ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

医師の確保―医学部の定員を増やせ (朝日新聞)

2007年06月26日 | 地域医療

コメント(私見):

地方ばかりでなく都市部でも、多くの病院の勤務医が不足し、激務に耐え切れなくなった勤務医達が医療現場から立ち去っています。最近では、この医師不足の問題が、連日、マスコミで大きく取り上げられています。

政府・与党が発表した「緊急医師確保対策」では、『医師不足の地域に緊急臨時的に医師を派遣できる、国レベルのシステムを構築する』との方針が示されました。しかし、都市部でも医師不足が問題となっているのに、一体どこに「派遣する医師」がいるのでしょうか? 

日本の医学部定員は84年の約8300人がピークで、その後は医学部定員が約8%削減されたままになっています。医師養成数を削減した結果として、現在の医師不足問題が生じているのは間違いありません。

今、医学部定員を増やしたとしても、実働の医師数が増え始めるのは10年先の話で、この医師不足の問題がすぐに解決するわけではありませんが、全体の医師数が不足している状況を放置したままでは、この医師不足の問題は永久に解決しません。長期的対策として、日本の医師養成数を増やしていく必要があります。

参考:医師不足 苦しむ地方 (中日サンデー版)

****** 朝日新聞・社説、2007年6月24日

医師の確保―医学部の定員を増やせ

 医学部の定員という蛇口を閉めたままで、あれこれやりくりしても、焼け石に水ではないか。

 与党が参院選向けに打ち出した医師確保策を見て、そう思わざるをえない。

 医師は毎年4000人程度増えており、必要な数はまかなえる。問題は小児科や産婦人科などの医師不足のほか、地域による医師の偏在だ。こうした偏りを正せばいい。これが厚生労働省の方針だ。

 その方針をもとに、与党は選挙公約でこれまでの偏在対策に加えて、新たに次のような項目を追加した。

 政府が医師をプールする仕組みをつくり、医師不足の地域へ緊急派遣する。大学を卒業した医師が研修で都市の人気病院に集中しないように定員を改め、地方の病院にも回るようにする。

 確かに、偏在の是正にはすぐに手をつけなければいけない。

 しかし、医師不足は全国の病院に広がっている。都市でもお産のため入院できない地区が増えている。深刻な実態が進んでいるのに、偏在対策だけでは安心できると言えないだろう。

 いま求められているのは、時間はかかるが、医学部の定員を増やし、抜本的に医師不足の解消を図ることだ。

 政府は1982年と97年の2回、医学部の定員を減らす方針を閣議決定した。これに基づき、ピーク時には約8300人だった定員が約8%削られた。特に国立大学が大きく減らされた。

 医師が多くなれば、診療の機会が増え、医療費がふくらむ。だから、医療費の伸びを抑えるには、医師を増やさない方がいい。そんな考えからだ。

 いまの危機的な医師不足はその結果といってよい。

 経済協力開発機構(OECD)の調べでは、人口1000人当たりの医師数が日本は2人で、先進国の平均の2.9人を大きく下回る。しかも、このままでは韓国やメキシコ、トルコにも追い抜かれる可能性があるという。

 政府・与党はこうした状況を招いた責任をどう考えているのか。

 もうひとつ考えなければならないのは、最近の医療はかつてよりも医師の数を必要としていることだ。技術の高度化に伴って、チーム医療が大勢となった。患者に丁寧に説明することが求められ、患者1人当たりの診療時間が増えている。医師の3割は女性が占め、子育てで休業することも多い。

 おまけに高齢化はますます進み、医師にかかるお年寄りは増える。

 医師の偏在さえ正せばいい、という厚労省の楽観的な見通しは、医療の新しい傾向を踏まえたものとは思えない。

 医療のムダは今後ともなくしていかねばならない。しかし、医療費の抑制のため発想された古い閣議決定にいつまでもこだわるべきではない。そんなことをしていたら、日本の医療は取り返しのつかないことになる。

(朝日新聞、2007年6月24日)

****** 毎日新聞、2007年6月25日

医師不足:「医学部定員削減」の閣議決定、5党「見直し必要」 自民も「検討」

 ◇抑制策転換か----主要6党、毎日新聞調査

 医師不足が深刻化する中、「医学部定員の削減に取り組む」とした97年の閣議決定について、民主、公明、共産、社民、国民新党の5党が「見直すべきだ」と考えていることが、毎日新聞の主要政党アンケートで分かった。自民も「今後の検討課題」とした。医師数の現状については、民主、共産、社民が「絶対数が不足」と回答し、自民と公明、国民新党は「地方や診療科によって不足」と認識に差があるものの、各政党が医師不足への危機感を示したことで、医師数抑制を続けてきた国の政策が転換に向かう可能性が出てきた。【玉木達也】

 アンケートは主要6党に、医師不足に対する認識や参院選に向けた政策などを聞いた。97年の閣議決定については、自民以外の5党が「見直すべきだ」とした。理由は「医師不足の実態に即して医学部定員を元に戻す」(民主)▽「地域医療に従事する医師数を増やし、医療の高度化や集約化に対応する」(公明)▽「地方に住む人々に安心した医療を提供する」(国民新党)を挙げた。自民も「勤務医の過酷な勤務の改善のため、必要な医師数の検討が必要」と、見直し自体は否定しなかった。

 医師数への認識では、自民が「一定の地方や診療科で不足が顕在化している」、公明も「へき地で医師が不足し、小児科、産科の医師不足は深刻化している」と、部分的に不足がみられるとの姿勢。一方、民主は「OECD(経済協力開発機構)加盟国平均にするには10万人足りない」、共産が「『医師が余っている』地域はない」、社民も「このままではOECD最下位になる」として、3党とも絶対数が不足しているとの認識だった。

 医師数を巡っては、政府が「人口10万人当たり150人」を目標に、73年から「1県1医大」を推進し、83年に目標を達成した。しかし、旧厚生省の検討会が84年、「2025年には全医師の1割程度は過剰になる」との推計値を公表し、同省も各大学に医学部の入学定員を削減するよう協力を求めた。97年には政府が定員削減を継続することを閣議決定し、現在も政策の基本となっている。

 しかし、医療の高度化や高齢化で、OECD加盟国の多くは医師数を増やし、04年の加盟国平均(診療に従事している医師数)は10万人あたり310人。日本は200人で、加盟国中最低レベル。

……………………………………………………………………………

 ■主要各党が参院選で訴える主な医師不足対策■

 ◇自民・公明

 不足地域に国が緊急的に医師を派遣する体制を整備。研修医の都市への集中を是正するため、臨床研修病院の定員を見直す

 ◇民主

 10%削減された医学部定員を元に戻し、地域枠、学士枠、編入枠とし、医師育成の時間短縮や地方への医師定着を図る

 ◇共産

 閣議決定を撤回し、医師養成数を抜本的に増やす

 ◇社民

 医師を増員し、労働環境を改善するとともに、医療の高度化・複雑化への対応、質と安全の向上を行う

 ◇国民新党

 OECD並みの医療費確保を公約として掲げ、世界一の国民皆保険制度の堅持を目指す

****** 高知新聞、2007年6月18日

【医師不足】偏在だけの問題なのか

 地方の小児科や産科で顕在化した医師不足を、全国の43%もの人が実感していることが、本社加盟の日本世論調査会が実施した「医療問題」に関する面接世論調査で明らかになった。

 調査結果は医療サービスを受ける側の実感であり、実態をそのまま反映しているとは限らない。しかし、医師不足を実感する割合が、少ない地域ブロックで四割近く、大都市でも一割以上あることは、医師の偏在問題だけでは説明がつかないことをうかがわせる。

 人口千人当たりの医師数で、日本は経済協力開発機構(OECD)加盟国の下位にあり、将来はさらに落ちる、との予測もある。医師養成の根幹にある医学部定員は現状のままでいいのか。医師の総数にまで踏み込んだ論議が必要になってきた。

 今月初旬に実施した調査によると、「医師不足を大いに感じる」が16%、「ある程度感じる」が27%あった。先駆的な「国民皆保険制度」が高い評価を受けてきた日本のイメージとはずれのある数字だが、注意を要するのはこんな傾向が特定の地域にとどまらないことだ。

 不足感の合計をブロック別にみると、最多52%の東北地方をはじめ、四国地方(42%)など多くのブロックが40%を超え、最少の中国地方でも37%を記録した。

 「大いに感じる」の回答を有権者人口別にみると、十万人未満の小都市で27%、郡部で19%あった。医師不足を感じる理由では、「病院などの閉鎖」「近くに医師がいない」などが多く、医療サービスの絶対数に起因している傾向が強かった。

 医師不足の典型的なパターンと言えるが、問題の広がりを示すのは中都市(有権者十万人以上)と大都市における回答だ。不足感の合計が各12%あった。

 その理由で多かったのは「待ち時間が長くなるなど不便になった」と「救急対応が遅かったり、たらい回しにされる」。小都市、郡部のような医師不在はなくても、人数の不足やサービス内容への不満が高いことを示している。

 日本は27位

 これまで医師不足といえば、地方病院の診療縮小や閉鎖、さらには臨床研修制度による医師の大都市・大病院への集中などがクローズアップされてきた。

 これが依然、大きな問題であることに変わりはないが、今回の調査結果は、程度の差はあっても中・大都市にも同様の問題があることを浮き彫りにする。

 医師不足は、総数は足りているのに勤務地にばらつきがあるという偏在の問題なのか。それとも総数自体が過少という問題なのか。この点を見極める必要がある。

 一県一医大政策などで医学部定員を増やしてきた政府は、八〇年代に入ると抑制に転じた。医師過剰時代への対応と医療費抑制に主眼があったとされる。現在の政策を続けても毎年、医師数は増えるから二〇二〇年代に需給数が均衡するというのが厚生労働省の説明だ。

 これには批判的な見方がある。

 その資料として用いられるのはOECDの統計で、〇三年、日本の医師数は加盟三十カ国中二十七位で、OECD平均に遠く及ばない。川渕孝一・東京医科歯科大学大学院教授は「医療法で定められた医師の配置基準を達成している県は一つもない」と分析する。

 高齢化による医療費増大など困難な問題はあっても、医師の確保政策が現状のままでいいのか、もっと議論を深めるべきだ。

(高知新聞、2007年6月18日)

****** 信濃毎日新聞、2007年6月25日

医師不足対策 勤務医の負担軽減から

 待ち時間が長くなって困る。近くの病院で診てもらえなくなった-。

 医師不足を実感している人が4割以上に上ることが、日本世論調査会が行った面接調査で明らかになった。とりわけ、小規模の自治体に住む人の心配が強まっている。

 地方の医師不足は深刻で、住民の関心が高い問題だ。政府・与党は国が医師を派遣する制度など医師確保対策を選挙公約の柱に掲げるが、実効性に疑問がある。目先の対策を並べただけでは、絵に描いたもちになりかねない。

 調査によると医師不足を「大いに感じる」人は全体で16%に上り、都市の規模や地域によって差が広がっている。郡部で19%に上り、有権者人口10万人未満の都市では27%とさらに高い。地方の中核病院で医師不足が深刻な状況を裏付ける。

 足りないと感じる理由は▽待ち時間が長くなった▽病院や一部の診療科が閉鎖した▽救急の対応が遅れた-など。お産ができる場所や小児科が足りないと訴える人もそれぞれ2割近い。

 政府・与党がまとめた緊急対策の柱の一つは、国レベルの医師派遣システムを作ることだ。国立病院機構などに医師の派遣機能を持たせ、都道府県の要求に応じて、医師を送り出す。

 世論調査の中でも、国や自治体が医師配置を調整することを求める声は強い。ただし実効性は疑われる。昨年秋に国立病院同士で地方の病院に医師を派遣する制度を始めたが、断られるケースが続出。半年で中止した例もある。国が掛け声をかけても、どれだけの医師を動かせるのかは未知数だ。

 緊急対策は中期的な課題として、国家試験の合格者が3割を占める女性医師の活用をうたう。出産や育児で職場を離れた女性医師が復帰しやすくなるよう、研修や院内保育所の整備を挙げている。

 女性たちが復帰したくてもできないのは、子育てしながら月何回もの夜勤や残業が当たり前の職場で働き続けることが難しいからだ。病院内に保育所をつくれば解決する問題ではない。男女ともに働きやすい環境をつくらなければ、地方の病院を離れる医師は増える一方だ。

 何よりも、勤務医全体の負担を軽くすることが大切だ。診療行為に専念できるよう、看護師、助産師らとの仕事の分担の見直しは当然のことだ。開業医との収入の格差も縮める必要がある。

 徹夜明けで疲れ切った医師が患者を診ている状況が当たり前、では医師不足は解消しない。

(信濃毎日新聞、2007年6月25日)

****** 読売新聞、2007年6月26日

信大医学部が奨学制度 医師不足解消図る

来年度から定員10人増

 信州大学医学部(松本市)は25日、医師不足対策の一環として、卒業後9年間、県内の医療機関で研修し、働くことを条件とした奨学金制度を2008年度から創設すると発表した。これに合わせ、同年度入試から10年間、学部の定員を10人増の105人とする。

 県医療政策課によると、県内の人口10万人あたりの医師数(2004年末現在)は190・9人と、全国平均の211・7人を下回り、47都道府県中35位。また、県内の保健所の管轄別では、松本(松本市など)が313・4人いるのに対し、木曽(木曽郡)は116・9人、上伊那(伊那市など)は129・3人となるなど、大きなばらつきがある。

 そのため、厚生労働省などが昨夏まとめた「新医師確保総合対策」の中で、長野県は青森や新潟など9県とともに、医師の確保が急務とされ、定員の10人増が10年間の期限付きで認められた。

 定員増は奨学金制度など、医師の地域定着の方策をつくることが条件。大学が県と協議を重ねた結果、来年度からの実施で合意した。県は06年度から実施している「県医学生修学資金」貸与制度(月額20万円)をベースに、具体的な制度を策定する。対象は1学年10~20人を想定している。

 奨学生は医学部卒業後、県内で研修医として2年、信大で3年、県内の医療機関で4年間働くことが義務づけられる。

 記者会見した大橋俊夫・医学部長は「地域によって医師の数が違う『地域偏在』を解消するため、長野県で医療に取り組みたい人材を育てていきたい」と抱負を語った。

(読売新聞、2007年6月26日)

****** 信濃毎日新聞、2007年6月26日

医師の安定確保へ 信大と県が奨学金創設で合意

 信大医学部(松本市)は25日、来年度からの入学定員増に向け、医学部生対象の奨学金制度を創設することで県と合意したと発表した。定員を現在より10人増の105人とし、県内受験者の多い前期日程にその10人分を充てる。県内の医師不足解消のため、卒業後も県内にとどまる医師を安定的に確保する狙い。

 国は昨年8月、医師不足が深刻な長野など10県について、来年度から医学部定員増を最大10人まで認めると打ち出した。各県に対し、定員増の条件として奨学金創設などを求めていた。

 奨学金は、来年度以降に入学する医学科の学生が対象。卒業後9年間、初期研修を含めて県内の医療機関に従事することを条件に、学部在学中に月額約20万円を貸与する。国と県が負担し、毎年20人以上の利用を目標としている。

 来年度定員は前期50人、後期45人、県内枠の特別推薦10人。大学入試センター試験の成績などで門前払いする「2段階選抜」も見直し、前期は撤廃、後期は定員の20倍(従来は10倍)を超えた場合に実施する。

 県医療政策課によると、人口10万人当たりの医師数(2004年末現在)は、全国平均211・7人に対し、長野県は190・9人。面積100平方キロメートル当たりでは全国平均71・5人に対し、県は32・2人と半数に満たない。

 大橋俊夫学部長は25日の記者会見で「県内を見ても地域間で医師の偏在が起こっている。県民に将来も質の高い医療を提供するため、県と信大が一緒になって解決に取り組みたい」と述べた。

(信濃毎日新聞、2007年6月26日)

****** 中日新聞、2007年6月26日

独自の奨学金制度創設へ 医師不足打開で信大医学部

 信州大(本部・松本市)は二十五日、県内の医師不足と地域偏在を解消するため、来年度の医学部の定員を九十五人から百五人に十人増やし、卒業後九年間は県内での医療に従事することを義務化する独自の奨学金制度を設けると発表した。医師不足に対する国の勧告に基づく十年間限定の措置。同大で会見した大橋俊夫医学部長は「県と一緒になって、質、量ともに充実するよう取り組みたい」としている。

 奨学金制度は来年度の新入生から適用し、約二十人程度を見込む。国と県の予算措置を受け、六年間、月々約二十万円を貸与するかわりに、卒業後九年間は県内での医療に従事する。

 二年間の初期研修後は、診療だけに縛られず、海外留学や大学院での研究もできるよう、信大病院内での研修を三年間実施。その後の四年間は、県の人事のもと、県立病院を中心とする各自治体の病院に配置される。

 大橋学部長によると、県内の人口十万人当たりの医師数は約二百人で、全国平均値とほぼ同じ。しかし、南北に広いため、地域間での医師数の格差は深刻な問題となっているという。大橋学部長は「奨学金制度による人材の確保で、適切な医師の配置が可能になる」と期待を寄せている。

 今回、国から医師不足県として勧告を受けたのは、長野県のほか、岐阜、三重など九県。国は各県に対し、十人を限度とする医学部定員増を認めるかわりに、独自の奨学金制度などの対策を求めている。【中津芳子】

(中日新聞、2007年6月26日)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。