美術の旅人 Voyageur sur l'art  

「美術」との多様な出会い。見たこと、感じたこと、思ったこと。

洲之内コレクション展 4月11日~6月7日

2009-06-06 19:22:16 | レビュー/感想
雨の日の会場、明日が最終日とあって、思ってたより人が入っていた。実は会場に来るのは2度目である。最初に来たときは、正直言って、心に迫ってくる絵はなかった。どこかもの足りない、この感じは何だろうと思った。唯一の例外は木下晋の「女の顔」であったが、それは素晴らしい絵を見たときの感動とは別次元のものであった。その「恐ろしい顔」に、私は昨年亡くなった母親が死の間際に見せた目の表情と同質のものを見ていた。洲之内徹は「ほんとうに恐ろしいのはその顔ではなくて、その顔の凝視しているものが恐ろしいのだ」と述べているが、見つめる究極の対象は「死」ではなかろうか。死の瞬間には、誰もが仮象をはぎ取ったリアルな存在としての死に対峙しなければならない。展示されている絵の作家のほとんどは物故者になっていた。洲之内徹は並はずれた「友愛の人」なのであろう。会場には洲之内にコレクションというかたちですくい取られた、必ずしも幸福ではなかった画家の魂の叫びや呟きが満ちているようであった。再度訪れた今日は、一つ一つの画家の絵がより親わしく感じられた。しかし、それは絵が発しているルサンチマン(このルサンチマンを画家に寄り添って読み解くのが洲之内の文学的な絵画批評の骨法だ)が、だんだん理解できるようになったためであろう。日本に暮らす者にとって絵はそのようであっても良いのだろうが、それではドメスティックな価値を超ええないのでは、と一方で思う。

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