わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

園子温の猛毒ブラック・コメディー「冷たい熱帯魚」

2011-01-23 18:44:22 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img389「愛のむきだし」(09年)で話題を呼んだ園子温(その・しおん)監督の新作が「冷たい熱帯魚」(1月29日公開)です。前者が究極の愛のせめぎあいを描いた作品だとすれば、今回は究極の人間不信と暴力をテーマにした衝撃作。ドラマの主要素は、家族の崩壊、打算的な人間関係、人間の肉体に対する絶対的な暴力、即物的なセックス、次世代に対する不信、といったところだろうか。主人公は、小さな熱帯魚店を営む社本(吹越満)。彼の家庭は崩壊寸前だ。妻の妙子(神楽坂恵)が、冒頭、ふてくされた態度でレトルト食品を用いた食事を用意するシーンが、すべてを物語る。そして、この継母を嫌う社本の娘・美津子(梶原ひかり)は超反抗的で、スーパーで万引きまでやってのける。
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 そこにつけこむのが、巨大熱帯魚店のオーナーである村田(でんでん)だ。彼は、稀代の悪党で、美津子を店員として雇い、妙子を誘惑する。更に社本は、村田の悪徳商法に巻き込まれる。村田は、妻の愛子(黒沢あすか)らと共謀して、高級魚のビジネス話を持ちかけては、融資者を殺害していたのだ。この、でんでんと黒沢あすか(ともに好演!)が演じる夫婦の悪逆行為がすさまじい。犠牲者の遺体を山奥の古小屋に持ち込み、慣れた手つきで風呂場で死体の解体作業を行うのだ。小屋の中は、マリア像や十字架、ロウソクの灯りで飾られている。この異様な雰囲気は「愛のむきだし」でもおなじみだ。臆病な社本は妻子を村田の人質に取られた形で、やむなく彼のバラバラ殺人に加担することになる…。
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 この作品は、監督の実体験と、埼玉の愛犬家殺人事件や、その他の事件にインスパイアされて生み出されたものだとか。徹底した人間不信を、絶対的な暴力で暴き立てる。現代の不毛な状況の中で、肉体への加虐が正当化され、論理化される過程が、圧倒的なパワーで展開されていく。主人公の社本が、やがて暴力に傾斜し、周囲を制圧していくくだりが凄まじい。こうした暴力と死の世界が、ダーク・ファンタジーとして、また悲喜劇としてとらえられる点が、園ワールドの特色だろうか。薄暗い店内で熱帯魚の水槽を照らす照明の不気味さ。「愛のむきだし」で男女を追いつめていく新興宗教を思い出させる村田の邪悪さ。得体の知れない薄気味悪さを発散させる社本の娘。暴力や相互不信で何が解決できるのか、と思いながらも、登場する人物の奇妙なリアリティーに引き込まれてしまいます。


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