狸便乱亭ノート

抽刀断水水更流 挙杯消愁愁更愁
          (李白)

愛国の定義

2005-10-31 05:24:04 | Weblog

愛国
何れの国を問はず、其の国人民の愛国心の弛張は、実に一国拳固元気の消長に関するものなり。

抑々人民相集りて社会を成し、国家を組織すと雖も、其の愛国心欠乏する時は、一国元気の振興は、決して望むべからず。国家多事の際に当りて、最も貴重すべきは、国民各自の愛国心なり。若し之なくんば、以て敵を破り、乱を鎮め、国威を宣揚すること能はざるなり。

斯く愛国心は、一国の精神となりて、国家の元気を左右するものなれば、其の関係する所、実に重く且大なりと謂ふべし。

我が大日本帝国が、皇統連綿たる一帝室を戴きて、開闢以来尺寸の地をも他国に侵略せられたることなきは、実に一国特有の名誉にして、即ち一国特有の精神なり。神功皇后・北条時宗・豊臣秀吉等の名君勇将が、偉大の功勲を顕し、国威を海外に輝かしたるは、此の精神に数層の勢力をへ、之をして、益々鞏固ならしめたるものなり。此の外士人又は匹夫にして、愛国の心固かりしものも、古来其の人に乏しからず。弘安の役に、伊予の国人河野道有が、伯父道時・嫡子道忠と共に、元寇征討の軍に加はりて、抜群の功績を顕したるが如きは、今に至るまで、殊に世人の称揚する所なり。

熟々日本帝国近時の形勢を察するに、欧・米諸国と競ひ立ちて、文明の利器を用ひ、外は対外の方略を立てて、国威の皇張を謀り、内は富国の策を講じて、社会の進歩を促し、以って我が帝国をして、東洋の一大文明国たらしめ、漸く宇内の列国を凌駕せんとするの勢いに至れり。

曩に我が国支那と戦を開くに當りて、我が幾千万の将士兵卒は、身異域の渡り酷熱を忍び、烈寒に堪へ、陸海共に古来未曾有の奇勲を奏し、終に支那をして非を悔い和を乞ひ、台湾・澎湖島を致して、以って和を乞ふに至らしめたり。

是豈偶然の僥倖ならんや、畢竟我が国人、万世一系の天皇を戴き、国家の為に、祖先以来久しく沐浴したる君恩に報い奉らんと欲するより、一士一卒と雖も、皆以て聖詔を奉じ、生を軽んじ、死を甘んじ、敵を見ては一歩も退かざる愛国心の致す所なり、故に我等は、彌々益々此の心を養ひ、以て我が大日本帝国の基礎を固くし、竟に世界唯一の文明富強の国たらしめんことを期すべきなり。

高等国語読本巻七終
明治三十三年十月十八日 印刷
同 三十三年十月二十八日発行
    定価金弐拾四銭

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弛張=①緩むことと、張ること.②寛大なことと厳格なこと。