米、フィリピン両政府は、南シナ海での中国の覇権拡大に対処するため、同盟関係のテコ入れに本格的に着手した。23日(米東部時間)にワシントンで開かれた外相級会談で、「米比相互防衛条約」を南シナ海での「有事」にも適用し、比軍の装備の増強、更新を米側が支援することで合意した。南シナ海は「米中冷戦」の様相を呈している。
クリントン米国務長官との会談などで、デルロサリオ比外相は、中国の脅威に対し「いかなる攻撃的な行動をもとる用意がある」と強調。米側は、南沙(スプラトリー)諸島の領有権をめぐる中比の武力衝突を念頭に、米比相互防衛条約(1951年)に基づきフィリピンを防衛することを明確にした。
また、フィリピンの老朽化した艦船など装備を増強、更新するため、米側は装備などを供与する。クリントン長官は「必要な装備をどう供与するかを決める作業をしている」としている。同外相はゲーツ米国防長官とも会談し、具体的な「装備リスト」を基に協議したとみられる。
フィリピンの装備は質量ともに脆(ぜい)弱(じゃく)で、旗艦であり唯一のフリゲート艦「ラジャ・フマボン」にしても、第二次大戦中に就役した米海軍の“お古”だ。アキノ大統領は約2億5200万ドルの予算を、装備の増強、更新などに割り当てる方針で、すでに米沿岸警備隊の退役した巡視船を数隻購入している。
合意の重要なポイントはしかし、米比相互防衛条約は南シナ海にも適用されるとの認識を、米側が明示したことだ。これまでは、南シナ海に米国が「手を出す」かどうか、「戦略的な曖昧さ」が残されていた。合意は、中国の覇権拡大に対する米比両国の認識が、「安全保障上の課題」から「軍事的な脅威」に移行したことを意味する。
今後は、同盟関係の強化が、運用面にどう反映されるのか、注目される。
振り返ると、米軍のスービック海軍、クラーク空軍両基地からの撤退(91年)に伴い、米比基地協定が失効し、同盟関係とフィリピンの軍事力は弱体化した。
その間(かん)隙(げき)を縫い、中国が南シナ海に進出すると、米比両国は「訪問米軍に関する地位協定」(VFA)などを結び、関係回復に動いた。だが、米国は後方支援基地の復活を望んでいるとの観測もあり、それを模索する動きが浮上する可能性もある
シンガポール=青木伸行