ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

周産期医療システムの不備は、誰に責任があるのだろうか?

2007年05月24日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

分娩中は、一定の確率で、いろいろな異変が起こり得ます。異変が起こった時に、自施設で対応できなければ、一刻も早く基幹施設に緊急母体搬送しなければなりません。

しかし、周産期医療システムが整ってない地域では、分娩中に何か異変が発生するたびに、大慌てで、母体搬送の受け入れ先を探し出さねばなりません。近隣に受け入れ先がどうしても見つからない場合は、県外のはるか遠方の病院にも受け入れ可能かどうかを打診しなければなりません。受け入れ先が見つからないのは、地域の周産期医療システムの問題であり、担当医個人の責任ではありません。

ですから、この事例は、本来、担当医個人の責任に帰する問題というよりは、むしろ、県全体の周産期医療システムの不備に帰する問題だと思われます。

もしも、『医療システムの不備によって生じた問題なのに、担当医個人が結果責任を問われる』ということになれば、今後、医療システムが整ってない地域では、誰も医療に従事することができなくなります。実際に、奈良県南部地域(県全体の面積の2/3の地域)が、完全に分娩不可能地帯となってしまったそうです。

参考:

転送拒否続き妊婦が死亡 分娩中に意識不明

奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題

産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡で県産婦人科医会 (朝日新聞)

妊婦転院拒否、断った大阪に余裕なし 満床や人手不足 (朝日新聞)

<母子医療センター>4県で計画未策定 国の産科整備に遅れ

奈良の妊婦死亡、産科医らに波紋 処置に賛否両論

医療機関整備で県外派遣産科医の撤収へ 奈良・妊婦死亡 (朝日新聞)

転院断られ死亡の妊婦、詳細な診療情報がネットに流出(読売新聞)

****** 共同通信、2007年5月24日

母子医療センター整備遅れ 産科医の確保難しく

 遺族が提訴した奈良県の妊婦は、約20の病院に受け入れを断られた後、死亡した。厚生労働省は、緊急・高度な事態に対応できる「総合周産期母子医療センター」設置を各都道府県に求めているが、産科医の確保が難しく、整備は思うように進んでいない。

 同センターは、母体・胎児集中治療管理室(MFICU)や新生児集中治療室(NICU)を備えた24時間体制の医療施設で、複数の産科医が常駐する。

 厚労省によると、2006年12月現在、39都道府県に62あるが、奈良県をはじめ、山形、佐賀、鹿児島など8県にはない。

 施設のない県の中には独自の対応をしているところもあるが、産科医は勤務条件が厳しく訴訟リスクも高いとされ「手厚い人員配置のために地域によっては確保するのが難しい」(母子保健課)のが実情という。

 奈良県では04年、より高度な医療施設に緊急転送された妊婦の約37%は県外に搬送されていた。今回の問題を受け、県は昨年11月、計画を急きょ前倒ししてセンターを設置することを表明している。

(共同通信、2007年5月24日)

****** 読売新聞、2007年5月24日

奈良の妊婦死亡、適切な治療怠ったと賠償提訴

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、妊婦が出産時に脳内出血で意識不明となり、相次いで転院拒否された末、搬送先の病院で死亡した問題で、遺族が23日、「脳検査も治療もせず放置した」として、担当医と大淀町を相手に損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こした。この問題を巡っては、県警が担当医らを事情聴取するなど業務上過失致死容疑で捜査しており、刑事・民事の両面で真相解明が進むことになった。

 原告は、○○○○さん(当時32歳)の夫、◇◇さん(25)と生後9か月の長男△△ちゃん。原告側は請求額を明らかにしていない。

 訴状によると、○○さんは出産のため昨年8月7日に入院。翌8日午前0時ごろ、「頭が痛い」と訴えて意識を失った。担当医は「脳に異常はなく、陣痛などによる失神」と説明。その後、両手足が硬直し始めると、妊娠中毒症の妊婦が分娩(ぶんべん)中にけいれんを起こす「子癇(しかん)」と診断し、転院先を探した。

 ○○さんは意識消失の約6時間後、大阪府吹田市内の国立循環器病センターに搬送され、脳内出血と判明したが、△△ちゃんを出産後、死亡した。

 ◇◇さんは「自分や看護師だった親族らが脳内出血の可能性を再三、指摘したのに、担当医は途中で仮眠するなどし適切な治療を怠った」と主張している。

 町立大淀病院の***院長の話「今後、司法の場において明らかにしたいと考えております」

 ◇転院拒否◇

 ○○○○さんの転院を巡っては、大阪府と奈良県の計19病院が「ベッドが満床」「NICU(新生児集中治療室)がない」などと受け入れを拒否。産科医らの調査では、県で必要とされるNICUの病床数は119床だが現在40床しかない。症状の重い妊婦の約3~4割を県外に移送するなど、産科救急システムの深刻な不備を露呈した。

(読売新聞、2007年5月24日)

****** 毎日新聞、2007年5月23日

妊婦死亡:病院と医師の過失主張 遺族が提訴 奈良

 奈良県大淀町立大淀病院で昨年8月、同県五條市の○○○○さん(当時32歳)が分娩(ぶんべん)中に意識不明となり、転送先で脳内出血で死亡した問題で、遺族は23日、病院を経営する大淀町と担当産科医を相手取り、慰謝料など損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。「大淀病院の担当医が脳の異常を見過ごしたことが死亡につながった」と過失責任を主張している。

 提訴したのは夫◇◇さん(25)と、転送先で生まれた9カ月の長男△△ちゃん。訴状によると、○○さんは昨年8月7日、出産のため大淀病院に入院。翌8日午前0時ごろ頭痛を訴えた後、突然意識を失った。産科医は頭痛と陣痛から来る失神と説明し、仮眠のため退室。同1時40分ごろ、両腕が硬直するなど脳内出血をうかがわせる症状が表れたが、来室した産科医は子癇(しかん)発作(妊婦が分娩中に起こすけいれん)と誤診して処置をせずに病室を離れ、同4時半ごろまで病室に来なかった。

 病院は同2時ごろまでに転送先探しを始め、○○さんは19病院で転送を断られた後、大阪府吹田市の国立循環器病センターに同6時ごろ到着。CT(コンピューター断層撮影)で右脳に大血腫が見つかった。△△ちゃんは帝王切開で生まれたが、○○さんは8日後に死亡した。

 死亡診断書では同センター受診時、○○さんの意識が刺激にまったく反応しないレベルに達していたなどとする記載があり、遺族は「脳内出血の発症は午前0時ごろ」と主張。「これ以降、家族らが再三脳の異常を訴えたのに産科医はCTなどの検査をせず、手術でも回復しないほど脳内出血を進行させた」としている。

 大淀病院の***院長は「今後、司法の場において(立場を)明らかにしてまいりたいと考えております」とのコメントを出した。【中村敦茂】

(毎日新聞、2007年5月23日)

****** 朝日新聞、2007年5月23日

奈良妊婦死亡 「医師が誤診」夫が提訴

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、出産中に意識不明となった○○○○さん(当時32)が、県内外の19病院に転院の受け入れを断られた末に死亡した問題で、夫の◇◇さん(25)=奈良県五條市=と生後9カ月の長男が23日、適切な治療を怠ったとして、大淀町と産婦人科(現・婦人科)の男性医師(60)を相手に、損害賠償を求める訴訟を大阪地裁に起こした。地方の産科医不足が解消されない中で、地域医療のあり方も問われそうだ。

 訴状などによると、○○さんは昨年8月7日朝、分娩(ぶんべん)のため同病院へ入院。翌8日未明に頭痛が始まり、まもなく意識を失ったが、担当医は「陣痛による失神」と判断して仮眠に入った。◇◇さんらは脳内出血を疑って頭部の画像診断を求めたものの、担当医は妊娠中毒患者がけいれんを起こす「子癇(しかん)」と診断して検査をしなかった。

 容体の悪化を受けて病院側は転院先を探し、奈良県の2病院、大阪府の17病院から「満床」などと断られた。意識喪失から6時間後、○○さんは搬送先の国立循環器病センター(大阪府吹田市)で右脳に大きな血腫ができていることが判明。帝王切開で△△ちゃんを出産したが、8日後に脳内出血で死亡した。

 原告側は、担当医は脳内出血を疑って必要な検査をし、治療に対応できる医療機関へすぐに転院させるべきだったと指摘。「症状を悪化させて死亡させた過失」は最初に入院した病院側にあると主張している。現段階で請求額は明らかにしていない。

 ○○さんの死をきっかけに、大淀病院は今年4月から産科の診療を休止。一方、奈良県警は業務上過失致死容疑で捜査している。◇◇さんは「病院が話し合いに応じず、提訴に踏み切った。産科医療が良い方向へ進むよう、真実をはっきりさせたい」と話した。

 大淀町立大淀病院の***院長の話 今後、司法の場で主張を明らかにしたい。

(朝日新聞、2007年5月23日)