ウイグル「絶望」収容所──中国共産党のウイグル人大量収監が始まった

2018年02月17日 | 政治社会問題


ウイグル「絶望」収容所──中国共産党のウイグル人大量収監が始まった
2/16(金) 18:36配信 ニューズウィーク日本版
ウイグル「絶望」収容所──中国共産党のウイグル人大量収監が始まった
古都カシュガルでも公安当局の取り締まりは強まる一方 Kevin Frayer/GETTY IMAGES
中国共産党が新疆各地でウイグル人を強制収容所に収監している
著名なウイグル人イスラーム学者で、『クルアーン』のウイグル語訳者として名を知られる82歳のムハンマド・サリヒ師が17年12月中旬、中国新疆ウイグル自治区の区都ウルムチの自宅から突然何者かに連行された。サリヒ師は中国共産党の強制収容施設に収監され、約40日後の18年1月24日に死亡した。


サリヒ師は36年、南新疆のアトシュ市に生まれ、長く中国政府のシンクタンクである中国社会科学院に所属。87年からは新疆イスラーム学院の学長も務めた。『ウイグル語・アラビア語大辞典』をはじめ多くの著作もある。イスラーム学の大家として、新疆ムスリム社会で崇敬されていたため、その知らせはテュルク系ムスリムに深い悲しみと衝撃をもたらした。

サリヒ師と共に作家の娘と娘婿、さらに2人の孫も連行されたが、一家が今どこに収容されているのか依然不明だ。この事件に憤慨した国外のウイグル人諸団体は、直後に各国の中国大使館に対して抗議デモを行った。かくも高齢な老学者がなぜ、「思想改造のための強制収容施設」に収監されたのか。

新疆ウイグル自治区では今、中国の主体民族である漢人以外の人々が、社会的地位も収入も一切関係なく、何の罪もなくして強制収容施設に収監されているとの報告が数多く寄せられている。ターゲットの大部分がウイグル人だ。

ウイグル人の10人に1人は拘束されているとの説もあるほど、多数の人々が「行方不明」になっている。アメリカの短波ラジオ放送「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」によれば、総人口約360万人のうち90%をウイグル人が占める南部カシュガル地区で、ウイグル人口の約4%に当たる約12万人が拘束されているという。

<要注意人物の「点数表」>

連行は強引で、職場から突然警官に「頭に黒い布をかぶせられて」連れ去られたとのケースも報告されている。収容所は、かつてウイグル語教育を行っていた学校の校舎などを転用。一部屋に何十人もが寝泊まりし、衛生状況も劣悪で既に多くの死者を出しているとの告発もある。

在日ウイグル人も例外ではない。日本に留学したり、日本の会社に勤務していたりしたウイグル人で、昨年夏に新疆へ一時帰郷し、日本に戻ってこられなかった人々が筆者の知る限り複数存在する。

彼らは帰郷した後、地元警察にパスポートを没収され、強制収容施設に連行されているらしい。収監者の親族は、身内が施設内でひどい扱いをされないよう気を使ってメディアや外国人に接触しようとせず、また親族自身も詳細を把握していない。

「もうこの半年、両親や兄弟と1本の電話も繋がらない」と嘆くウイグル人に、筆者は何人も会った。

強制収容所に関する情報は16年末あたりから現れ始めた。RFAウイグル語部門が本格的に取り上げたのが、17年8月初旬。以後、関連報道は急激に増え、現在に至るまで数日に1回の割合で取り上げられている。


要注意人物を抽出する点数表
昨年夏頃、ウルムチの河北西路居住区から、ウイグル人の中から要注意人物を抽出するための点数表が流出した。点数は100点で、(1)ウイグル人である (2)イスラームの礼拝をしている (3)宗教知識がある (4)(当局が要注意とする中東など)26カ国に行ったことがある (5)外国に身内がいる (6)外国留学した子供がいる......といった項目に該当すれば10点ずつ減点され、点数が低ければ要注意人物、つまり収容所送り対象者となる。

新疆では自治区の成立から現在まで、ウイグル人による反政府蜂起が頻発してきた。それでも、民族浄化を目的とすると言っても過言ではない、強制収容所をつくるという国際人権規約に反する行為を一国の政府が行うのは異常事態である。そしてこの収容所建設と、習近平(シー・チンピン)国家主席の経済圏構想「一帯一路」政策は大いに関係があると筆者は考えている。

胡錦濤(フー・チンタオ)主席時代の10年に第1次中央新疆工作会議が開かれ、新疆での「西部大開発」と経済活性化が目標とされた。しかし、結果としてその政策は新疆に住む漢人とウイグル人の格差を広げ、ウイグル人亡命者を増大させただけだった。その後、習が国家主席に就任した翌年の14年5月に第2次中央新疆工作会議が開催され、同11月から習は一帯一路政策を各地で本格的に提唱し始めた。

かつて日本が提唱した「大東亜共栄圏」の拡大版とも言える経済圏構想の実現には、中国からユーラシア大陸の出入り口となる新疆の安定化が必須だ。90年代から最近にかけてウイグル人反政府主義者が行ってきた公安当局や党幹部を狙った自爆攻撃などに、共産党は業を煮やしていた。反政府運動を効率的に弾圧し一帯一路を粛々と推進するため、以前のチベット自治区党委員会書記でチベット弾圧に積極的に荷担した陳全国(チェン・チュエングオ)が、16年8月から新疆ウイグル自治区党委員会書記に着任した。

<スクープ記者による告発>

RFAは96年に米議会が出資して首都ワシントンで設立された。言論の自由が保障されているとは言い難いアジアの地域に情報提供し、民主化・自由化を促すことを目的としている。

ウイグル語放送部門スタッフの中でも、ショフレット・ウォシュルは、ずば抜けて取材力のある記者で、片っ端から新疆に電話をかけ、中国語とウイグル語を駆使して繋がった相手から情報を入手する手法で情報を取り、スクープを連発してきた。

17年12月6日放送の記事によれば、新疆の公安当局は微信(WeChat)などのソーシャルメディアで国外留学中のウイグル人に連絡を取り、「帰国しなければ母親を強制収容所に送る」などと脅迫している。以下はトルコ在住のウイグル人留学生に対する、公安当局の脅しの一部だ。

「私は収容所の者だ。母親が大切ならこのアカウントを追加せよ」「トルコで暮らし、留学しているウイグル人の家族や親戚を収容所に収監し、強制的に『再教育』するようにとの上層機関からの命令がある」「おまえがトルコ留学中だから、母親がおまえの代わりに『再教育』をされる」「トルコ国内にいる全てのウイグル人家族が、代償を支払うことになる」


産業・経済が崩壊
これだけの人々が拘束されていたら、当然ながら産業や経済は崩壊していく。17年10月18日放送の記事では、南新疆ホタン市で大勢の商人が収容所送りとなったため、市内最大のバザールで店の3割が閉鎖され、顧客も半分程度に落ち込んでいる状況が紹介された。

同じく南新疆カシュガルのベシケリム村では、2000万平方メートルのブドウ畑のブドウが腐り始め、村民の暮らしを直撃しているという。取引をするウイグル人商人のほとんどが収容所送りとなり、買い手がなくて市場に出回らなくなったためだ。一方で、「商売敵がいなくなって、取引がうまくいっている」と語る漢人商人のインタビューも紹介された。

<キリスト教徒にも魔の手>

新疆では今「2つの顔を持つ不逞分子らを一掃する運動」が行われている。共産党幹部という顔と、実は民族主義者らを心の中で支持している顔という二面性を持つ者の意味であろう。この運動により、新疆各地の共産党幹部クラスも容赦なく収容所に送られているようだ。

17年12月21日放送の記事によれば、南新疆コルラ市のある地域の党書記を務めたこともあり、「民族団結模範」として表彰されたこともあるというナマン・バウドゥン(おそらく仮名)は、健康状態があまりに悪いため収容所に連行はされなかった。しかし、かつて「(党の)宣伝活動模範」として当局に表彰された妻のパティグリ・ダウット(彼女もこの10年で3回も手術を受けており、健康状態はよくない)は17年10月9日に拘束され、今も消息不明だ。

一旦はバウドゥンも収容施設に入れられる手続きのため警察署に行かされた。その際、「500人ほどが非常に広い会議室に並んでいた」と、彼は証言する。コルラには強制収容施設が4カ所あり、1500人以上が「再教育」を受けている。警察署で人の「仕分け」がなされ、脅迫や拷問を含む取り調べを受けて、その結果によって収容所に行くか、拘置所や刑務所に入れられるかが決まると、バウドゥンは語った。

彼は警察署で検査のために過ごした3日間のうちに、コルラの住民であるムタリプ・アブドゥウェリという25歳の青年が、鉄製の椅子に縛られ、手錠をかけられ手から血を流した状態で取り調べを受けているのを目撃した。こうした証言が命懸けであることは言うまでもない。


収容所の劣悪な環境
18年1月23日放送の記事で、カザフスタンのアルマトイから取材に応じたオムルベク・アリは、カザフ人とウイグル人の両親の間に生まれ、カザフ国籍を持つ人物だ。多言語に通じることから、カザフスタンの旅行会社に勤務していた。

アリは新疆東部ピチャンにある両親宅に突然現れた警察官に黒い布を頭にかぶせられて身柄を拘束され、どこかへ連行された。その際指紋や血液も採取され、警察の「仕分け」の結果、危険分子として「カラマイ市技術研修センター」の名の看板が掛かる収容所に送られた。カザフスタン外交官たちの働き掛けで、8カ月後にようやく「一切の訴えを起こさない」ことを条件に釈放されたが、収容所内の環境は劣悪で出所したときには体重が40キロも減少。帰国と同時に入院した。

アリは、現段階で収容所を体験した唯一の生還者だ。彼によれば、少なくとも収容所には約1000人が収容され、8割がウイグル人で2割がカザフ人だった。被収容者の年齢層は16歳から老人までと幅広い。農民から「2つの顔を持つ不逞分子」とされる公務員まで、1つの部屋に20人以上がすし詰め状態で寝泊まりしていた。

コミュニケーションは全て中国語で行うよう強要され、毎朝7時に点呼集合と中国国旗掲揚があり、国家と共産党に忠誠を誓うスローガンを叫ばされる。収容所側は、共産党の政策の素晴らしさを学ぶ政治学習や、愛国主義の講義を強要。プロパガンダ歌謡を中国語で正しく歌い、共産党への忠誠と感謝を述べるスローガンを大声で斉唱しなくては食事をもらえない。警察から最短でも1年の学習を厳命されており、彼の滞在中、誰一人として「卒業」した者はいなかった。

拘束されているのは、ウイグル人などのテュルク系ムスリムだけではないようだ。収容所には新疆のキリスト教徒が少なからず収監されたとの証言もある。

漢人でプロテスタントのキリスト教徒である張海濤(チャン・ハイタオ)は、16年に「国家政権転覆扇動罪」で有期刑19年の判決を受け、新疆中部シャヤール県の監獄で服役している。彼はネットの中で共産党の新疆政策とウイグル人弾圧を批判していた。妻子はキリスト教諸団体の尽力で、アメリカに政治亡命した。声を上げ、異議を唱えるキリスト教徒にも、政府は厳しい姿勢を取っている。

ウイグル人をはじめとする「良心の囚人」の命を担保に、一帯一路構想は進んでいる。

<本誌2018年2月20日号[最新号]掲載>

水谷尚子(中国現代史研究者)



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「五輪の陰で暴虐的な慣習」韓国の犬肉食べる文化、欧米メディア批判 カナダ選手、犬を保護

2018年02月17日 | 朝鮮エベンキ族
「五輪の陰で暴虐的な慣習」韓国の犬肉食べる文化、欧米メディア批判 カナダ選手、犬を保護
2/17(土) 9:19配信 産経新聞
 平昌五輪を取材する欧米メディアが犬肉を食す韓国文化を批判している。メディアの中には、養犬場に関係者とともに突撃取材するケースも。平昌五輪出場のカナダ選手は最近、韓国訪問に合わせて、ダックスフントを保護するに至った。

 「五輪の歴史に名を刻むため、選手たちがスケートやスキーの試合に挑んでいるとき、韓国国内で1万7000匹以上の犬が食用として虐殺されている」

 米CNNテレビ(電子版)は「五輪の陰で暴虐的な商取引」との見出しの記事で、こう指摘した。

 欧米の動物愛護団体「ヒューマン・ソサエティー・インターナショナル」(HSI)によると、韓国を含むアジアで年間、3000万匹の犬が食用として殺されている。HSIはこれまで、韓国国内の養犬場10社を閉鎖に追い込み、1200匹以上の犬を救ってきた。

 CNNはこうした養犬場の実態について「暴虐的に殺されるまで、(犬たちは)鶏のかごのような鉄かごに1匹で置かれる。彼らは1日に1回だけ水を与えられ、餌のクズを与えられるだけだ。欲してやまない人間との接触がただの一度もない。『ノー・ラブ(愛)』だ。医療措置もない。そして(それは)合法なのだ」と怒気を込める。

 昨年12月、CNNとともに養犬場を訪れ、170匹を救出したというHSIのメンバーは場内について、「衝撃的だった。臭いはひどく、環境は地獄絵そのものだ。そこにいた犬たちはとてもかわいらしく、(人間との)接触を求めていた。愛情を欲していた」と振り返る。

 平昌五輪出場のため、韓国を訪れているカナダのフィギュアスケート選手、メーガン・デュハメル(32)は最近、養犬場から「ムータエ」のニックネームを持つダックスフントを保護した。カナダに入国できるよう、すべの法廷問題を処理したという。

 英大衆紙「ザ・サン」によれば、デュハメルは「別の犬を(助けて)飼う豪華な生活力もない。ただ、その気持ちだけはある」と、絞り出すような声で語った。

 平昌五輪を機に、犬肉を食す韓国の文化に疑問を呈し、批判する欧米メディアは、CNNやザ・サンに加え、英紙インディペンデント、米紙USAトゥデー、米CBSテレビ、米フォックスニュースなど、多岐に及ぶ。

 韓国の犬肉事情に詳しいリー・キュンミン氏は韓国の英字紙コリア・タイムズで、「韓国の若い世代は(年配者と異なって)ペットを飼うことを好むようになり、犬肉を食すのを敬遠する傾向にある」と指摘。

 同氏は一方、犬を飼っているというキムと名乗る韓国人らしき男性の次のようなコメントも載せている。

 「外国メディアは平昌五輪のホスト国である韓国の顔に、“泥”を塗っているようにみえる…」(五輪取材班)
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米国在住「中華系反日リーダー」の死が日中関係にもたらすもの

2018年02月17日 | 政治社会問題


mar***** | 3時間前
世界一親日と言われる台湾が中共に統一されれば、短期間で世界一の反日の島になる
日本人はバカだから中台統一の危険性を認識できないしその恐ろしさを考えもしない

鄧小平が来日、松下幸之助にすがり工場進出をさせ、以後40年ODAをはじめ多大な資金を投資投入、しかしその結果は、松下工場破壊、国土の収奪、軍備拡張、やりたい放題の傍若無人ぶり。  これが中国人の素顔なのだろう。 国土発展に多大な貢献した結果銃を突き付けられ、国土の収奪を平気で公言、日本政府は中国に対して2度と笑顔を与えない事だ。

zs1***** | 1時間前
こんな輩が力を付けたのは、日本のクソ政治屋が馬鹿な大人の対応という事を続けた結果である。
また、大人の対応というのも実際には間違いで、波風を立てて自分に責任が及ぶのを恐れた、ただの自己保身でしかない。
日本は騒げは金を出して謝罪する。
こんなのを許しているのが今の日本のクソ政治屋共です。





米国在住「中華系反日リーダー」の死が日中関係にもたらすもの
2/17(土) 11:00配信 現代ビジネス
米国在住「中華系反日リーダー」の死が日中関係にもたらすもの
写真:現代ビジネス
彼らの目的は一体…
 今年1月20日、米国カリフォルニア州フリーモントで、ある人物の逝去をしのぶ会が盛大に開かれた。その対象となったのは、同月9日に腎臓がんにより71歳で世を去ったサンフランシスコ地域の在米華僑のリーダーの一人・賀英明である。

 彼は、南京事件や慰安婦問題といった日本の歴史問題の「真相」追及を訴え、議会への強力なロビイスト活動もおこなってきた全米最大の華人系対日強硬派団体「世界抗日戦争史実維護聯合会」(世界史維会:The Global Alliance for Preserving the History of WWII in Asia)の会長だった人物だ。

 世界史維会は1994年にカリフォルニア州で成立。以来、しばしば対日非難決議の採択を米国議会に働きかけ、2007年6月には同州選出のマイク・ホンダ議員(日系)を通じて、米国下院外交委員会で「慰安婦問題の対日謝罪要求決議」を採択させることに成功した。

 また2016年には、世界史維会と関係が深い華人系の元裁判長女性2人の働きかけで、カリフォルニア州の歴史教材に慰安婦問題の記述を正式に組み込ませることにも成功している。

 なお、昨年末に慰安婦少女像の設置問題を巡って大阪市が姉妹都市提携の解消を検討したサンフランシスコ市のエドウィン・リー前市長(華人系、昨年12月死去)も、生前に世界史維会の関連団体と密接なつながりがあり、2011年の市長選の際に彼らから多くのバックアップを受けていたことが現地中国語紙により報じられている。

 
ほかにも世界史維会は、募金を集めて『ニューヨーク・タイムズ』や『ワシントン・ポスト』に慰安婦問題の「真相」究明を求める広告を掲載させたり、「歴史の真実」を伝える展覧会を開催したりもしている。

 公式アナウンスによると、彼らの目的は日本政府に歴史問題についての謝罪と賠償を求め、また記念館や記念碑を建設していくこと。アメリカにおいて、いわゆる「歴史戦」の最前線を担っている団体だと言っていい。

台湾の親中派系華僑の反日組織
 このたび死去した世界史維会の賀英明会長は南京生まれ。もとは2歳のときに台湾へ移住した外省人1.5世の中華民国人だったが、1979年にアメリカに再移住した。移住後も中台の両岸統一や対日歴史問題の追求(追及)に熱意を燃やしており、1992年にカリフォルニア州で結成された世界史維会の前身団体に加入。長年活動にたずさわり、4年前から世界史維会の会長を務めていた。

 ほか、彼は台湾の親中派政党である新党(New Party)の在米組織に加入しており、2000年には中台統一を訴える北カリフォルニア州中国和平統一促進会の創立メンバー兼初代理事にもなっていた。

 現地中国語紙『US CHINAPRESS(僑網)』ウェブ版の報道によると、賀英明の追悼会には世界史維会の関係者のほか、華人系の慰安婦問題運動団体「“慰安婦”正義連盟」の主席2人、「新党」の関係者などさまざまな人々が出席。なかには駐サンフランシスコ中華人民共和国総領事館の副総領事・査立友の姿もあったという。

 全体的に、中国政府や台湾(中華民国)の親中派との強い政治的結びつきを感じさせる顔ぶれである。

 なお、私は過去の記事<南京・慰安婦を世界に? カナダを席巻する「華人系反日運動家」の素顔>(http://gendai.ismedia.jp/articles/-/53524)で、カナダのオンタリオ州にある華人ロビイスト組織、トロント・アジア第二次大戦史実維護会(史維会:ALPHA Education)リーダーのジョセフ・ウォンを紹介したが、現地で当事者に取材したところ、彼らとカリフォルニアの世界史維会には直接の関係はないらしい。

 こちらのトロントの団体の場合、歴史問題への姿勢は強硬だが、他方で現在の日中両国の政治問題には距離を置いている(たとえば彼らは安倍政権や日本の改憲などには関心がない)。彼らに日本人そのものを民族的に敵視したり中華民族のナショナリズムを強調したりするギラついた姿勢は薄く、少なくとも上層部は中国共産党と濃厚な提携関係は持っていない模様だった(なお、こちらのリーダーのジョセフは中国返還前にカナダに移住した香港系の慈善活動家で、他の幹部も似た経歴の人が多い)。

 
一方、賀英明が率いたカリフォルニアの世界史維会はより政治的でナショナリスティックである。サンフランシスコ地域の華人団体のウェブサイト『同湾同享』に世界史維会のメンバーが投稿した記事を確認すると、彼らは過去にしばしば「抗日戦争勝利」を記念する集会を開催しており、トロントの組織と較べても中華ナショナリズムの匂いが非常に強い。

韓国系団体とも提携して……
 また、賀英明は2015年4月に安倍首相がサンフランシスコを訪問した前後には、「安倍による軍国主義復活」に抗議する在米華人の集会に参加。韓国系団体とも提携したこのときのデモでは、銃を抱えた安倍首相のイラストの上に「真珠湾攻撃をもう一度やる」と書かれた反日プラカードまで登場している。

 明らかに、日本を政治面で必要以上に悪魔化したり、在米邦人の現地社会での立場が明確に悪化することもいとわない「反日」的な姿勢とみるしかないだろう。

 カリフォルニアの世界史維会は、賀英明のほか、前会長の丁元や李競芬など、歴代のリーダーは中華民国出身の台湾外省人系移民が多い。

 日本では「親日」イメージが強い台湾だが、中高年層の外省人には中華ナショナリズムや反日感情が強い人も多く、また彼らは過去の国民党体制と親和性が強いことから専制的な政治体制にあまり抵抗感がないため、台湾が民主化した2000年代以降は、中国大陸の共産党政権との提携にも積極的である。

 事実、世界史維会は他に、中台統一を訴える中国和平統一促進会という親中国共産党組織と、組織的にはほぼ重複している模様だ。ほかに海外華僑のナショナリスト組織と思われる海外興中会や、台湾の親中派政党「新党」など、イデオロギッシュな団体との結びつきも強い。

 会長の賀英明や、関連組織がバックアップしていたサンフランシスコ市長のエドウィン・リーらの「大物」が相次いで亡くなっているものの、世界史維会は組織全体としてはまだまだ元気な印象だ。

米国在住「中華系反日リーダー」の死が日中関係にもたらすもの
カナダ、トロント市内のチャイナタウン。中国系住民の存在感は大きい。筆者撮影
過剰な反日宣伝を警戒すべき理由
 北米で華人系の歴史問題ロビイスト組織が元気なのは、世界史維会が本拠地を置くアメリカのカリフォルニア州をはじめ、同じくニュージャージー州、カナダのオンタリオ州・ブリティッシュコロンビア州といった、政治的にリベラルな傾向が強くダイバーシティ(多様性)に「寛容」な地域である。

 さまざまな人種や民族が暮らすこれらの地域では、マイノリティであるアジア系住民も活発な政治進出や政治的主張がおこないやすい環境にある。だが、このことは事実上、アジア系住民のなかでもっとも数が多くて組織力も高く、また高所得者や高学歴者も多い華人系の住民の声が突出して高くなるという現象を生むことになっている。

 結果的に、「マイノリティの主張」として強烈な中華ナショナリズムが反映されたり、北京の共産党政権や中華民国の外省人系政党の関与を受けたり、日本の歴史問題について学術的に事実関係が確定していない「歴史の真実」をセンセーショナルな表現で声高に宣伝される例も増えるというわけだ。

 特に歴史問題については、戦勝国であるアメリカやカナダでは、戦争被害についての極端な主張がそれほど違和感なく受け入れられる土壌がもともと存在しているため、いっそう力を持ちやすいと言える。

 第二次大戦の勝者であるアメリカ・カナダの両国で、現在の世界で台頭する「勝者」である中国がからんでおこなわれる対日歴史問題の宣伝活動は、日本がそう簡単には対抗できそうにない。

 そもそも日本は先の戦争に負けているため、たとえ勝者の歴史観を一方的に押し付けられたとしても、国際社会向けにあからさまな反論をおこなうことが難しい立場でもある。

 だが、特に中華ナショナリズムや日本への憎悪感情からおこなわれる過剰な反日宣伝については、将来的に現地の在留邦人や日系人に対するヘイトクライムを招く可能性もあるため、決して座視できないはずだ。

 いかに傷口を広げずに沈静化させていくか、今後も日本政府の外交力が試される問題だといえるだろう。


安田 峰俊


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