社長つれづれ日記

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悲哀

2006年01月12日 | 仕事
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*この日記は日々の行動を小説風に書き留めたものです。


 栄一は唇をかみ締めた。

 (なぜ、あんな言葉が言えるのだろう…)

 (人に頭を下げ、何とか仕事を頂いた経験のある人間なら、仕事を持ってきてくれることに関して、素直に感謝できるはずなのに…)

 (もちろん、何でも仕事が来たからOKという訳ではない。しかし、その仕事を持ってきた相手に対する敬意は払うことができるだろう。まして、その仕事に関わりたいなら、なおさらのことである)

 (天動説だ。天が動いてくれると思っている)

 栄一は、メジャーブランドの奢りに対する憤り、知名度のない中小企業の悲哀、そんなものを同時に感じていた。



 (俺たち中小企業は、会社の名前だけで営業ができるということはほとんどない。先ず、会社の名前を言ってもお客様が会ってくれない。よしんば会えたとしても、その場で門前払いだ。何度つらい思いをしたか。何度くやしい思いをしたか…)

 栄一の中で、かって営業の前線で仕事をしていたときのことを思い出す。

 (最近は、少しは地域に知られるようになってきたが…)

 (しかし、もっと力をつけたい、もっと力をつけて社会に誇れる会社にしたい)

 栄一は、なお強く、心に言い聞かせるのだった。

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 栄一が会社に帰ると、愛媛大学法文学部総合政策学科の水口教授が来社をしている。

 水口教授は愛媛県中小企業家同友会が主催する同友会大学の講師であり、また、昨年実施された四国経産局が主催する「経済人と学生による上海ミッション」の団長でもある。栄一とは色々と交流のある先生である。

 今日は、愛媛大学が今春から実施するMOT「技術経営」教育についての、企業ヒアリングで我が社を訪問していた。

 (ようわからん・・・)

 栄一は、しばらくそう思いながら聞いていた。

 「MOTって、まだよく理解できていないんですけど、どういう事ですかね」

 「ああ、MOTってのはね、技術経営って言う意味でね、それはね・・・」

 「それなら、理念と戦略と計画の整合性については、どうしても説明がいりますよね」

 「そこのところは、きちんと講義をしておいた方が良いね・・・」

 栄一と水口との会話は弾む。午前中の栄一の不愉快な思いは、ここでは消えていた。

 水口は、その親しみやすい人柄が影響するのか、それとも、経営学専攻の専門性がそうさせるのか、栄一のような中小企業経営者とも気さくに話ができる。今日も時間を忘れて、色々意見交換をしている。

 (地元に、このような学者がいるのは大変有り難いことだ)と、栄一は思った。

 水口は次の予定が迫っていたのか、時間を気にしながらあわただしく会社を出て行った。

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 この後の栄一は、また、午前中の不愉快な思いを思い出してか、事務所の中をうろうろしながらぶつぶつ独り言を言っている。

 (あーー、腹が立つ。・・・)

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 栄一は二番町の繁華街を歩いている。これから愛媛県IT推進協会の理事会・新年会へ出席するところだ。少し景気が良くなっているせいもあるのか、街は人通りが多い。

 マフラーに少し首を縮めながら、足早に歩く。

 (今日の天秤座は、仕事運☆五つ、金運☆五つ、恋愛運☆五つの絶好調の日だったはずなのに・・・。何が絶好調だ・・・)

 栄一は、また、独り言を言いながら、会場である料亭の入り口をガラリと開けた。

つづく

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