日産、独立性に懸念 仏政府、ルノー通じ介入も
日産自動車とフランスのルノーは、国境を超えた自動車大手同士による企業連合の珍しい成功例とされる。だが、両社を結びつける役割を果たしてきたのは、19日に逮捕されたカルロス・ゴーン容疑者だ。日産とルノーは株式を持ち合う関係だが、ルノーの保有比率が上回っている。今後、ルノーの支配権が拡大する方向で資本関係が見直されれば、日産の経営の独立性が脅かされる事態にもなりかねない。
「アライアンス(3社連合)の将来にとって、プラスの方に働くように進めていきたい。菅義偉(すが・よしひで)官房長官にもサポートしていただけるという理解だ」
日産の川口均専務執行役員は20日午前、官邸で菅氏と面会した後、記者団の取材に応じた。政府の「サポート」について川口氏は具体的な言及は避けながらも、「日本とフランスの関係などもある」と述べた。
背景には収益力や企業規模で上回る日産が、資本関係ではルノーの下に置かれている“ねじれ”状態がある。日産のルノー株保有比率が15%であるのに対し、ルノーは日産株の43%を保有。日産が経営危機時に出資を受けたためだ。
2014年にはルノーの大株主である仏政府が、株式を2年以上持つ株主に2倍の議決権を与える「フロランジュ法」を制定し、ルノーを通して日産の経営に介入しようとする動きを見せた。“暗闘”が続いたが結局、15年12月に仏政府とルノーが日産の経営に関与しないことで合意。当時の担当大臣が現在のマクロン大統領という因縁もある。
だが今年3月、日産とルノーが合併交渉をしていると海外で報道された。ゴーン容疑者は資本関係を見直す意向を示したが、「対等なパートナーシップが競争力につながる。日産がルノーの完全子会社になる可能性はゼロだ」と断言した。
ルノーによる子会社化で日産への関与を狙う仏政府と、合併には慎重な立場のゴーン容疑者という構図が浮かぶ。今後、仏政府がルノーを通して影響力を行使すれば、日本政府は日産の独立性を守る立場で動くとみられ、両国の綱引きに発展する可能性もある。
独ダイムラー・ベンツと米クライスラーの統合が「世紀の合併」とされながら失敗したように自動車大手同士が手を組むことは難しい。日産・ルノーという「成功例」をつくりあげたゴーン容疑者の逮捕で両社の資本関係の行方は混(こん)沌(とん)としている。(高橋寛次)