徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

誰のせい?

2012年01月29日 06時45分46秒 | 小児科診療
 日本全国、インフルエンザ流行のまっただ中。
 学級閉鎖のニュースが飛び交う中に、高齢者施設での集団感染も報告されています。

隔離徹底も拡大防げず インフル院内感染で院長「最善の対策」強調
(2012年1月26日:東京新聞)
 入院患者ら三十九人に症状が確認され、女性一人が死亡した疑いがあり、男性二人が重症となった上尾中央総合病院(上尾市)のインフルエンザ集団感染。二十五日に会見した徳永英吉院長は「最善の対策を取った」と話し、症状が出ている患者の隔離や看護師ら職員の出勤停止などを行ったというが、感染拡大を防げなかった。
 同病院によると、死亡した八十代の女性が入院していたのは四人部屋。後の検査で、死亡した女性以外の二人が感染していたことが判明した。重症の八十代と五十代の男性二人はもともと重い疾患があったが、インフルエンザにより、さらに症状が悪化した可能性があるという。
 同病院は、発症していないが感染者と同部屋だった入院患者らにタミフルなどの治療薬を処方。体温測定回数を増やすなどの措置も行い、職員は全員がワクチンを打ったという。二十五日現在、症状が出ているのは一人で、徳永院長は「適切な対応だった」と強調した。 


 死亡例が出ると、マスコミは「誰が悪い?」と犯人捜しをします。これは国民の感情を代弁していると捉えることもできます。
 上記例では「職員は全員インフルエンザワクチンを接種していた」「発症していないが感染者と同部屋だった入院患者らにタミフルなどの治療薬を処方した」「体温測定回数を増やした」と感染対策をしっかりしている病院です。同じ医療現場にいる私から見ても適切な対応だと思います。

 それでもインフルエンザは流行り、一部は重症化するのです。そういう感染症なのです。
 インフルエンザ感染には「不顕性感染者」と呼ばれる、感染しても症状がほとんどでない患者が2割程度存在します。これらの人たちは、ふつうに社会生活を送っており、しかしウイルスを排泄するので他人にうつす力を持っているやっかいな存在です。一見健康に見えるヒトがインフルエンザウイルスをばらまいているのですから。

 もし、上記病院を責めるなら、より完璧な感染対策を目指して入院患者は全員個室管理、面会はシャットアウト、職員はちょっとでも体調が悪いなら1週間就業禁止、等の措置が必要となり、非現実的です。

 「医療を正しく行えば100%良い結果が得られる」という幻想。
 そんな誤った思い込みが日本にははびこっているので「結果が悪ければ医療者が悪い」と認識され、その結果医療が萎縮し医療崩壊の一因となっています。

 インフルエンザの話に戻りますが、日本が学童にワクチンを集団接種していた時期は、インフルエンザ脳症など重症者が少なく、高齢者の死亡数も現在より低く抑えられていました。日本は集団接種をやめましたが、近年欧米では評価される傾向があり、アイロニーを感じます。
 シミュレーションによると、予防接種率を高率に保てば学級閉鎖数を抑制できる可能性も指摘されています;

インフルでの学級閉鎖日数、8割予防接種で3分の1 慶大など
(2011/6/16:日本経済新聞)
 小学校で全児童の約8割がインフルエンザの予防接種を受けると、学級閉鎖の日数がほとんど受けない場合に比べて約3分の1の7日になるという研究結果を、けいゆう病院小児科の菅谷憲夫医師と慶応大医学部の研究グループがまとめた。論文が16日に米感染症学会の専門誌(電子版)に載る。
 東京都内のある私立小学校に協力してもらい、1984年から2007年まで、インフルエンザワクチンの接種率と学級閉鎖の平均日数を調べた。
 児童への集団接種が実施されていた84~87年(平均接種率96.5%)の学級閉鎖日数は平均1.3日、集団接種が中止されていた95~99年(同2.4%)は20.5日だった。これに対し任意接種となった2004~07年(同78.6%)では7日だった。接種率が高くなるほど、学級閉鎖の日数が短くなることがわかった。
 児童への集団接種が、高齢者や乳児のインフルエンザによる死亡数を減らすという社会的効果はこれまでにもわかっていたが、児童全体としてみた場合の発症リスク低減につながるのかどうかは不明だった。
 菅谷医師は「集団接種に戻る必要はないが、児童全体の60~70%がワクチンを接種すれば、児童から児童へインフルエンザが感染するのを防ぐのに役立つことは確かだ」と話している。


 当院を受診されたインフルエンザ患者さんには、今のところワクチン接種回数がゼロか1回の子どもがほとんどです。「2回接種したのに・・・」という声は聞かれず、今シーズンのワクチンが効いている印象があります(あくまでも「現時点で」ですが)。
 しかし「行事にどうしても参加したいので、隔離期間を1日短くできないか?」と相談してくる患者さんは決まってワクチン未接種。もう少し「自己責任」という言葉をかみしめていただきたい、と思う今日この頃です。

 半分愚痴になってしまい、申し訳ありません。
 
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