コメント(私見):
前置胎盤例などでは分娩時の大量出血があらかじめ予想され、分娩前に自己血を貯血したりして突然の出血に備えています。低リスクの分娩であっても、分娩時に予想外の大量出血となって、救命のために輸血を要するような事例は決して珍しくありません。
『分娩時にいくら大量に出血しようとも、輸血は絶対に実施しない』という条件下だと、どの病院であっても、分娩時母体死亡の確率が格段に高くなってしまいます。
ただ、交通事故などで突然運び込まれて来るような場合とは違い、妊娠が判明してから分娩までの準備期間は8ヶ月以上ありますから、エホバの証人の信者の妊婦さんも、多くの病院と事前によく話し合って、分娩を受け入れてくれる病院を日本全国くまなく探し回るだけの時間的余裕は十分あります。
受け入れる病院側も、妊婦さん自身とよく話し合い、最終的に、「そういう条件だと、当施設では対応できません!」と分娩の受け入れを事前にお断りすることも可能です。分娩を受け入れた病院の方で、最後の最後まで責任を持って対応してくださる筈なので、『エホバの証人の信者の妊婦さんが、ある日突然、分娩時大量出血で運び込まれて来て、対応に苦慮する!』という事態は、通常あり得ないと思われます。
****** 共同通信、2007年6月20日
妊婦が輸血拒否で死亡 「エホバの証人」信者
大阪府高槻市の大阪医科大病院で5月初旬、妊婦が帝王切開の手術中に大量出血し、信仰上の理由で輸血を拒否し死亡したことが19日、分かった。女性は宗教団体「エホバの証人」の信者だった。
同病院によると、女性とは事前に、輸血をしないとの同意書を交わしていた。女性は妊娠42週で帝王切開手術で子どもを出産後に大量出血。病院は止血措置だけで輸血はせず、女性は数日後に死亡した。
エホバの証人の信者をめぐっては、手術中に無断で輸血したことの違法性を争った訴訟で、病院や医師の人格権侵害を認め損害賠償を命じた最高裁判決がある。
また輸血を拒否して死亡する患者が相次いだため、各地の病院が「本人の意思を尊重する」などとする治療方針を策定。大阪医科大病院も2年前、意思確認のマニュアルを策定していた。
病院は「女性には生死にかかわる危険があることも説明した。家族にも再三、輸血の同意を求めた。患者の意思を尊重した」と話している。院内に設置された事故調査委員会も「医療上の手順に問題はなかった」と判断している。
エホバの証人の機関誌を作成している「ものみの塔聖書冊子協会」によると、信者は、聖書に「血を避ける」などの戒律があることから輸血を拒否。今回のケースについて「本人の意向を尊重した処置が施されたことに関しては妥当であったと考えます」とコメントした。
(共同通信、2007年6月20日)
****** 毎日新聞、20007年6月20日
エホバの証人、大量出血で妊婦死亡 帝王切開、輸血拒否で同意書 大阪医大病院
信仰上の理由で輸血を拒否している宗教団体「エホバの証人」信者の妊婦が5月、大阪医科大病院(大阪府高槻市)で帝王切開の手術中に大量出血し、輸血を受けなかったため死亡したことが19日、分かった。病院は、死亡の可能性も説明したうえ、本人と同意書を交わしていた。エホバの証人信者への輸血を巡っては、緊急時に無断で輸血して救命した医師と病院が患者に訴えられ、意思決定権を侵害したとして最高裁で敗訴が確定している。一方、同病院の医師や看護師からは「瀕死(ひんし)の患者を見殺しにしてよかったのか」と疑問の声も上がっている。
同病院によると、女性は5月初旬、予定日を約1週間過ぎた妊娠41週で他の病院から移ってきた。42週で帝王切開手術が行われ、子供は無事に取り上げられたが、分娩(ぶんべん)後に子宮の収縮が十分でないため起こる弛緩(しかん)性出血などで大量出血。止血できたが輸血はせず、数日後に死亡した。
同病院は、信仰上の理由で輸血を拒否する患者に対するマニュアルを策定済みで、女性本人から「輸血しない場合に起きた事態については免責する」との同意書を得ていたという。容体が急変し家族にも輸血の許可を求めたが、家族も女性の意思を尊重したらしい。
病院は事故後、院内に事故調査委員会を設置。関係者らから聞き取り調査し、5月末に「医療行為に問題はなかった」と判断した。病院は、警察に届け出る義務がある異状死とは判断しておらず、家族の希望で警察には届けていない。【根本毅】
(毎日新聞、20007年6月20日)
****** 読売新聞、20007年6月19日
エホバ女性信者が輸血拒否し死亡、病院と同意書交わす
大阪医科大学付属病院(大阪府高槻市)で5月中旬、帝王切開の手術を受けた宗教団体「エホバの証人」の女性信者が、宗教上の理由から輸血を拒否し、死亡していたことがわかった。病院側は本人や家族に死亡の危険性を説明したうえで、輸血拒否の同意書を交わしていた。
同病院によると、女性は妊娠42週目で、帝王切開の手術をしたが、子どもを取り出した後、子宮外から大量に出血。止血したものの輸血は行わず、女性は数日後に死亡した。子どもの命に別条はなかった。
宗教上の理由で輸血を拒む患者について、同病院が2年前に作成したマニュアルでは「患者の意向を最大限に尊重したうえで治療に当たる」と規定している。今回も、マニュアルに基づいて本人から同意書や医師の免責証書を得たほか、家族にも輸血の許可を再三求めたが、断られたという。
同病院は「最善の処置を取った。治療上の問題もなかったが、結果的に亡くなったことは申し訳ない」としている。
エホバの証人の信者に対する輸血を巡っては、緊急時に無断で輸血して救命した医師と病院が患者に訴えられ、自己決定権を侵害したとして、2000年に最高裁で敗訴が確定。以降、患者の意思に反して輸血はしないとの指針を持つ病院が増えている。
(読売新聞、20007年6月19日)