ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

医療現場-道職員としての医師派遣 (札幌テレビ放送)

2007年06月04日 | 地域医療

コメント(私見):

宮城県では、従来から頼りにしてきた東北大学の医局人事にだんだん依存できなくなってきたという事情から、2年前より『県庁医局』という新しい医師派遣システムを開始し、県で独自に医師を8人採用し、すでにかなりの成果が上がっているようです。採用された8人は、30代から50代の即戦力ばかりで、現在、それぞれ、地域にとけこんで大活躍してらっしゃるようです。

県の職員として採用され、3年間のうちの2年間は県より指定された病院で働き、残りの1年間は有給扱いで自由な研修ができるというシステムとのことです。県の担当職員が、全国各地で開催されている学会に出向き、直接、医師の勧誘をしているそうです。

これだけの成果が上がっていれば、おそらく、全国各地の医師不足で悩む県の担当部署からは、相当に注目されていることでしょう。このシステムで採用された医師たちは即戦力であり、一人前の医師を養成するために要する莫大な時間と費用を考えれば、3年間のうちの1年間の研修費用など非常に安いものです。

北海道でも、宮城県と同様に、「道職員として医師を採用し派遣する」方式の医師確保策をスタートさせたというローカル・ニュースの紹介です。

この方式の大きな問題点は、全体として不足している少ない医師の奪い合いですから、どこかの県が大いに頑張って、有能な医師の引き抜きに成功すれば、引き抜かれた方の県にとっては、地域医療の貴重な戦力が他県に奪われることになってしまい、医師不足で悩む地域住民がよりいっそう困窮する原因ともなり得ます。

****** 札幌テレビ放送、2007年5月31日
http://www.stv.ne.jp/tv/dnews/past/index.html

医療現場-道職員としての医師派遣

【スタジオ】
「変わる医療現場」です。"医師不足"の解消に向けて道庁が動き始めました。その策の一つが高橋知事が公約した「道職員として医師を採用し派遣する」方法です。「医師求む」のこのポスター。実は宮城県のものですが、2年前にスタートして既に成果を上げています。北海道でも参考になる先進例を取材しました。

【伊達正宗の像】
伊達政宗が街を見下ろす宮城県。

【2006年・宮城県の「辞令」】
この宮城県は2年間で独自に8人の医師を「県職員」として採用・内定し医師が足りない市町村病院に派遣しました。

【東北大学】
それまで頼ってきた東北大学には依存できなくなってきたからです

【七ケ宿町へ】
その第一号の医師を山間の町に訪ねました。

【水田から診療所】
仙台から車で1時間。人口1870人の七ケ宿町の診療所。

【診療風景】
長島高宏医師(34)「何か変わりはありましたか?」
男性患者「何もないのですが立っていると安定しない。フラフラする」

長島高宏医師34歳です。

【診療所のロビー】
町の高齢化率は県内一。役場が総合医療のできる医師を県に希望して派遣されました。

【所長室で辞令を見せてくれる】
見せてくれたのは2枚ある「辞令」です。

長島高宏医師
「県庁の身分として主任主査ですね/こちらが七ケ宿町から」 県職員であり町の職員。給与は町から受け取っています。

【X線撮影】
長島さんはもともと内科医です。

長島高宏医師、X線撮影 「息を大きく吸ってください」

診療所ではX線撮影のほか整形外科の関節内注射も手がけます。

Q どこが悪いのですか?

農家の男性80歳:「肩。上にあがらなくなった。過労だな」

長島高宏医師34歳:「やはり地域医療やる上では皮膚とか整形の勉強が大事なので、
旭川厚生の時に勉強して関節内注射も教えて頂いてできるようにしています」

【診察風景】
専門医教育を基本とする大学医局には、医師の派遣が期待できない診療所です。

【写真‐富良野勤務時代】
もともと地域医療をやりたかった長島さん。最初は北海道の病院で研修しました。

【カルテを書く長島医師】
その後、たまたまインターネットで見た宮城県のドクターバンクに応募したのです。

長島高宏医師:「県の職員として働いているので県の後ろ盾がある。何か困ったときに、手助けが欲しいときは県が後方支援してくれる。県が医局のような捕らえ方でやっている」

【仙台・宮城県庁】
"県庁医局"。長島さんがそう呼んだ宮城県庁です。

【医療整備課に入る】
「医療整備課・企画推進班」。それが"県庁医局"の心臓部です。

【書類を持ってくる課長】
職員として医師を採用する「ドクターバンク」事業は、全国にありますが宮城は有数の実績を持っています。

佐々木 淳課長:「H17年18年あわせて8人。予想外に応募して頂いたと・・・」

【採用資料】
採用が決まった8人は30代から50代の即戦力ばかりです。

Q ポイントは何か?
佐々木 淳課長:「県職員として採用される事と有給研修/それが魅力だと・・・」

【宮城のシステム】
宮城ドクターバンクの仕組みです。「3年1単位」で医師を県職員として採用します。このうち2年間は指定の施設に派遣しますが、残りの1年間は、有給扱いで自由な研修ができます。原則6年、延長可能で職場を移っても退職金が加算される所が大学医局よりも高待遇です。

【東北自動車道】
今度は、仙台から高速で30分の拠点病院に派遣された医師を訪ねました。

【大崎市民病院】
ここは東北大学からの医師派遣が不安定な病院でした。

【小児科と産婦人科カンファレンス】
小児科は、医師が1人になったこともありました。そこで、ドクターバンクに依頼して派遣されたのが岩城利充医師57歳でした。

【廊下と病棟での診察】
岩城さんは信州大学を出た後、名古屋市立大学の医局に入って岐阜の病院に勤務していました。しかし、あるきっかけ1つで宮城に移る決心をしたといいます

岩城利充医師:「宮崎で整備課の局長にあって話を聞いて一発で決めたので」

つまり、九州で開かれた学会に宮城県の担当者がリクルートに出向いていたというのです。

【仙台での糖尿病学会】
実際、岩城医師を取材した同じ日。仙台で開かれた学会の会場では宮城県が、採用活動を展開していました。

県職員・山崎さん:「宮城県ですが、県内の病院が医師不足なものですから・・・」
「よろしくお願いします」

こうした学会への出張勧誘を宮城県では年4回繰り広げています。

【知事からの手紙】
さらに、この手紙。岩城さんが採用前に受け取った知事の直筆でした。

岩城利充医師:「(手紙が)なくても来たと思うが宮城県の姿勢が象徴されている直筆だし・・・」

【未熟児室で若い医師と】
57歳になったいまも月1回の当直をしていますが、ドクターバンクには満足しているといいます。

岩城利充医師:「去年採用された医師の活躍みると、彼らが採用された所には大学からいかなかった所ばかり。しかしそこで働いている人達は満足感を持ってやっている。それはドクターバンク制度が存在価値を持っていると認めてよいと思う」

【七ケ宿町の田植え】
【車で移動する長島医師】
再び山間の七ケ宿町に派遣された長島高宏医師です。

【車に積まれた往診バッグ】
使い込まれたカバンを持って往診に向かっていました。

【101歳の女性宅に到着】
長島高宏医師:「どうも、こんにちは・・・」

そこは80歳の嫁が101歳の姑を介護している家でした。

長島高宏医師:「ヨシさんお腹痛くないかい?」
101歳姑:「痛くない」

診療所への派遣には満足しているという長島さん。3年目の有給研修は取らずに診療所に残りたいと考え始めています。

Q いつまでいるのか?
長島高宏医師:「この地域に馴染んで患者に気に入って頂ければ居られるだけいたいという気持ちでやっている」

Q ドクターバンクを使って?
「そうですね、ハイ」

【走り去る往診の車】
県職員の2人の医師が上げた"県庁医局"成功の秘訣。それは"県の熱意"と"やりがい"そして"信頼関係"でした。

(札幌テレビ放送、2007年5月31日)

****** 札幌テレビ放送、2007年6月1日http://www.stv.ne.jp/news/item/20070601185909/

道庁に"医局"が誕生

医師不足問題―。"道庁医局"ができました。"医師確保"を最重要課題に掲げた高橋知事が「医師確保推進室」を道庁に作りました。今年度中に、5人の"道職員医師"採用を目指すといいます。

(高橋はるみ知事会見) 「道職員としての医師の採用、地域に派遣をすると…」
再選直後の記者会見で高橋はるみ知事が設置を表明した医師確保の専門組織―。急ごしらえな表示ですが、きょうの道庁組織・機構改革で新たに誕生しました。担当職員数は1人から6人に増加―。すぐに動き出すといいます。

(高橋はるみ知事) 「予算が通れば、あるいは予算が通ることを見越した下準備は今もう既に始めている所です」

道庁が目指すのは、道が独自に医師を採用・派遣する仕組みづくりです。これまで、病院の医師の多くは、大学の医局から派遣されてきました。それに期待できなくなったいま、道庁自身が「医局」になろうというのです。具体的には、道職員としての「身分を保障」した上で、2年間は医師不足病院に派遣し、1年間は有給で、希望する研修を約束しようというのです。

実際に宮城県では、この方法で、2年間に8人を採用・内定しています。道もこの仕組みに倣う考えです。勤務年限に応じた退職金も出ることから、医局派遣で病院を転々とした経験のある医師はこう評価します。

(今村啓作医師) 「日赤病院、厚生病院、市立病院、町立病院と回るうちに退職金はグチャグチャだから、その都度10万、20万もらうから。それで切れてしまう。そうではなくなるのなら身分保障はひとつ魅力だ」

道は今年度中に5人の道職員医師の採用を目標にする、といいます。目的をそのまま掲げた道の組織が動き出しました。

(札幌テレビ放送、2007年6月1日)


最新の画像もっと見る

7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
今月号のメディカル朝日、もしお手に入るようでし... (僻地の産科医)
2007-06-05 09:13:57
私はまだ届いておりません。http://www.asahi.com/medical/index.html
返信する
僻地の産科医・さま (管理人)
2007-06-05 14:03:08
勤務先病院の医師談話室に置いてあり、さっそく読んでみました。

情報ありがとうございました。
返信する
すでに実績があったのですか。 (Dr. I)
2007-06-07 00:43:23
公務員として雇ってやるから、お前ら応募しろ。
的な役人の発想で。
そんなの、医者からしたらたいして魅力ないから、誰も応募しないと思っていたのですけどねー。
結構以外でした。
返信する
管理人先生へ (地方小児科医)
2007-06-07 06:22:43
>この方式の大きな問題点は、全体として不足している少ない医師の奪い合いですから、
これはこれで仕方ないのではないでしょうか?
医師の招聘に力を入れて頑張った自治体に医師が集まり、そうでないところはますます医師不足が深刻化する。一時的にでもそうした状況が起きないと何も変わらないように思います。
とは言っても、この北海道の方法がそれ程素晴らしい方法とは思えませんが・・・。うまく行っているのだとしたらDr.I先生同様、とても不思議に思います。
待遇云々は別として、医師の派遣先を自治体が決めることになれば、例えば有力議員のいる地域には手厚く医師が派遣されたりと言うような、医療体制のありかたとはほど遠いような人事が行われる危険はないでしょうか?今後、余程気を付けないと色んな問題が起こるような気がします。
この方式での医師数がそれなりに多くなった時に、彼らが組合を作るようになれば、また事態は変わってくるのではないかと言う一縷の期待もありますが・・・。
返信する
Dr. I・さま、地方小児科医・さま (管理人)
2007-06-07 19:33:26
コメントありがとうございます。

宮城県だけで県医局制度をやっているうちは、医師確保対策として、非常にうまく機能していたようです。しかし、今後、多くの県で同様の制度を一斉にスタートさせたとしたら、学会場での医師勧誘合戦となってしまい、この制度で期待通りに医師を確保するのはだんだん難しくなってしまうような気もします。
返信する
>しかし、今後、多くの県で同様の制度を一斉に... (産科医A)
2007-06-09 02:41:12
という管理人先生のお言葉ですが、私はこれは全然悪いことではないと思いますが。。。 努力に応じた結果が明らかになることは、医師にとってもやる気のある自治体にとっても望ましいことなのではないでしょうか? 市場経済的なメカニズムがいくらかでも導入されないことには、医師の労働環境はもちろんのこと、地域医療も改善されないと思います。
返信する
産科医A・さま (管理人)
2007-06-10 06:06:24
コメントありがとうございます。

そうですね。

『県庁医局』制度を多くの県が採用した場合には、応募する側はいくつかの県と交渉することになります。交渉先の県は、何とか自分のところに医師を確保しようと必死に努力するでしょうから、需要と供給のバランスから、地域で絶対に必要とされる科の医師の採用条件はどんどん改善されていくと思います。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。