徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

小児科外来で行う「迅速診断」について

2012年10月21日 06時57分23秒 | 小児科診療
 RSウイルス感染症の項目で質問を受けしましたので、より多くの人が閲覧できるよう回答をこちらに再掲します。

小児科外来における迅速診断を行う意義・価値について記してみます。

現在、外来で施行可能な迅速診断検査には以下の7つがあります;
※ ( )は当院の状況;○は採用、×は不採用、△は準備中

1.インフルエンザウイルス(○)
2.アデノウイルス(○)
3.ノロウイルス(×)
4.ロタウイルス(×)
5.RSウイルス(△)
6.溶連菌(○)
7.肺炎マイコプラズマ(×)


この中で当院が採用しているものは3つ(1・2・6)のみ。
他の検査をなぜ導入しないかというと「検査結果が治療・診療に反映されないから」です。

採用している迅速診断
1のインフルエンザは陽性なら抗インフルエンザ薬を、6の溶連菌が陽性なら有効な抗生物質の処方を考慮することになります。

2のアデノウイルス(学校伝染病に指定されているプール熱の原因)が陽性の場合は、治療に反映されませんが、感染対策として一定期間集団生活を休んでもらう義務が発生します。

不採用の迅速診断
3のノロ、4のロタは嘔吐下痢の原因として有名ですが、残念ながら特効薬はなく、脱水予防対策は共通しているので区別する必要性が少ないと考え採用していません。
経口補液など家庭療養のポイントをプリントを渡して説明しています。

7のマイコプラズマは他の検査と異なり、病原体そのものを検出するのではなく、感染後に人体が産生した免疫抗体を検出する検査です。
なので、発症後すぐには陽性にならず、信頼できる結果は症状が出てから1週間以降とされています。つまり、こじれてからでないと陽性にならないことになり、「迅速」ではありますが「早期」という意味ではなく、治療に反映しにくいのが欠点です。
さらに、マイコプラズマ感染後は免疫抗体の産生が半年~1年以上続くので、陽性に出た場合でもそれが今回の感染を表しているのか、半年前の感染の影響なのか区別できません。このような理由により、約30%が疑陽性(陽性ではあるがマイコプラズマ感染ではない)との報告があります。

さて、RSウイルスですが、ブログに記したように特効薬はなく、診断しても治療は変わりません。乳児の場合は家庭療養のポイント、重症化徴候のチェック方法などを、これもプリント渡して説明しています。

以上、迅速検査はその結果により患者さんにどれだけメリットがあるかを判断して導入・採用していることをご理解いただければ幸いです。
そして目の前の患者さんに迅速診断検査を行うかどうかは、周囲の流行状況や重症度を勘案してその都度決めていますので、「心配だから」という理由だけで全員には施行していません。

現実には保育園・幼稚園から「検査してもらってきてください」とプレッシャーをかけられて受診される方が後を絶ちません。
園などの施設管理者が心配しているのは「感染拡大」であり「感染力があれば休むべきである」との考えが根底にあります。
ここで問題点を整理してみたいと思います。

各感染症が感染力を有する期間はどれくらいでしょうか?
実は症状が治まれば感染力が無くなるというわけにはいきません。乳幼児では免疫力が未熟であり、大人よりウイルス排泄期間(感染力のある期間)が長引く傾向があります。

感染力持続期間
・嘔吐下痢のノロウイルス/ロタウイルスは乳児では数週間。
・呼吸器感染症のRSウイルスでも乳幼児で数週間。
・マイコプラズマでは年齢にかかわらず数週間。

※ 参考:「風邪のおはなし

つまり上記の感染症に関しては、感染拡大を阻止するためには診断後数週間は集団生活を休む必要があります。もちろん、本人は症状も落ち着いて元気なのに、ガマンさせるわけです。

また、「治癒証明」を要求される場合もあります。
上記を読んでおわかりだと思いますが、感染力がゼロになったからOKという「治癒証明」は数週間書けません。
元気になったので園生活に復帰可能ですという意味の「登園許可」なら書けますが・・・。

園関係者にお願いしたいのですが、検査を要求するのであれば、病気を理解した上での事後措置(陽性の場合の対応)をあらかじめ決めておいていただきたいと思います。
ロタウイルスやRSウイルス陽性となっても、その子どもたちを1ヶ月弱自宅療養させることは現実的ではありません。園内の感染対策(手洗い、マスク)を徹底させ、かつ集団生活の場では感染を防ぐのに限界があることを園児家族に啓蒙し理解していただくのがよいと考えます。

というわけで、迅速診断を乱用すると混乱を招きがちです。
検査に振り回されず、賢く有効活用したいものです。

当院で行う検査は限定されておりますので「なにがなんでも検査をして欲しい」という患者さんは他院を受診されている様子。
ここに記したことを患者さんごとに説明する時間はありませんので、小児科医の胸の内をネット上に公開した次第です。
ご参考になれば幸いです。

追記
実は迅速診断の価値を更に減らす病態が存在します。
それは「不顕性感染」。
これは「感染していて人にうつす力もあるけど、本人には症状がない」という、まことにやっかいな病態です。
※ 参考:「風邪のおはなし」の「不顕性感染」項目

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