“カモッラ”(CAMORRA)とは、18世紀に端を発し、イタリアのナポリを主な拠点とする都市型の暴力・犯罪企業集団のことだそうだ。かつてのマフィアをはるかに凌駕する権力と経済力を持ち、ドラッグ売買、産業廃棄物の不法処理、オートクチュール・ファッションの製造、海外不動産への投資など利潤追求を至上とする組織。その戦慄の実態に迫る実録が、イタリアの才人マッテオ・ガッローネ監督の「ゴモラ」(10月29日公開)です。
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原作は、06年に出版後、イタリア国内で100万部のベストセラーとなり、世界40か国以上で翻訳されたノンフィクション小説「死都ゴモラ」。“ゴモラ”とは、旧約聖書のエピソードで知られる、神の怒りにふれて焼かれた悪徳の街のこと。著者のロベルト・サヴィアーノは出版時27歳(映画では脚本にも参加)。自らカモッラに潜入し、数々の事実を調査、巨大組織の実態を克明に記した。そのためカモッラから暗殺指令が出され、現在では24時間、警察の保護下に置かれ、数人のボディーガードに警護されているという。
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映画は5つの挿話から構成される。組織の一員となり、あらゆる悪事に手を染める少年トトの転変。組織のメンバーの家族や遺族に給料を届ける帳簿係ドン・チーロの裏切り行為。フランコ(トニ・セルヴィッロ)の産業廃棄物処理会社で管理の仕事を得た若者ロベルトの苦悩。高級オートクチュールの下請け工場で不正な仕事につき、組織に内緒で中国人縫製業者に手を貸す仕立て屋パスクワーレ。ブライアン・デ・パルマ監督の映画「スカーフェイス」にあこがれ、組織の武器などを強奪する狂気のチンピラ・コンビ、マルコとチーロの凄惨な最期。これらの話は底辺でつながり、血なまぐさいシンフォニーを奏でる。
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中でも、麻薬密売の一大市場となっているスラム化した集合住宅のシーンが圧巻だ。住民のほとんどが麻薬密売にかかわり、内部抗争のさなか屋上で水遊びをする子供たちと、屋上から通りを監視するカモッラの男たちを同時にとらえるロングショット。また、有害物質の不法投棄や過酷な労働環境で、平然と利潤を追求する経営者。組織の活動以外に未来を見出せない少年や若者の実態。ガローネ監督は、そんな事実に殊更な解釈を加えず、事象をポンと投げ出すような、乾いたリアリズム・タッチの映像を作り上げた。
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この手法は、第2次世界大戦直後にロベルト・ロッセリーニやヴィットリオ・デ・シーカといった監督たちが確立したネオリアリズムの作法に近い。加えて、イタリア映画は音楽の使い方が巧みだ。冒頭の殺戮シーンに流れる感傷的なカンツォーネ。コカインを奪ったチーロが、ジュークボックスから流れるネオメロディカの曲に合わせて歌い踊るくだり。そして、仕立て屋が中国人縫製業ファミリーを訪れる場面では、テレサ・テンの甘い名曲「小城故事」(シャオチャン グーシ)が流れる。この落差の激しさが、非情な現実を際立たせる。本作のような力技の異色作が単館公開とは? 日本の映画興行界は本当にダメだね。
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