美術の旅人 Voyageur sur l'art  

「美術」との多様な出会い。見たこと、感じたこと、思ったこと。

シャガール展  宮城県美術館

2013-09-25 14:45:57 | レビュー/感想
主がシオンの捕われ人を連れ帰ると聞いて
わたしたちは夢を見ている人のようになった
そのときには、わたしたちの口に笑いが
舌に喜びの歌が満ちるであろう

種の袋を背負い、泣きながら出て行った人は
束ねた穂を背負い
喜びの歌をうたいながら帰って来る
                    (詩編126)

シャガールの幻想的な絵の背後には、ディアスポラとして生きざる得ないユダヤ民族の悲しい歴史が張り付いている。浮遊する人物や動物は、帰るべき国土を失ってさまようものたちの姿であるかのようで、微笑んでいてもどこかみな寂しげに見えるのは、我々の感性に引き寄せ過ぎなのだろうか。シャガールが幻想的と呼ばれることを嫌い、自らをリアリストと称したのも、迫害によって故郷を追われたユダヤ人の集団的な記憶が心に染み付いているからだろう。シャガール画の根本的な理解し難さは、亡き妻への個人的な想いは別にして、民族が背負った深い歴史層までは、我々が到底下りて行けないところから来ている。そうであるなら、失われたものたちの壮大な回復への強烈な夢として描かれている彼の絵の世界は、「幻想的」というお手軽な言葉で評する以外なす術がない。しかし、一方で、前倒しに進むばかりで、その都度その都度の幸せに満足し、根源的に回復されねばならないものを見いだし得ない我々の不幸、空虚な実情を思う。津波が全てを引きさらって行った後の廃墟に真に取り戻すべきは何か。

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