上海駅には、甥が迎えに来てくれていた。
義兄の家は上海駅から車で5分の高層マンションだ。
甥がタクシーの中で話すのは、
2日前、義兄は私たちが会いに来ると言うので、
一人で近くの散髪屋に行くと家を出たらしい。
ところがこの日は寒く、家を出てすぐ、
持病の心臓発作が置き、意識がなくなり倒れてしまった。
救急車で運ばれ、今は入院していると言うのだ。
本来ならば、もっと早く入院していなければいけないのを、
私たちが行くと言うので、入院日を遅らしていたらしい。
マンションに荷物を置き、病院に向かった。
病院の前にある花屋で見舞い用の花を買い、
入院している病棟に向かった。
広く大きな総合病院で、一人だと病院から外に出るだけで
迷子になってしまいそうだ。
義兄は点滴中で寝たままではあるが、元気はよさそうだ。
青海省に続き、上海でもお見舞いだ。
1時間ほどしてから、疲れてはいけないので、
マンションに帰ることにした。
予定では、昨日の夜は上海新天地で、
「上海蟹にお酒」
だったのに!!!
夕方には日本に帰らないといけない。
上海新天地に行く時間は無いかもしれない。
帰りのタクシーで甥が、
「家で上海蟹を食べよう。
店に行っても高いだけで小さな蟹しか出てこない。
大きな上海蟹を買ってきて家で料理してあげる」
と言ってくれ、マンション手前の市場の前で、
タクシーを止めた。
入り口に大きな「中国のうなぎ(?)」を開き
干したものが並ぶ、上海の市場に入った。
日本の市場と違い、牛肉や豚肉は塊を必要な分量だけ切って売る。
鶏は、皮を剥いたものや、生きた鶏が小屋の中に20羽ほど入っている。
魚屋には、魚は当然だが上海蟹にエビ、イカ、
貝にカエルまで店先に並んでいる。
野菜や果物も台に山のように積み上げられ売っている。
「食の国、中国だ」
この市場の上海蟹は小さいので、
別の店に買いに行くと甥が一人で出て行った。
私たち夫婦と姉は家に帰り、
蟹を蒸す用意をすることになった。
バカバカしいと思う人もいるかも知れないが、
念願の上海で食べる、上海蟹である。
蒸し器に入れた水がグツグツ言い出したときに甥が帰ってきた。
日本の毛蟹より、少し小さいが上海蟹では
身とミソの詰まった、大きいモノだそうだ。
蒸し器にいれ20分待つ!
その間に甥は紹興酒をヤカンに入れて火にかけている。
良い香りが漂いだした。
「出来た!」
真っ赤に茹で上がった上海蟹がテーブルの上に乗せられた。
こんなとき、片麻痺の身体を恨む。
片手で蟹は食べにくいのだ。
甥が一番大きな蟹をつかみ、
甲羅をはがして私に渡してくれた。
ミソがたっぷり入った甲羅だ。
「ウマい!」
上海蟹は、海水の蟹でなく、湖の蟹なのだ。
だから磯臭さや塩味がまったく無く、
ミソ本来の味がする。
ミソだけでなく、身も美味しい。
私の前には、甲羅が2つ3つと並んでいく。
燗をした紹興酒も実に美味しい。
上海蟹とは絶妙のコンビだ。
甥はもう食べ飽きたから、いらないという。
「それでは、私は初めてだから遠慮なく頂きます」
と妻に通訳を頼んだ。
甥の顔には、微妙な薄笑みが浮かんだ。
妻ははっきりと、
「いい加減にしろ!」
と顔に出ているようだが、
親切な行為は、素直に受けるべきだと思う。
義姉と義兄の、お見舞いをする為の中国渡航だが、
私には、青海・北京・上海の食べ歩き渡航だけだったのかも・・・
関西国際空港行きの飛行機からは、
綺麗な夕焼けが望むことが出来た。