中国は経済規模において1990年代以降、驚異的なスピードで世界の先進国を次々に追い抜いてきた。2000年にはイタリアを抜いて世界6位となり、05年にはフランスと英国を抜いて世界4位となった。そして07年にはドイツを抜き世界3位に躍り出た。
そして2010年には、中国はついに42年もの長い間、世界2位の座をキープしてきた日本を追い抜き、アメリカに次ぐナンバー2にまで上り詰めた。経済成長の勢いからして日中両国の順位は早晩逆転するという見通しがあったため、日本国中は一時騒然にはならなかったものの、いざ厳しい現実に直面すると、やはり政治家をはじめ産業界、マスコミ、一般の国民は大きな衝撃を受け、「中国に負けた」と大いに肩を落としてしまった。
しかし、そんな中国は意外な一面が隠されている。つまり、史上もっとも貧しい「世界2位」ということだ。
2010年8月17日、中国中央省庁の一つである商務部の姚堅報道官は定例記者会見で中国が日本を抜いて世界2位になるとの報道をめぐり、次のように述べた。
「GDPデータというのは一面的なものであり、国の経済力の一端を反映するに過ぎない。われわれは国内総生産のデータに注目するだけでなく、1人あたりのデータにより注目しなくてはならない」
「中国の1人あたりGDPはわずか3800ドルで、世界ランキングは105位前後だ。中国にはなお、国連がいうところの1日1ドル以下の収入しかない人が1億5000万人おり、これこそが中国の現実だ。こうした人々の存在には、1人あたりGDPが世界100位以下であり、大量の貧困人口を抱える発展途上国であるという中国の現実がより正確に反映されている。年間収入1300元(約1万6250円)を貧困ラインとしても、なお4000万人あまりの貧困人口が存在する、というのが中国の現実だ」
しかし、残念なことに、こうした中国政府も素直に認めている中国の現実は日本においてとりわけマスコミのなかで、ほとんど日中逆転という大雑把な結果論に埋もれている。この影響で、中国を過大視する傾向は一層加速され、まるで中国はすぐにも世界のスーパーパワーになるような見方が支配的となった。
これは明らかな誤解だ。中国のGDPの急拡大はその膨大な人口数が支えているため、1人あたりに換算すると、世界順位は一気に下落し、後進国の部類に入ってしまう。中国は日本の11倍弱の人口を抱えているため、1人あたりGDPが日本の11分の1に達しさえすれば日本の経済規模を上回ることができる。
国際通貨基金(IMF)のデータによると、09年中国の1人あたりGDPは3566ドルで、世界99位だった。日本は16位で1人あたりGDPは3万9573ドル、中国の10倍以上となっている。世界の1人あたりGDPは8000ドルで、中国は世界平均のわずか45%である。
一般庶民にとって、国民の1人あたりGDPの方が国全体のGDPよりはるかに重要だという指摘はすでに多くの専門家の間で行われている。
中国は世界2位の「栄冠」を手に入れても、史上最も貧しい「世界2位」の国といえる現状は同時に解消されたわけではない。逆に、中国はこれから「世界2位」という新しい肩書きにどう向き合うべきかというかつて経験したことのない大きな課題を背負い始めたといえる。
中国にとって大きなジレンマは、まさに経済規模と経済水準の乖離だ。経済規模は世界2位になったが、経済水準は先進国ではなく、依然として発展途上国にとどまっている。ところが、これまでの前例では、経済規模の上位国はすべて先進国であった。アメリカ、日本、ドイツ、フランス、イギリスなど、例外なく先進国である。中国はここ数年間、高度経済成長で経済規模がこれらの先進国を次々に抜いていき、ついに世界2位の座を手に入れた。一方、中国の経済水準は発展途上国のままで、先進国レベルに達していないだけでなく、先進国レベルにはまだ相当の距離がある。
世界規模でみれば、中国は世界人口の約20%を擁しながら、産み出す富は世界の10分の1以下である。GDPの1人あたり平均は世界平均の半分にも及ばない。世界の中位レベルにもまだこれほどの距離がある。1人あたりGDPが世界平均を超えなければ、国民の生活水準は世界の中レベルに達したとはいえない。また中国の経済・社会の発展には明らかな地域格差があり、環境保護と経済発展との歩みはバラバラで、所得分配は著しくバランスを欠いている。こうしたことはいずれも発展途上国に典型的にみられる特徴である。
中国の人口規模、国民1人あたりの平均指数、地域間の格差といった制約要因は今後長い間続く。中国はかりに一部の予測通りに、先10年でアメリカを抜き、世界1位になったとしても、発展途上国から一気に先進国になるはずがない。貧困との闘い、所得格差の縮小、環境の保護、社会の安定、政治の民主化等々、依然として中国の未来数十年間の最重要課題である。
なかでは、とりわけ見過ごしてはならないのは、商務部の姚堅報道官が強調したように、経済の高度成長がずっと続いているにもかかわらず、依然として膨大な数の貧困人口を抱えているという中国の現実だ。今後、恐らく数十年間にわたって貧困との格闘を続けていかざるをえない、これはまさに経済大国中国の宿命だといえよう。
次回は、貧困人口を数える基準である貧困ラインの引き上げをめぐる近年の動向を紹介、分析する。(執筆者:王文亮 金城学院大学教授 編集担当:サーチナ・メディア事業部)