徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

熊本地震~避難生活での健康管理

2016年04月17日 06時49分57秒 | 小児科診療
 震災でケガを免れても、その後の避難生活での健康管理も大切です。
 しかし、現時点では強い余震のため屋内非難も危ないという特殊な状況です。

 紹介する記事の中で、ワクチンで予防可能な感染症がいくつもあります。
 このようなリスクも考慮した、ふだんからの予防接種計画が望まれます。

■ 熊本地震 避難生活での健康被害を防ぐ知恵
2016年4月15日;毎日新聞
 14日夜、熊本県内を中心に起きた熊本地震では、多くの人が避難を余儀なくされている。被害状況、さらには今後の余震の規模や発生頻度によっては、避難生活は予想外の長期に及ぶ可能性がある。東日本大震災、阪神大震災、2015年の関東・東北豪雨などでの教訓から、避難中の2次的健康被害を防ぐ方法をまとめた。

◇ エコノミークラス症候群に注意
 飛行機のエコノミークラスの座席のような狭い場所に、長時間同じ姿勢で座っていると起きることから名付けられたエコノミークラス症候群。医学的には「静脈血栓塞栓(そくせん)症」といい、避難生活で注意すべき疾患の代表格だ。長時間体を動かさずじっとしていることで、足の深部にある静脈の血流が悪くなり、血のかたまり(深部静脈血栓)が生じる。それが血流に乗って肺に運ばれ、肺の血管を塞ぐことで起きる。厚生労働省によると、初期症状は太ももから下の脚が赤くなる、むくむ、痛むなどで、この時点で急いで医療機関を受診しなければならない。進行すると胸の痛み、呼吸困難、失神などが生じ、死に至ることがある。かかりやすいのは高齢者のほか▽下肢静脈瘤(りゅう)▽がん▽骨折などのけが▽糖尿病、高血圧、高脂血症などの生活習慣病--に現在罹患(りかん)している人、過去にエコノミークラス症候群や脳梗塞(こうそく)、心筋梗塞などを患ったことのある人、妊娠中や出産直後の女性、経口避妊薬(ピル)を使っている人などだ。
 特に自動車の中など窮屈な場所で手足を縮めて寝泊まりをすると発症しやすい。また、新潟大学などの調査では、新潟県中越沖地震(07年)で避難所生活を送っていた被災者にも症状が確認されており、避難所でも車中泊と同様に注意が必要だ。
 厚労省が勧める予防法は、長時間同じ姿勢を取らない▽1時間に1度はかかとの上下運動(20~30回)をする、歩く(3~5分)などの足の運動をする▽血液が濃縮されないよう定期的に水分補給する▽時々深呼吸する--などがある。運動方法は「1時間に1度程度『貧乏揺すり』をする」と思えば分かりやすい。やむを得ず車中泊をする場合は、できるだけゆったりとした服装にし、足を物に乗せて高く上げた状態で寝るのが効果的だ。

◇ 避難所でリスクが急増する感染症
 鬼怒川の決壊など大きな被害が生じた15年9月の関東・東北豪雨の際、国立感染症研究所は以下に示す6種類の「注意すべき感染症」を示した。災害の種類を問わず、多くの人が共同生活をする避難所では衛生状態が悪化しやすく、たびたび感染症の流行が起きている。東日本大震災では避難生活で体力が低下する震災1週間後から感染症が増えてきた、との指摘もあり、中長期的に十分な注意が必要だ。

【関東・東北豪雨の際に挙げられた「注意すべき感染症」】
・急性呼吸器感染症(さまざまなウイルスで呼吸器に疾患)
・急性胃腸炎・急性下痢(腹痛や嘔吐<おうと>、発熱、下痢など)
・レジオネラ症(肺炎や発熱など)
・レプトスピラ症(発熱、悪寒、頭痛など)
・破傷風(全身がけいれんし呼吸困難に)
・麻疹(はしか、高熱や発疹など)

 レジオネラ症は泥に含まれるレジオネラ菌を粉じんと一緒に吸い込むなどして起きる。破傷風はけがの傷口から破傷風菌が体内に入って感染する。ネズミなど動物の尿に含まれた細菌が、水や土を通じてヒトに感染するレプトスピラ症は、頭痛や発熱が起き死に至ることもある危険な感染症だが、初期症状は風邪に似ているため気づくのが遅れることがある。不潔な水や土に触れない、マスクを着用し、手洗いを励行する、けがを防ぐため靴や手袋を着用する、などが対策となる。
 風邪、肺炎、インフルエンザなどの急性呼吸器感染症は、過密状態の避難所では大流行を起こしやすい。流水での手洗いが重要だが、ため水しかない場合でも一度おけなどに水をくんで、流しながら手を洗うことで効果を高めることができる。マスクの着用も大切だ。
 急性胃腸炎や急性下痢など「食中毒」の予防には、手洗い励行▽生食は避ける▽食べ物を常温で長く保存しない▽食べ残しは保存せずに捨てる--を徹底する。食事や調理の前には、せっけんと流水で手を洗うか、ウエットティッシュや手指用のアルコール消毒剤を使う。おにぎりはラップで包んで作ることも、簡単だが効果の高い予防法だ。

◇ 脱水症 トイレの我慢は厳禁
 断水が続くとトイレの衛生状態が悪化することが多い。慣れない環境への抵抗感もあり、トイレに立つことを我慢するために水分を控えて脱水を起こす人が、阪神大震災、東日本大震災の被災地でもたびたび見られた。普段よりこまめな水分補給を意識し、トイレに行くことも我慢しないのが大切だ。
 脱水は必ずしも「のどの渇き」という自覚症状では表れない。気をつけるのは排尿の回数で、明らかに普段よりトイレに行く回数が少ない場合は要注意だ。飲むのは水でもいいが、手に入れば経口補水液(飲む点滴)や、水でスポーツドリンクを薄めたものを飲むとよりいいだろう。少量を口に含み、口の中をしめらせておけば乾燥予防にもなる。

◇ 透析が必要な人は一時的な避難の検討も
 定期的な通院が必要な人工透析患者は避難生活が大きなリスクになりやすい。避難所生活が長引くと、栄養バランスが崩れたりストレスがたまったりして、症状が悪化する人が多く、阪神大震災の際も被災から2カ月間で、約50人の透析患者が直接の地震被害とは別の理由で亡くなっている。

 東日本大震災の際は、全国の自治体や医療機関が被災地の透析患者を受け入れる支援を行った。慣れた医療機関以外で透析を受けることに抵抗もあるだろうが、他地域に親類が暮らすなど動きやすい人は、しばらく離れた土地に避難して、安心して治療を受けるという選択肢を検討するのもいいだろう。


 2011年の東日本大震災の時の記事も紹介します;

■ 東日本大震災の想像を絶する避難所生活、劣悪な環境で感染症蔓延も
2011年4月6日:東洋経済オンライン
◇ 東日本大震災の想像を絶する避難所生活、劣悪な環境で感染症蔓延も
 石巻市内の死者は2283人、行方不明者は2643人。避難所で暮らす人は2万2745人に達している(3月29日時点)。人口約16万人のうち、実に15%近くが、今も避難所での生活を強いられている。
 石巻市内では、旧北上川の河口近くに立地していた石巻市立病院が、津波をかぶって診療不能に。市内に75あった診療所のうち、28カ所が津波で流された。
 そうした中で、市郊外の高台にあったため、被害の少なかったのが石巻赤十字病院だった。全国各地から訪れた医療スタッフがそこを拠点に診療に従事。市内各地の避難所にも出向き、診療に当たっている。
 が、震災発生からすでに3週間近く経過しているにもかかわらず、被災者の生活環境や衛生状態は一向に改善していない。
 石巻赤十字病院の石井正・第一外科部長(宮城県災害対策コーディネーター、右写真)は、「このまま劣悪な衛生状態が続いた場合、感染症などで多くの被災者が命を落とすおそれがある」と警告する。石井部長によれば、「当院では、救急外来の患者数が地震から時間が経過したにもかかわらず、一向に減らない。本来の高次救急やがん患者への医療提供もままならずに、野戦病院化したままになっている」という。

◇ 着のみ着のまま避難 途方に暮れる外国人も
 週刊東洋経済では3月26~27日の2日間にかけて、石巻赤十字病院や齋藤病院など石巻市内の医療機関、また避難所を訪れ、石巻市医師会長などの医療関係者や被災者から、医療や生活上の問題点について取材。そこで見聞きした事実は想像を絶するものだった。
 被災者の中には、着のみ着のままで逃げたために、保険証や預金通帳、不動産の権利証などを失った人も少なくない。そうした人の多くは、自家用車も津波で流されたゆえ移動手段もなく、避難所でじっとしているしかないというありさまだ。
 市内の高台にある、石巻中学校の体育館や教室に設けられた避難所(前ページ上写真)では、28日時点でも約600人が日々の生活を送っている。しかし、震災後に一度も風呂に入ることもできず、土足で体育館に出入りする不衛生な環境が続いてきた(3月末には土足禁止)。避難所では風邪が流行しており、せきの音が体育館内のあちこちで響いていた。
 きちんと医療を受けていない人もいた。糖尿病を患う67歳の男性は、震災前はインスリン注射を打っていた。ところが震災後、それが不可能になった。避難所での食事は「おにぎりやパンばかりで野菜はほとんど取れない」(男性)。胃かいようを患う63歳の男性は、長期にわたって服薬ができなくなったことでかいようが悪化。最近になって、巡回する医師から薬の処方を受けることができるようになったばかりだという。
 「やることがないので避難所で一日中ポカンとしている」と、この男性は語る。前出の67歳男性によれば、「避難所の同じ班の女性の多くはうつ状態になってしまっている」という。避難所には家族と離れ離れになった、フィリピン人女性の被災者が途方に暮れていた。
 なぜ、石巻市では、かくも悲惨な状態が続いているのか。原因には、都市基盤がことごとく破壊されたことに加えて、外部からの支援が不十分なことがある。
 震災による被害で市役所の機能がマヒ。152に上る避難所への支援も行き届かない。炊き出し用にボランティアの準備した食材が、市の職員の手違いでほかの避難所に運ばれる、という混乱も起きていた。
 石巻市では、市街地の大半が津波の被害を受けてがれきの山になっている地域や、水が引かずに泥だらけの地域が少なくない(下写真)。また、下水処理場やゴミ焼却施設も津波で壊滅的な被害を被った。

◇ 残った病院に患者殺到 “通院難民”まで発生
 市では家庭ゴミの収集を再開したものの、焼却できず、最終処分までの仮置きをしている状態。津波の被害を受けた家財道具などの災害ゴミも膨大な量に上っており、指定収集日に集めることが困難になっている。こうした悲惨な実態について、政府は十分に把握しておらず、「自治体任せ」というほかない。
 被災者の惨状は、石巻市に限らない。被災地では電気に続き、水道の復旧が少しずつ進む。それでも被災者の生活は依然として困難を極める。避難所から自宅に戻る人も増えているが、多くの人は、津波で床上浸水した家屋の2階で電気も水道もない生活を強いられているのが実態だ。
 また、電車やバスなどの公共交通機関が依然としてマヒしているために、掛かりつけの病院に通えない人も続出。そうした“通院難民”が急に訪れたことでパンクする診療所もある。松島海岸診療所(松島町)では、普段の土曜なら患者数が30人程度にとどまるのに、震災後は倍以上に急増。「津波被害で検査機器が使用不能になっている中、限られた診療を続けている」(同診療所を運営する松島医療生活協同組合の青井克夫・専務理事)。
 多くの病院や診療所が津波被害で機能を停止・縮小する一方、残された基幹病院には救急患者が殺到。地震の被害が少なかった坂総合病院(塩釜市)では、震災10日目までに救急車が平時の3倍以上も押し寄せた。その後3月22日時点で、来院患者数や救急搬入患者数はピークアウトしたとはいえ、依然として高水準だ。「震災当日から昼夜問わずフル活動していた職員は、24時間のトリアージ(重症度区分に基づく診療)を維持するのが限界に来ていた」(佐々木隆徳・坂総合病院救急科医師)。
 全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)に加盟する同病院には、全国の加盟医療機関から多数の支援スタッフが支援に訪れていたこともあり、3月23日には有事のトリアージ体制を終了させ、通常診療の再開を実現。支援スタッフの力を借りて、多賀城市や塩釜市内の避難所などへの巡回診療を続けている。しかし今も、救急車が平時の2倍以上来ており、厳しい状況に変わりない。

◇ 不衛生な避難所生活 すでに風邪が蔓延中
 坂総合病院が2次救急医療機関としてカバーする多賀城市も、津波で甚大な被害を受けた。市面積の約2割が冠水、3分の1近い世帯が被災した。坂総合病院への応援で、同市内の避難所で診療に従事した山田智・立川相互病院副院長は、劣悪な衛生状態に驚きを隠さなかった。「被災者は体育館とトイレを土足で往復し、換気も満足に行われていない」(山田副院長)。
 山田副院長らのチームは、市内の多賀城小学校の避難所を訪れ診療を実施。3月23~27日の4日間での受診者は延べ78人に上った。この間の同小学校での避難者は200人前後であることから、かなり多くの患者がいたことが読み取れる。診断名では、「上気道炎」が39人に達しており、避難所での風邪の蔓延が裏付けられた。各地の避難所では「インフルエンザ」や「ノロウイルス」の感染が拡大する兆候も見えていた。
 坂総合病院の今田隆一院長によれば、「病床がふさがりかけており、高血圧や糖尿病など、慢性疾患の持病を悪化させている患者さんも目立つ」という(右写真)。「震災後の生活環境悪化にぎりぎりまで我慢し、必要な薬も飲んでいない高齢者も珍しくない」(今田院長)。
 1995年1月の阪神・淡路大震災では、震災から生き延びた高齢者などがその後病気をこじらせ死に至る事例が続発した。今回の東日本大震災は被災地域が広範囲に及び、さらに過酷な状況にある。政府は被災地の実情を把握したうえで早急に手だてを講じるべきではないか。


<参考になるHP>
□ 「避難所における感染対策マニュアル」(東北大学)
□ 「東日本大震災感染症ホットライン」(東北大学)
□ 「大規模災害において想定される保健医療福祉の課題 ―感染症の観点から―押谷仁,神垣太郎」(保健医療科学 2013 Vol.62 No.4 p.364-373)
□ 「災害時感染症対策のしくみを考える」(市民フォーラム)
□ 「東日本大震災における避難所での感染制御の現状と課題」(INFECTION CONTROL)
□ 「大規模⾃自然災害下の避難所における感染対策について」(日本環境感染学会)
□ 「避難所生活を過ごされる方々の健康管理に関するガイドライン」(厚生労働省)
□ 「東日本大震災」(国立感染症研究所)
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