呉明憲コンサルタントの中国ビジネス日記

中国の最新情報を上海・東京・神戸を拠点に活動する株式会社TNCリサーチ&コンサルティングの呉明憲が紹介します。

高収入者に対する徴税管理の強化

2010年06月11日 | 日記
 《一段と高収入者の個人所得税徴収管理を強化することに関する通知》というものが公布された。ポイントは次の通りだ。

1.財産譲渡所得の徴収管理の強化
・販売制限株式の譲渡所得の徴収管理
・非上場会社の株式譲渡による所得の徴収管理の強化
・不動産譲渡所得の徴収管理の強化
・オークションによる所得の徴収管理の強化

2.利息、配当、配当金所得の徴収管理の強化
・配当。配当所得の徴収管理の強化
・利息所得の徴収管理の強化
・個人の法人企業からの消費性支出及び投資企業からの借入の管理

3.規模が比較的大きい個人独資企業、パートナー企業及び個体工商戸の生産、経営所得の徴収管理の強化
・帳簿作成管理
・非法人企業の抹消登記管理
・個人消費支出と非法人企業生産管理支出管理の強化

4.役務報酬所得の徴収管理及び給与・賃金所得の対比管理の強化

5.外国籍個人が取得する所得の徴収管理の強化

 貧富の差がどんどん激しくなっていってる中、それを是正するため、そして単純に税収を確保することを目的としたものであるといえる。しかし、徴税対象になるのは当然表に出せる収入だけだ。表に出ない収入、いわゆる「灰色収入」は申告しようがないので、当然徴税の対象外となる。先日ある中国人と話していたところ、中国系の銀行員の収入は凄いという話になった。30歳くらいの融資担当者だと2-3百万円くらいもらえると言われた。日本の銀行マンと比べ物にならないくらの収入だ。そんなもらってるわけないでしょうとこちらがいうと、それくらいの灰色収入があるんですというコメントが返ってきた。本当かどうかは知らないが、こういう話が噂されるように、灰色収入に対する妬みも庶民感覚的にはかなりあるようだ。個人所得税の徴収管理をいくらしても灰色収入に影響しないだろう。今まで数え切れないくらいの賄賂を取り締まるような通達が出ているが、新聞報道等を見る限りではあいも変わらず贈収賄は頻繁に行われている。賄賂や灰色収入が認知されてしまうという文化が変わらない限り、こういった妬みは変わらないだろうし、貧富の差も埋まっていかないのではないだろうかと思う。 ジニ係数という所得分配の平等さを測る指数がある。中国では10年前に0.4を超えて以来、年々上昇して現在では0.47にまで達している。これがどれだけの数値であるかは次をご覧いただきたい。

    ~0.1 非常に平均化されているが仕組まれる人為的なものがある。
 0.1~0.2 相当平等だが、発展への努力を阻害する懸念がある。
 0.2~0.3 社会で一般的な分配型である。
 0.3~0.4 少々格差はみられるものの、競争という面からは好ましい。
 0.4~0.5 格差がきつく、社会不安定要素がある。
 0.5~    特段の事情がない限り早急な是正が必要。

 最悪水準の0.5超には至ってないものの、今のペースだとそう遠くないうちに0.5を超過しそうだ。ここ最近中国進出企業の賃上げに関する報道が数多く紹介されているが、ジニ係数の角度から見ると確かに賃上げは必要なのだろう。しかし、賃上げを行いすぎると中国でのものづくりの魅力がなくなってしまう。そのため、単純なものづくりからモデルチェンジすべきだという議論が良くなされるが、既述したように、賄賂や灰色収入が認知される文化を変えていかないと庶民の不平等感も変わらないだろうし、これが変わることによって権力者に対する富の集中が分散し、ジニ係数的に見ても本来あるべき姿になっていくのではないだろうか。 それにしても、社会主義国のジニ係数が一般的な資本主義国を上回っているというのはなんとも皮肉だ。