ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

岐阜県東濃地方の産科医療の状況

2007年06月16日 | 地域周産期医療

コメント(私見):

地元新聞のインターネット上の記事を読むと、岐阜県の東濃5市(多治見市、土岐市、瑞浪市、恵那市、中津川市)の産科医療もかなり厳しい状況にあることがわかります。この地方では、多治見市以外の4市で産科施設が急激に減少しつつあり、その結果として、多治見市では「お産利用者の4分の3は市外から押し寄せパンク状態」となっているそうです。

東濃5市の2007年4月1日現在の人口は、多治見市:114,707人、土岐市:61,547人、瑞浪市:41,461人、恵那市:55,167人、中津川市:83,231人で、この5市の人口を合計すると356,113人となります。この地域は、JR中央西線の沿線に位置し、名古屋市のベッドタウンで、(行政的には岐阜県に属していますが、岐阜市との結びつきは比較的希薄で、)経済的にも、文化的にも、地形的にも、名古屋圏に属しています。

****** 岐阜新聞、2007年6月14日

土岐市、産婦人科医ゼロに 出産受け入れできず

 土岐市立総合病院(同市土岐津町土岐口)が、唯一の常勤産婦人科医=同科部長(39)=が辞職するため、9月中旬以降の分娩(ぶんべん)受け入れを休止することが13日、分かった。市内では民間の産婦人科医院も今年に入って産科を休止しており、市内での出産受け入れができなくなる。

 同院によると、部長は2004(平成16)年から産婦人科唯一の常勤医として勤務。現在は非常勤産科医との2人体制で、24時間体制の分娩を受け入れている。

 同院では、名古屋大付属病院の医局に産科医派遣を求めたが「過重労働における医療事故防止のため(常勤医の)1人赴任はさせない」との返答があった。市では後任の常勤医の確保が難しくなったことから、9月中旬から産科を休止し、非常勤医師による婦人科の診療のみ継続することにした。

 榊原聰院長(60)は「当面は市外の病院で対応していただくしかない。産科が再開できるように産科医師の確保に努めていきたい」としている。

(岐阜新聞、2007年6月14日)

****** 岐阜新聞、2007年4月20日

東濃の医師不足深刻 

奨学金創設提案も即効性なく

 医師と看護師の不足が全国で深刻な社会問題となっている。東濃地域では特に産科医不足が各市の共通課題に挙がり、待ったなしの状態。地域医療の現場は、特効薬もなく危機感を強めている。

 産科を含め県内の医師数は、人口10万人当たりの換算で165人と全国ワースト5。東濃5市では136人(2004年調査)と県平均をさらに下回っている。

 中でも産科など特定の診療科では、時間外の過剰労働や医療訴訟の多発などで医師自体の数は少ないのが現状だ。

 今年2月の「東濃5市首長会議」では、産科医療の窮状が指摘された。これを受け、県東濃振興局は3月に5市の健康医療担当幹部や公立病院の事務局長らを集め、県内でも先駆けとなる地域医療対策会議を開いた。

 会議では「5月から市内唯一の産科医が閉院する」(恵那市)、「お産利用者の4分の3は市外から押し寄せパンク状態」(多治見市)、「5月から市民病院で里帰り出産の受け入れを制限」(中津川市)、「東濃厚生病院は救急体制の受け入れが限界。昨年4月から産科は休止状態」(瑞浪市)など、苦しい現状の報告が相次いだ。

 医師不足は産科にとどまらず、小児科、麻酔科、呼吸器科などでもあり、外来診療や検査など患者の待ち時間も長く、市民から苦情も寄せられる。医師も患者も疲労、悪循環に陥っている。

 医師不足の背景には医師、看護師などの待遇が名古屋市と比べて低水準にあることや、大学の医局に医師の派遣依頼をしても、医局にも人材がいないという事情もある。

 こうした現状を打開するため、会議では「東濃圏域医学生奨学金」制度の創設(試案)が提案された。地元出身の医大生を対象に、将来地元で働くことを条件に奨学金を貸与、貸与期間と同期間、管内の病院に勤務した場合は、奨学金の返還を免除する仕組みだ。

 ただ、奨学金の創設も現実に投資効果が出るのか、効果が出ても数年先となる。「新医師臨床研修制度」の導入を受け、研修医に選んでもらえる魅力ある病院づくりも必要で、地域医療の整備に難題は山積している。 【東濃総局長・各務勝】

(岐阜新聞、2007年4月20日)

****** 中日新聞、2007年2月11日

医師不足受け「里帰り出産」を制限 中津川市民病院

 東濃東部2市の産科医師不足を受け、中津川市は臨時に「里帰り出産」の市民病院での受け入れを5月以降制限することを決めた。恵那市の開業産婦人科医院が4月限りで診療を休止することを受け、この地域から“お産難民”を出さないための窮余の策。産科医師の確保を急ぐとともに、緊急事態への理解を求めている。

 恵那、中津川両市はここ数年、3医療機関で4人の産科医師が年間約1000件のお産を取り扱ってきた。中津川市民病院ではこのうち2人の産科医師を擁して昨年度は450件を扱い、本年度は500件を超す勢い。そこで、恵那市の開業医師が診療休止すると、900件前後を2人の医師で扱う緊急事態が予測されている。

 医師の勤務状況のさらなる悪化はお産のリスクを高め、医師が倒れるケースも予測されるため取扱件数の制限が必要になる。しかし、単純に人数を制限すると、地元でお産できない「お産難民」を生み出す可能性があるため、「里帰り出産」制限の策を選んだ。

 市の広報やホームページに掲載したところ、不満の声も寄せられているが、地域の産科事情を説明して理解を求めている。

 医師不足の背景として、臨床研修医制度により新人医師が都市部に集中することや、リスクの高い産婦人科を志望する人が減ったことがあるとみられる。同市民病院では「出産の機会の里帰りを楽しみにする親御さんの気持ち、中津川に愛着を持ってもらう機会を逸することは痛いほど分かるが、それ以前の瀬戸際にある。解除に向けて第一条件の医師の確保に手を尽くしたい」としている。【山本哲正】

(中日新聞、2007年2月11日)

****** 岐阜新聞、2007年1月31日

里帰り出産の受け入れ制限 中津川市民病院

 中津川市は30日までに、同市駒場の市民病院に開設している産科について、今年5月から、同市出身の妊婦が実家に戻って出産する「里帰り出産」の受け入れを制限する方針を明らかにした。

 隣接する恵那市に唯一ある産院が5月以降の出産受け入れを停止することから、地域医療として市民病院が担う両市在住の妊婦の受け入れを優先させるためで、中津川市は異例の措置に理解を求めている。

 中津川市と恵那市の産科医療は、中津川市民病院と両市に1施設ずつある民間の産院が担い、3施設で4人の産科医が年間計約1000件の出産を担当している。年間約400件を行ってきた恵那市の産院で受け入れ停止が続いた場合、中津川市の2施設で産科医療を行うことになる。

 同市民病院は2人の産科医がいるが、2002(平成14)年度に340件だった出産が05年度は450件で、年々増加傾向にある、このため、受け入れの増加は産科医の負担を増やし、出産の安全確保や産科の維持が困難になると判断し、「里帰り出産」の受け入れ制限を決めた。

 同市民病院は、大学病院などに医師の派遣増員を働き掛けているが困難な状況で「地域で暮らす妊婦の受け入れを優先する必要があると考えた。里帰り出産を予定している人は居住地での出産をお願いしたい」としている。受け入れの制限は同市の広報やホームページに掲載して伝えている。

(岐阜新聞、2007年1月31日)

****** 中日新聞、2007年1月19日

恵那市内 産科医ゼロの危機 4月で不在に、派遣要望進展なし

 恵那市で開業する唯一の産婦人科医院が4月限りで診療を休止することになり、同市の産婦人科医がゼロとなる可能性が高まっている。市は市内で働いてもらえる産婦人科医を探しているが、めどが立っておらず「お産がしにくくなれば、地域の人口減や少子高齢化に歯止めがかからなくなる」と危機感を募らせている。 (鈴木智行)

 診療を休止するのは、同市長島町中野の「恵那産婦人科」。同病院によると、五月から産婦人科医が不在となる見込みとなったため、お産は四月までしか受け付けていない。病院は閉鎖しないが、後任の医師が見つかるまで休むという。

 もし休止が続けば、市民は市中心部からでも車で三十分近くかかる中津川市、瑞浪市などの医療機関でしか出産ができなくなる。休止を知った市内の主婦からは「当面、次の子どもを産むのは控えた方がいいのかしら」という不安の声も上がっている。

 山間部の過疎化が進む恵那市は、新総合計画で二〇一五年の人口を現在から約二千人減の五万五千人にとどめる目標を設定。昨春には少子化対策推進室を設置するなど力を入れていただけに「(同病院に)何とか続けるようお願いしてきたが…」と頭を抱える。

 市は同病院の診療休止を把握する前から、市幹部らが厚労省や県外の医療機関に出向き、市立恵那病院などへの産婦人科医派遣を要望しているが、具体的な話は進んでいない。市は「努力を続けていきたいが、全国的な産科医不足は深刻。今後は首長らの協力で、自治体の枠を超えた医療態勢の構築も必要になる」としている。

<県内の産科の状況> 県などによると現在、県内で産科医がいない市は本巣市だけだが、近くの岐阜市や北方町の病院で出産ができる。また、美濃市は、市立病院で、週二回大学病院から婦人科医が来て診察、山県市や飛騨市の病医院では婦人科の診療はしているが、三市ともお産はできない。

(中日新聞、2007年1月19日)

****** 岐阜新聞、2006年11月24日

産科の緊急医療 県内も整備不足 専門医、減る一方 

周産期医療 拠点づくり急務

 先月、奈良県で意識不明の妊婦が複数の病院で受け入れを拒否されて死亡した問題は、ハイリスクを伴う周産期医療の整備不足を浮き彫りにした。岐阜県でも、周産期医療に関する整備不足は以前から、医療関係者の間で指摘されているが、背景には深刻な産科医師の不足がある。お産をめぐる県内の医療現場を取材した。

 岐阜市内の産科医によると、産科は分娩(ぶんべん)などで拘束時間が長い上、その処置が訴訟問題に発展するケースも比較的多い。さらに少子化の影響も重なり、医学生が産科を敬遠する傾向が出ているという。

 県の調査では、県内の産婦人科、産科医数は、1998(平成10)年の172人が、2004年には155人に減少。医師不足で分娩を取りやめる病院や施設も出始めており、02年には84の病院、診療所で行われていた分娩は、05年には71に減った。地域によっては近くの施設で分娩できない状態が生まれているという。

 現在は市内に34の産科施設がある岐阜市でも、医師が高齢化する数10年後には「お産の過疎地になる」との予測も聞かれる。同市産婦人科医会長の岩砂眞一医師(61)は「若い産科医を育てていくには、ハイリスク出産を受け入れる、周産期医療の拠点づくりを進めなくてはいけない」と指摘する。

 県内で唯一、産科に特化した母体胎児の医療を担う、岐阜市長良の国立病院機構長良医療センター産科。前置胎盤など妊婦の様態の急変による緊急搬送などハイリスクを伴う出産を受け入れる周産期施設だ。産科医は5人で、24時間の当直体制で月に30―40件の出産をこなす。産科の34床、NICU(新生児集中治療室)を含めた未熟児新生病棟24床はいつも満床に近い。

 川鰭市郎産科医長(51)は「県内のハイリスク出産をカバーする周産期の医療はまだまだ足りない。今のうちに、医療機関のすみ分けや医師の集約化を図らなければ、奈良のようなケースが起きかねない」と警鐘を鳴らす。

 今月初めに移転した、同市野一色の県総合医療センター(旧県立岐阜病院)内の「母とこどもの医療センター」は、産科、新生児科、小児科とも県内屈指の規模。県は本年度中に、同施設を国が整備を求める総合周産期母子医療センターの特定施設に指定する予定だが、ここにも産科医不足が影響している。

 母とこどもの医療センターの小児科医は19人と充実する一方、産科は、産婦人科医の4人が婦人科と兼務であたる。「分娩だけでなく、外来患者の診察や手術もあり、ギリギリの数」と現場の医師。当直体制を敷くには7、8人が必要だが、医師が病院へ30分以内に駆けつけられる場所に居住してカバーしている。清水勝院長(68)は「県内の総合周産期医療の中核施設として産科専門医を確保したいのだが、探してもすぐに見つからない」と現状を打ち明ける。

 医師不足が続く中、医師も患者も安心してお産に臨める体制づくりとして、周産期医療の総合的な整備が1日も早く望まれている。【小森孝美】

周産期医療 周産期は妊娠満22週から生後満7日未満までを指し、周産期を担う医療施設では、切迫流産や前置胎盤など妊娠や分娩時の異常、胎児、新生児の異常に産科、小児科が連携して対処する。国は高度な治療が必要な母子に対応する「総合周産期母子医療センター」を全国に整備する計画だが、現段階で特定施設指定が予定される岐阜県を含め、8県で未整備。整備期限は2008年3月まで。

(岐阜新聞、2006年11月24日)


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6 コメント

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お忙しいのに調べていただきまして、ありがとうご... (僻地の産科医)
2007-06-16 22:39:43
岐阜県はかなり山が多く広い県だけに、状況がひそかに気になっていたところでした。飛騨地方(こちらは富山圏に属していますね)も、かなり厳しい状況のようです。奈良のようになってしまわねばいいけれど、と心から心配しております。

と同時に、
「過重労働における医療事故防止のため(常勤医の)1人赴任はさせない」との方針は大変すばらしいのですけれど。。。。どうにもならなさそうな感じだけが色濃く漂ってきています!
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>さらに少子化の影響も重なり、医学生が産科を敬... (Nobody)
2007-06-16 23:36:30
 前段のニュースの文脈からの、少子化と産科敬遠傾向の関係がわかりません。
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僻地の産科医・さま (管理人)
2007-06-17 15:13:51
いつもお世話になってます。

東濃地方は私の生まれ故郷です。

故郷を出でて、はや三十有余年...

高校時代は、通学にJR中央西線を利用してました。朝方は、上り(名古屋方面行き)が満員で、下り(中津川方面行き)がガラガラ、夕方は逆に下りが満員で上りがガラガラでした。

この地方の中核病院は愛知県の大学から医師が派遣されている場合が多く、勤務医はJR中央西線で名古屋方面から通勤している人が多いのではないかと思われます。

愛知県の大学病院でも、医師不足で他県にまで医師を派遣する余裕がだんだんなくなってきて、東濃地方の病院は医師引き揚げの対象になりやすいのかもしれません。
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ご出身だったのですねo(^-^)o! (僻地の産科医)
2007-06-17 15:46:28
通学状況がとてもよくわかるような気がいたします。

多治見よりも名古屋市よりの可児市にもほとんど産科施設がないとのこと。大学院生のときに、可児市の大きな病院の産科撤退のお手伝いをさせていただいた時期があり、紹介病院がほとんどもう古くからやっている個人開業医さんか数件あるくらいで紹介先に大変困りました。

撤退も大変ですけれど、(私の病院でも日々さまざま科(中心は内科ですが)が撤退準備をしていて、紹介状を書いたりしているとみんなどんどん仮面用顔貌になっていくのが気になります)地域の方々にとっても大変です。
どうなっていくのだろうと漠然と不安を覚える毎日です。

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東濃地域は本当にひどいことになってきましたねぇ... (ばあば)
2007-06-19 16:20:18
中濃地域も僻地の産科医さんがおっしゃるように産科医院が少なくなっていて、岐阜まで通う方も私の周囲では結構あります。

一昨年暮れ、中濃地域の三次救急をこなす中濃病院の救命救急センターの入り口に「緊急でない場合は、救急医院情報センターを活用してください」という趣旨のお願い文が掲示されました。

ちなみに岐阜県各地域の100平方km当たりの医師の人数を紹介します。今年正月の中日新聞に出てました。全科の医師数です。
岐阜…171,9人 飛騨…6,6人 西濃…38.9人 東濃…30,9人 中濃…18.9人
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始めまして。 (あにす♪)
2007-08-17 16:03:35
瑞浪市で生まれ育ち、嫁ぎ先もだんなの実家も瑞浪市内です。そして、もうすぐ1歳の子供と、2人目を懐妊したばかりです。

本当にこのあたりは産婦人科・・・・もとい産科が激減していて困っていますヨ。一人目のときは自分が先天性疾患(完治後)があり、民間産院で嫌がられ県病院で超が付くぐらい安産でしたが、通うのが大変だった記憶があります。
一応、塚田レディースを希望してますが・・・・、受け入れてくれるといいんだけど。・・・・・ふぅ。

もう2軒でいいから出来てくれないかなぁ・・・・。
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