米連邦準備理事会による6000億ドル(約48兆円)の長期の買い入れ、いわゆる量的緩和第2弾(QE2)の終了を6月末に控え、市場はマネー変調の足音に耳をそばだてている。米国や中国の景気減速懸念にギリシャの債務危機など投資環境を取り巻く不透明感は濃く、神経戦の様相になってきた。その中で米投資家はリスク回避姿勢を強め、マネーが本国に「里帰り」する兆候も出始めたことは、世界の金融市場の波乱要因になりかねない。
FRBは22日発表した声明で、景気減速は「一時的」と強調する一方、米国の実質
<script type="text/javascript"></script>
(GDP)の伸び率は11年に加え12年も下方修正した。景気回復の遅れについてバーナンキ議長は記者会見で「正確には分からない」と回答。住宅市場低迷の長期化と金融機能の回復の遅れなど構造問題が解決されないなかで、QE2を終えざるを得ない米国が抱える矛盾に市場は神経をとがらせている。
景気減速がより鮮明になり、米国投資家のリスク回避志向が強まれば、投資マネーは本国へと里帰りを始める――。市場ではこんな予想が増えている。すでにその兆候は一部に表れている。
米投資信託協会(ICI)が22日発表した投資信託へのマネーフローは、海外株で運用するタイプが2週連続で資金流出超となった。金額はわずかだが、09年、10年と米国の個人投資家の間で高かった外国株運用志向に異変が生じていることは間違いない。ドルの総合的な価値を示す実効レートもここ数カ月、上昇傾向にある。
別の着眼点からドル高を読む市場関係者もいる。「FRBの抜けた穴を埋める代役は見当たらない。だから米国は、海外に散らばった自国マネーの回収を図るだろう」。東海東京証券の斎藤満チーフエコノミストは、こう指摘する。投資マネーを国内に呼び戻すことで、債券市場を支えるのが狙いだ。
実際、市場では次のような声も聞かれる。「QE2(量的緩和第2弾)」終了後は「HIA(本国投資法=HomeLand Investment Act)2」が登場する――。米紙ニューヨーク・タイムズが20日付で「米主要企業が海外にためてある利益を米国に還流させるための減税をするよう、議会やオバマ政権に圧力をかけている」と伝えたことがきっかけだ。
HIAとは米企業が海外の利益を米国に送金し、雇用創出のために再投資すれば、減税されるという法律。2005年に導入され、年間で数千億ドルのドル買いを生んだと言われる。05年から07年にかけての米株高の一因ともなった。その“第2弾”を市場はにらんでいる。
05年の実施時は、還流マネーの多くが配当や
<script type="text/javascript"></script>
に回り、雇用創出効果は限られたとの指摘がある。債務上限の引き上げを巡り、議会でギリギリの調整が続く米国にとって、減税のハードルは高く「HIA2」の行方は不透明とも言える。
だが、景気減速感が強まり、政策手段が限られるなかでは、HIA待望論が高まっても不思議ではない。円や日本株の動きにも大きな影響を与えかねないだけに、里心に揺れる米国マネーの行方からは目が離せない。日経QUICKニュース編集委員 永井洋一
米ドルじわり上昇 追加緩和の思惑しぼむ
米連邦準備理事会(FRB)が22日開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)と、その後のバーナンキFRB議長の記者会見を受けて、外国為替市場でドルがじわりと買われている。FOMCでは量的緩和第2弾(QE2)を今月末で終了することが確認された一方、事実上のゼロ金利政策は継続する。23日の東京市場でドルは対円で上昇し一時、1ドル=80円60銭近辺と前日比40銭程度の円安・ドル高を付けた。ドルは対ユーロでも上昇し、一時1ユーロ=1.42ドル台の高値を付けた。
FRBの決定について、「一言で言えば現状維持で驚きはない」(ステート・ストリート銀行の富田公彦金融市場部長)との受け止め方が市場では大半だ。政策に大きな変更がないにもかかわらず、なぜドルが買われたのか。
市場では「米景気の減速を受けて、バーナンキFRB議長が追加緩和(QE3)をほのめかすのではないかとの期待感があった」(外為どっとコム総研の植野大作社長)。こうした期待感を受け、FOMCの直前までドルは主要通貨に対して売られていた。だが、バーナンキ議長は会見で「(QE2実施を示唆した)昨年8月と状況は異なる」として、追加緩和に慎重な姿勢を示した。会見後のドル上昇は、QE3への期待からドルを売っていた投機筋などがドルの買い戻しに動いたことが大きく、「一段とドルを買い進む状況とはいえない」(植野氏)との見方が多い。
今回の会合を「市場を覆っていた過度の悲観論を打ち消す内容」(野村証券の池田雄之輔チーフ為替ストラテジスト)と、前向きに受け止める声もある。バーナンキ議長は会見で、米景気の回復ペースの鈍化について食料・エネルギー価格の高騰や、東日本大震災によるサプライチェーン(供給網)の障害など一時的とみられる要因を一部反映しているとして「景気回復のペースは向こう数四半期に加速すると予想している」と述べた。今後の経済指標などで改善が確認できれば、緩やかに「ドル買い・円売り」が進んでいく可能性もある。(経済金融部 浜 美佐)
東京円は続落、80円台半ば 米経済への不安後退 (共同通信)
23日の東京外国為替市場の円相場は続落し、1ドル=80円台半ばを中心に取引された。午後5時現在は前日比35銭円安ドル高の1ドル=80円55~56銭。ユーロは58銭円高ユーロ安の1ユーロ=114円91~95銭。米経済の先行きへの不安が後退し、米国の追加金融緩和が見送られる公算が大きくなったことから、ドルを買って円を売る動きが優勢になった。一時、利益確定のドル売りが出て、やや円高方向に戻した。
[ 2011年6月23日18時4分 ]