この仏企業が手がける六ヶ所再処理工場は、当初予算の3倍ものカネを注ぎ込みながらいまだ完成せず!同じ事態がフクシマでも起きるのではないか?
東電は、福島第一原発の事故収束に向けた工程表で、汚染水を処理して原子炉への注水に再利用する「循環注水冷却」による冷温停止を来年1月中旬までに達成するとしている。そのための費用を、汚染水の総量25万tで531億円と見込んでいるが、それだけで済まないのは確実だ。
というのも、『アレバ』社の技術による処理の過程で発生する〝大量の放射性物質を含んだ沈殿物〟を処理する費用は、ここに含まれていないからだ。そして『アレバ』は、「さらなる旨み」であるこの沈殿物処理を狙っている―。
放射性廃棄物は「別契約」
東電によれば、現在、約10万5000tの高濃度汚染水が原発施設内に溜まっており、さらに、損傷した格納容器から注水作業によって漏れ出る分として、1日530tの汚染水が発生している。この汚染水を集中廃棄物処理施設に移し、油の分離、放射性物質の処理、淡水化処理をした後、再び冷却水として原子炉に注水するのが「循環注水冷却」だ。
本格稼働すれば、1日1200tを処理することが可能だとされる。『アレバ』は同施設の中核となる除染装置と蒸化器の技術を提供している(3ページの図参照)。放射性物質を薬品と結合、沈殿させ、上澄みを取ることで、セシウムやヨウ素の濃度を最終的に1万分の1に低下させるという。
しかし、彼らの真の狙いは、いまだ処理方法が決まっていない「沈殿物の処理」、さらに、燃料貯蔵プールに1万本以上が放置されていると言われる「使用済み核燃料の処理」なのだ。
こうした意図は、彼ら自身の言葉からも明らかだ。BSフジの『PRIME NEWS』(5月20日放送)に出演した際、『アレバ』日本法人のレミー・オトベール社長は「私たちの契約はこの設備を提供することです」と説明した上で、次のように言っている。
「第1の契約は(汚染水から放射性物質を)分離して、もう一度(冷却水として)問題なく使えるようにすることです。沈殿物を処理し、固化し、ストック可能にするというのは、第2段階です」
つまり、東電とは汚染水処理の契約をしているだけで、放射性廃棄物の処理の契約は結んでいない。
『アレバ』が廃棄物の処理も行うことになれば、さらに別の契約、つまりはカネを請求されることになる。531億円で汚染水はきれいに片付くと思いきや、落とし穴があったのだ。国際ジャーナリストの世良光弘氏が言う。
「『アレバ』は株式の9割をフランス政府が所有している〝国策企業〟で、世界最高水準の処理技術を持っているのは事実です。だからこそ、値段交渉も含めて強気の交渉ができます。結局、(放射性廃棄物の処理についても)東電は頼らざるを得ないでしょう」
そして同社長は、『電気新聞』(5月19日付)でさらなる提案も行っている。
「燃料貯蔵プールの水や燃料棒の状態を把握するため、小型の機械で調査する必要がある。(中略)燃料棒を保管し、それから再処理するために輸送することになる。要請があれば、これらの作業を当社が請け負える」
「頼む相手を間違えた」
『アレバ』は事故発生直後から、日本に対して積極的な支援を表明するなど、救世主のように振る舞ってきた。3月30日には、『アレバ』のアンヌ・ロベルジョンCEO(51)が約100人の技術者を引き連れて来日し、「防護服1万着」や「放射線濃度の高い区域で作業できるロボット」の提供を次々と提案した。しかし、そうした善意の裏で、強(したた)かに事故処理マネーを狙っていたのである。
実は、『アレバ』は六ヶ所再処理工場の建設でも、当初は少額の予算を提示しながら、徐々に積み足している。同工場は『アレバ』の技術で建設された。そのすべてが『アレバ』に入るわけではないが、当初の建設予算は7600億円で、 '97 年には稼働するはずだった。しかし、20回近くも工期は延期され、現在までに計2兆1930億円の巨費が投入された。それでも、いまだ本格稼働には至っていない。
元財務官僚で嘉悦大学教授の橋洋一氏は「頼む相手を間違えた」と話す。
「今回の事故処理の費用はフランスの言い値です。東電単体では払いきれないような金額になるでしょう。だから、菅直人首相とサルコジ大統領が面談したわけだし、ロベルジョンが海江田万里経済産業大臣と会っているんです。支払いに対して政府支援があるってことですよ。六ヶ所再処理工場の件も、最初の予算をつける段階で1兆円なんて通りません。大蔵省(当時)も兆を超えるのは分かっていたけど、それでは予算が通らないから、合意できる数字で当初予算を出したんです。それにしても増え過ぎですよ」
日本政府と密約でもあるかのように、4月19日の会見で、ロベルジョンCEOは「今回は、日本の政府もサポートしてくれますので、支払いの問題については信頼しています」と発言。さらに、現状では契約書を取り交わすことよりも、具体策を実行することが先だ、
という主旨の発言もしており、なし崩し的に費用がかさむことが懸念される。六ヶ所で行われたように、福島第一でも再び大量の税金が『アレバ』に注ぎ込まれるのだろうか。アレバ日本法人は、本誌の取材に対してこう答えた。
「現在、六ヶ所再処理工場が本格稼働に至っていないのはガラス固化技術の問題で『アレバ』の領域ではありません。(「実行が先」というロベルジョンCEOの発言は)福島原発において東京電力が直面している緊急性に対して技術面での支援を行うという誓約です。アレバが受け取る汚染水処理費用は数十億円です」
また、さらなる契約を結んだ際の費用についてはノーコメントとしながらも、その可能性については、こう回答した。
「『アレバ』は使用済み核燃料や放射性物質の管理、放射能汚染の浄化などに特に優れています。東京電力の必要性に応じてお応えできるだろう」
前出の世良氏は、「原発メーカーが福島第一原発の事故処理に群がる背景には、事故処理でカネを得るだけではなく、原発輸出競争がある」と指摘する。実際、今回の汚染水処理に関わっているのは、『アレバ』だけではない。汚染水処理システムの基本設計は『東芝』と『日立GEニュークリア・エナジー』が行っており、ライバル関係にある原発メーカー各社が持てる技術を注ぎ込んでいるのだ。
「『アレバ』はフランスの国家プロジェクトとして、国外に原発を売り込んできたわけです。だから、福島を助けたい気持ちもあるでしょうが、原発のマイナスイメージ払拭こそが目的なのでしょう」(前出・世良氏)
悲劇をカネに変え、さらに次のセールスまでを睨んだ狡猾さは、まさにハゲタカと言うしかないだろう。毟(むし)り取られたカネのツケは最後は国民に回ってくる。こうした事態を招いた国と東電の大罪が改めて浮かび上がるのだ。