を出し、相手に思い切った技を出させないよう工夫していた。しかし、田代の側も常に相手をけん制し続けなければいけないので、思い切った技をかけることができないのは同じである。一瞬の気のゆるみ力のゆるみが即負けにつながる、息詰まるような緊張の中を田代はよく耐えた。耐えて、相手がつかれてきた場面で勝負をかけるつもりだったらしい。10分以上過ぎて、得意の大内刈りを放ったが、しのがれて逆にアグベニュ―の渾身の巻き込みを喰らってしまった。
勝負がついても、二人ともすぐには起き上がれない。まさに死力を尽くした戦いだったのだ。アグベニュ―は立ち上がるとすぐに田代の方に両手を差し出し、そして二人は抱き合った。二人とも目に涙をたたえている。アグベニュ―は日本語で田代に「ありがとう」とささやいたという。ともに同じ目標に向かい精進しあってきた相手へのリスペクトを感じさせる感動的な光景であった。
女子柔道の試合を見て、これほど感動したことは今までなかった。