かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

渡辺松男の一首鑑賞  64

2014年01月27日 | 短歌一首鑑賞
          【『精神現象学』】『寒気氾濫』(1997年)42頁
                            参加者:崎尾廣子、鈴木良明、渡部慧子、鹿取未放
                             レポーター:鈴木良明
                            司会と記録:鹿取 未放


98 むかし疎外ということばあり今もあるような感じに吹けるビル風

(レポート)(2014年1月)
 「疎外」という言葉は、ヘーゲルが「自己を否定して自己にとってよそよそしい他者になること」の意で用いたが、後にこれを継承したマルクスが「人間が自己の作りだしたものによって支配される状況」の意で用いている。ビル風は、自然の風ではなく、人間がわざわざビルを建てたことによって発生した。そのようなことを思い、感じながら作者は、ビル風に吹かれつつ「みなとみらい」地区を歩いたのである。


(記録)(2014年1月)
 ★街路灯からすんなり続く歌。われわれの世代には疎外ということがすごくよく分かる。当時は
  やった言葉で。渡辺さんは私より6歳年下だけど、私は6年遅れて大学に入ったので、大学時
  代は同じ空気を吸って暮らしたから。(鹿取)
 ★疎外はマルクスが言ったような意味で使ってましたよね。(鈴木)
 ★ええ、自己疎外とか言ってね。あれ、マルクスの概念なんだ。(鹿取)
 ★ヘーゲルの方は抽象的過ぎるからぴんと来ないけど。マルクスの方は直接的で。(鈴木)
 ★「疎外」を広辞苑で引いたらどう出ているのでしょう?(慧子)
 ★この通りのことが書いてあると思いますよ。(鈴木)
 ★では、引いて見ましょう。前半は鈴木さんのレポートと同じです。マルクスの項で、自己の創
  り出したものは(生産物・制度など)と括弧書きの注がついています。次に「さらに資本主義
  社会において人間関係が主として利害打算の関係と化し、人間性を喪失しつつある状況を表す
  語として用いた」とあります。あの頃、この最後の方の意味でしきりに「人間疎外」って言葉
  を使っていましたよね。立て看なんかにもよく使われていた気がする。(鹿取)
 ★私なんかこの歌が当たっても「疎外」を辞書で引くなんってしなかったと思います。(慧子)
 ★「今もあるような感じに」あたりが歌を分かりやすくしていますね。難しい言いまわしを使わ
  ないで。(鈴木)