わくわく CINEMA PARADISE 映画評論家・高澤瑛一のシネマ・エッセイ

半世紀余りの映画体験をふまえて、映画の新作や名作について硬派のエッセイをお届けいたします。

木村祐一監督の人生賛歌「ワラライフ!!」

2011-01-26 18:53:41 | 映画の最新情報(新作紹介 他)

Img390 芸人、構成作家、料理人、俳優と、さまざまな顔を持つ木村祐一の映画監督2作目が「ワラライフ!!」(1月29日公開)です。タイトルは“What a Wonderful Life !!”を縮めたもの(?)だとか。木村監督が、幼少のころの思い出から現在に至るまでの自身の体験をもとに、さまざまな出来事を掘り起こして作られた作品だそうだ。現在の生活と過去の記憶を組み合わせながら、家族の日常生活を積み重ねて描くというスタイルをとっています。
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 主人公は、東京でひとり暮らしをしている青年・修一(村上純)。彼は、恋人まり(香椎由宇)との結婚に向けて、ふたりで暮らす部屋を探している。ある日、訪れた不動産屋で応対に出たのは、小学校で同級生だった弘之(高岡蒼甫)。十数年ぶりの再会だが、子供のころのある事件のせいで気まずい思い出が残っている。そのころ、修一の両親の肇(吉川晃司)と慶子(鈴木杏樹)も引っ越すことになる。修一は、荷物が運び出される実家を眺めながら、明るく、にぎやかだった家族との過去の日々を思い起こしていく。
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 ほとんどストーリー性はなく、ホームドラマとしても余り葛藤はない。生活のディテールを丁寧に描写していく演出が見どころだ。「こだわったのは生活環境というか、家のたたずまい。家にある家財道具。冷蔵庫だったり、洗濯機だったり、車、その辺の加減ですね。金持ち過ぎず、いわゆる中流という表現をする美術や衣装です」と、木村監督は言う。そして、家族で行った海へのドライブ、ゲームのルールで争った弟とのケンカ、姉(田畑智子)とともにごまかして貯めたお年玉、ほのかな憧れを抱いた隣のきれいなお姉さん、バイクを盗んで追いかけられた警官のこと、などなどのエピソードがつづられる。
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 映画の全体の流れは、日常的なリアリズムの手法ではなく、ノスタルジックで感傷的な、作られた日常。キャストたちは、きわめて自然なやりとりをするけれども、登場人物はみ~んな良い人ばかり。それは、「日々生きている中で、だんだん“ありがとう”という気持ちが芽生えてくるんです」と語る木村監督のキャラクターのせいだろう。彼は、08年の「ニセ札」で映画監督デビュー。実際に起きた事件を題材にして、人間の欲望をコミカルなタッチで描いた。より毒があった、という意味では、デビュー作のほうが印象に残ります。


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