美術の旅人 Voyageur sur l'art  

「美術」との多様な出会い。見たこと、感じたこと、思ったこと。

アンドリュー・ワイエス展 5/26~7/22

2012-07-22 18:14:36 | レビュー/感想
宮城県美術館で丸沼芸術の森所蔵の「オルソン・シリーズ」から水彩と素描120点が展示されていた。あと1日で終わりという土曜日に回ってみたが、気持ちを高揚させるような生命感に満ちた作品はない。若い時に少なからずロマンテックな思いで見ていた「クリスティーナの世界」が、随分と計算され組み立てられた作品だと知ったことが唯一の収穫か。少なくてもワイエスは素直に感情のおもむくまま絵を描いた画家ではない。

「クリスティーナの世界」が完成するまでには数多くの習作がある。繰り返し描かれたオルソンハウス、そしてクリスティーナのデッサン。オルソンハウスは殺風景と言ったらいいほど魅力のない建物だ。そして正面から描かれたクリスティーナはお世辞にも美人とは言えない鷲鼻のきつい目をした女性だった。しかも初老と言ったら良い年だ。(そういえばクリスティーナの手は年老いた農婦の手だ)この切り詰められたマテリアルで彼は何を描こうとしたのか。

ふとスティーブン・キングのホラー映画を見ているようなゾクゾクする気分になって、窓に人影を探している自分がいる。「幽霊」というタイトルの作品があったから作者もそうした乾いた霊の世界に突破口を見いだそうとしているのだろうか。しかし、それはスティーブン・キングの作品がそうであるように「ほのめかし」「肩すかし」で終わる。

この風景は室内であろうと草原であろうと内向的な閉じた感じを受ける。窓からカーテンを揺らして吹き込む風を描いている作品が数点あった。(「海からの風」)作者は唯一外から吹き込んで来る自然の風に神経症的な閉塞感を打ち破るリアルな解放の力を期待しているかのようだ。

それにしても水彩でこの技術はやはり天才的だ。納屋の中の牛(「オルソン家の牛」)のボリューム感はもちろん、その手触りさえ感じさせるデティール表現には驚嘆させられた。

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