美術の旅人 Voyageur sur l'art  

「美術」との多様な出会い。見たこと、感じたこと、思ったこと。

「東北の作家たち展Ⅴ」に寄せて  8月1日(土)~ 30日(日)加賀市大聖寺町ギャラリー萩他

2015-07-31 16:09:23 | レビュー/感想
かつてリアス式海岸沿いの狭い土地に張り付くように密集していた街はほとんど消滅してしまい、家並みに隠れていた海が間近に迫って見える。地元に住む人々には一変した有様も、初めてこの地を訪れた人の目には前からこうであったように映ずるはずだ。復興が元の姿に戻すことなら、もはやそれは不可能であろう、と誰もが思っている。この現実の中で前へと歩み続けなければならない。

震災から5 年、そんな東北に生きる工芸家たちを、加賀の方々が引き続き招いてくださっている。あの震災の何年かは、東北の作家たちも、加賀を訪れ、この地の多くの人々から特段のおもてなしを受けた。もはや地元では物が売れない、それだけでなく果たしてここで物づくりが続けられるのかどうか、気力も萎えかかっていた作家たちに、工芸王国からのこの招きがどれだけ励みになったか。感謝の思いを今、新たにする。

震災前、加賀は、多くの東北の作家たちには地理的にだけではなく遥か遠くの存在だった。九谷焼であまりにも有名な彼の地で、東北の作家のひとりとして遇されることは、プロの工芸家としてのあり方をときに厳しく問われるきっかけにもなったと思う。

むしろ地方地方に残された特徴的なローカリティーを大事にすることが、グローバルに羽ばたくことにつながる時代でもある。評価の基準が中央のトレンドに左右されがちな中で、この直接の結びつきが、別な尺度で創作に取り組む道につながってほしいと思う。

工芸家たちの生活は相変わらず苦しい。教室の収益に頼らざるえない現状がある。それどころかアルバイトに追われ作品づくりに戻れていない者もまだいる。しかし、一方 で、ふるさとの山があり、川があり、海が見える。この風土でなければできないものがあると信じて作り続け、新しい取り組みをしようとしている作家たちがるいる。その成長をお見せできる展示になればと願っている。



震災の年から毎年続けて、5年目になる今年も、加賀市のギャラリー萩さんの企画で「東北の作家たち展」がこの8月から9月半ばにかけて開催されます。以上はその開催に向けて感謝の思いを込めて寄せた文章です。震災が急速に風化する中で、利得の薄いこのような催しを今年も企画してくださり、運営の労をとってくださった加賀市大聖寺町のギャラリー萩様をはじめ、会場をお貸しくださった山代温泉九谷焼体験工房COCO様、柴山町ホテルアローレ企業様のご厚意に心より感謝申し上げます。日本の「おもてなし」の心の原点は加賀にありです。

写真 気仙沼市の海 (気仙沼市在住ガラス工芸作家菊田佳代さん撮影)