徒然日記

街の小児科医のつれづれ日記です。

ペット(飼い犬)に狂犬病ワクチン、接種してますか?

2024年06月09日 07時39分42秒 | 小児科診療
狂犬病という病気があります。
犬が感染すると「水を怖がるようになる」ことから名前がつけられました。

イヌの感染症?・・・と侮ることなかれ。
恐ろしいのは、ヒトが感染すると、
現代医学をもってしても“死亡率100%”の病気なのです。

しかし日本ではあまり話題になりません。
それはペット(飼い犬)に「狂犬病ワクチン」の接種が義務づけられているから。
ワクチン接種によりウイルスの広がりが抑制され、
人に感染して問題になることが表に出ない、というカラクリです。

ただ、時々「狂犬病感染!」というニュースが流れます。
大抵は海外で感染したヒトが日本に帰国してから発症したパターンです。
でも気になりますね。
現状はどうなっているのでしょう?

それから、実際に狂犬病予防を考えたとき、
ワクチンがどこで接種できるのか、
開業小児科医の私も知りません。
TVでお馴染みの久住Dr.が書いた記事が目にとまりましたので紹介します。

どうやらワクチン接種率は低下しているものの、
日本では海外からの持ち帰り以外の発症例はなく、
一応安全のようですね。

<ポイント>

・狂犬病は狂犬病ウイルスによって媒介される感染症である。(ヒトを含む)哺乳動物すべてが感染可能である。感染から発病までの潜伏期間は1カ月未満のことが多く、かまれた部位が脳に近いほど発病が早い。狂犬病ウイルスは感染した動物の唾液に含まれ、かみ傷に付着したウイルスは体内に侵入し、近くの神経細胞の中に入り込む。ウイルスはその中を進んで脊髄を経由し、脳に達して脳炎を起こす。脳炎が悪化すると死に至る。脳炎を発症すると治療する術はない。

・人への狂犬病感染の9割以上(100%ではないところがポイント)は犬にかまれることが原因。

・日本国内での狂犬病の報告は1957年が最後で、その後は海外で動物にかまれて感染し、日本滞在中に発病した輸入感染の事例が複数報告されている。オーストラリアを除くすべての大陸では狂犬病が発生し続けている。海外から動物を日本国内に持ち込むには、動物検疫の手続きが必要だ。

・現時点においては、日本国内には狂犬病に感染した動物は報告されておらず、国内に狂犬病ウイルスは存在しないと考えられる。よって、狂犬病ワクチンを打っていない動物にかまれても狂犬病に感染することはない。

・日本では「狂犬病予防法」という法律により、飼い犬には狂犬病ワクチンを接種することが義務づけられているが、実施率が低下してきている。アメリカでは州によって規則が異なり、必ずしも接種を義務づけていない。イギリスやフランス、ドイツも義務ではない。

・現在、グラクソ・スミスクライン社のみが日本国内で狂犬病ワクチンを販売している。取り扱いがあるかは医療機関のホームページなどで確認するしかない。

・狂犬病清浄国以外の国で犬や動物にかまれた場合、狂犬病と破傷風感染を考え、発病を防ぐ必要がある。曝露後予防(PEP : Post Exposure Prophylaxis)と呼ぶ。

・日本人が旅行や仕事で訪れる近隣の東アジアや東南アジアの国々は、ほとんどがハイリスクであり、海外渡航前に事前にワクチンを打っていく曝露前予防(PrEP : Pre Exposure Prophylaxis)を考えてもいい。海外赴任者では、赴任中の感染症を防ぐため、企業が費用を負担してワクチン接種を受けさせるケースが多い。1カ月を超える出張で、辺境の地に行かれる方は渡航前の接種を考えてもいいだろう。


飼い犬に「狂犬病ワクチン」、日本でどこまで必要か
〜海外渡航前に知っておきたい"人間のワクチン"〜
久住 英二 : 内科医・血液専門医
※ 下線は私が引きました。
・・・
◇ 犬の登録制は狂犬病との闘いの名残
 日本国内においては、犬を飼ったら居住地の自治体に登録し、飼い主は狂犬病の予防接種を受けさせる義務がある。これは、狂犬病をコントロールするための狂犬病予防法という法律によって定められている。しかし、日本国内では狂犬病は長らく発生しておらず、登録やワクチン接種の目的は人々の意識から薄れ、実施率が低下している
 狂犬病は狂犬病ウイルスによって媒介される感染症であり、人を含む哺乳動物すべてが感染しうる人への狂犬病感染の9割以上は犬にかまれることが原因だ。日本国内での狂犬病の報告は1957年が最後で、その後は海外で動物にかまれて感染し、日本滞在中に発病した輸入感染の事例が複数報告されている
 狂犬病ウイルスは感染した動物の唾液に含まれ、かみ傷に付着したウイルスは体内に侵入し、近くの神経細胞の中に入り込む。神経細胞は長い紐状であり、ウイルスはその中を進んで脊髄を経由し、脳に達する。感染から発病までの潜伏期間は1カ月未満のことが多く、かまれた部位が脳に近いほど発病が早い。中には1年以上経ってから発病するケースもあり、感染のおそれがある場合は、発病しないようキッチリ対策しなければならない。
 脳に達したウイルスは神経細胞に次々に感染し、脳炎を起こす。狂犬病の「狂」とは、脳炎を起こして興奮し、刺激に敏感になった状態なのだ。脳炎を起こした犬は周りの動物や人間にかみ付き、ウイルスを拡げる。人間も同様で、脳炎が悪化すると死に至る。脳炎を発症すると治療する術はない。狂犬病治療に成功したとの報告はあるが、治療法は確立していない。
 現時点においては、日本国内には狂犬病に感染した動物は報告されておらず、国内に狂犬病ウイルスは存在しないと考えられるよって、狂犬病ワクチンを打っていない動物にかまれても狂犬病に感染することはない
 実は、日本のように狂犬病がコントロールされている国は、世界では多くない。3年以上国内で狂犬病感染動物が見つかっていない場合、狂犬病清浄国・地域とされる。現時点では、日本政府はオーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアム、アイスランドを清浄国と認定している。オーストラリアを除くすべての大陸では狂犬病が発生し続けている。
 狂犬病が国内に侵入しないよう、さまざまなルールも定められている。海外から動物を日本国内に持ち込むには、動物検疫の手続きが必要だ。日本政府が認めた清浄国以外の国から動物を連れてくる場合、最長で180日間は係留施設に預ける必要がある。何ら病気がないことが確認されるまで、ペットは家に帰ることができないのだ。

◇ いつでも国内に狂犬病は侵入しうる
 ただし、動物検疫を実施していても、抜け穴はある。日本に寄港した外国船から、中で飼われている犬が上陸することもあるだろう。また、貨物船のコンテナにコウモリが潜んでいた事例も報告されている。コウモリは狂犬病ウイルスに感染していても発病しないため、ウイルスの運び屋になりうることが知られている。常に目を光らせていなければ、狂犬病はいつでも日本国内に侵入しうるのだ。
 日本では、前述のように犬に対する狂犬病ワクチン接種が義務づけられている。しかし、アメリカでは州によって規則が異なり、必ずしも接種を義務づけていない。イギリスやフランス、ドイツも義務ではない。ただし、外国から犬を連れて行く場合は、狂犬病ワクチンが打ってあり、有効な抗体価に達していることの証明が求められる。
 日本は狂犬病に関して、非常に厳しい対応をしていると言える。我が家のワンコも、注射に行くと震えるので、可哀想だし、できれば打ちたくない。しかし、狂犬病が国内で発生した際の対応を考えると、やはり打っておこうと思う。
 狂犬病清浄国以外の国で犬や動物にかまれた場合、狂犬病と破傷風感染を考え、発病を防ぐ必要がある。曝露後予防(PEP : Post Exposure Prophylaxis)と呼ぶ。

破傷風(全ての国で)PEP
① 小児期の接種スケジュールが完遂しているか、過去に3回接種が済んでいる人では、破傷風ワクチンの接種から5年以内であれば追加接種は不要。5年以上経っている場合は1回接種。
② 接種歴が不明、もしくは回数が足りていない人では、破傷風ワクチン接種を3回接種。

狂犬病(清浄国以外)PEP
① かんだ動物が狂犬病ワクチン接種を受けていれば感染の恐れはない。
② かんだ動物を見失った、または狂犬病ワクチン接種歴が不明の場合、即日医療機関を受診し、ワクチン接種を開始すべき。当日、3日後、7日後、14日後、28日後の5回接種ないし、28日後を省いた4回接種がスタンダードだ。飼い犬などで、その動物が10日経っても普段と同じように生きていれば、感染の恐れなし、として途中で接種スケジュールを中断してよい。

 イギリス政府は国別の狂犬病感染リスクを公表している。日本人が旅行や仕事で訪れる近隣の東アジアや東南アジアの国々は、ほとんどがハイリスクだ。そのため、海外渡航前に事前にワクチンを打っていく曝露前予防(PrEP : Pre Exposure Prophylaxis)を考えてもいい。1週間間隔で2回ワクチン接種を受けるのが標準的な方法だ。2年おきの追加接種で免疫は高く維持できる。
 PrEPを受けておくメリットは、動物にかまれた後の対処が楽だからだ。破傷風ワクチンは変わらないが、狂犬病ワクチンは当日と3日後の2回を追加すればいい。

◇ 狂犬病ワクチンはどこで接種できるのか?
 現在、グラクソ・スミスクライン社のみが日本国内で狂犬病ワクチンを販売している。取り扱いがあるかは医療機関のホームページなどで確認するしかない。トラベルクリニックを謳っている、渡航者向けのワクチン接種を提供している医療機関であれば在庫している可能性が高い。
 渡航前のPrEP接種は自費となり、接種費用は医療機関ごとに異なる。海外赴任者では、赴任中の感染症を防ぐため、企業が費用を負担してワクチン接種を受けさせるケースが多い。1カ月を超える出張で、辺境の地に行かれる方は渡航前の接種を考えてもいいだろう。
 海外で動物にかまれて受けたPEPは、日本帰国後の接種継続には健康保険が適用される。年齢によって1割〜3割負担となり、費用はさほどかからない。ただし現地で接種した分は償還されない。海外旅行傷害保険がクレジットカードに付帯している場合があり、現地での接種費用に、日本でも自費で接種を受けて、まとめて保険会社に請求することをお勧めする。

日本における狂犬病ワクチンの接種率が気になったので、
検索したらこちらのサイトに記述がありました;

日本の狂犬病ワクチン接種率は年々下降傾向にあります。
令和4年度の全国接種率は70.9%で、地域によっては50%を切る結果になっています。
ただし、この数字は「登録された犬」の注射率であって、おそらく未登録の犬を含めると45%を下回ると思われます。
世界保健機関WHOが提案している接種率75%に達していないことになります。
「全体の70%に免疫があれば流行は防げる」のですが、今の全国接種率ではその最低ラインの70%を維持することも難しい状況になりつつあります。

台湾では一度は消えた狂犬病が再興した事実もあり、
日本でも安心できない状況と言えますね。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 2024年シーズンのスギ・ヒノ... | トップ | RSVワクチン、登場! »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小児科診療」カテゴリの最新記事