美術の旅人 Voyageur sur l'art  

「美術」との多様な出会い。見たこと、感じたこと、思ったこと。

「 型絵染人間国宝 芹沢銈介展」8/04~10/08

2012-09-21 00:58:49 | レビュー/感想
芹沢は、染織家の道を選ぶ前の若い頃、油絵を描いていた。その数少ない作品のうち2点、「柘榴」と「樹木」を描いた作品が展示されていた。後者の作品は、工芸デザイン家としての才覚を予見するような絵で、芹沢の工芸デザインのオリジナリティーが、自然の景物の綿密な写実をベースにしていることを物語っている。絵の脇の説明板から、このとき芹沢が私淑していた画家が「存在の不思議を描いた岸田劉生」であるということを知った。意外な取り合わせだ。しかし、ここには芹沢の染色デザインの創造の謎を解く鍵があると思う。

芹沢の岸田好きは、師、柳宗悦の民芸運動の底流をも照らし出す。柳が起こした民芸運動は、工業化の進展に歩調を合わせたバウハウスのモダンデザインの流れとは異質なものだ。そのことは愛弟子である芹沢の染色に描かれた文字デザインにも表れているように思う。タイポグラフィーというフレームの中で、パターン的展開ルールを作らない、たとえば文字に翻った布の動きを加えるというのは、どこかに機械的抽象化をはばむ身体感覚的要素を残しておく、ということであろう。ユニバーサルなデザインの方向性を拒絶して、あくまでもローカルな身体感覚から普遍性を紡ぎだそうとする芹沢のこだわりがそこにはあるように思う。

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