を回る。自馬なんだけど、色々実験中。
この人はあれこれ病気してくれたので、自分の獣医の腕前が上がりましたね。というか、同業者批判はしたくないのだが、馬の獣医師って、まことにヤブ、何一つ治せないじゃん、と理解して自分でやった方がマシ、という見解に。馬って草食獣の中ではかなり治療しやすい動物だと思う。経口投与薬が使えるし、それも少量でいける。体重換算したらエライ大量になりそうなんだけど、そんなに必要ない。おそらく、小腸の吸収能が極めて高いからじゃないかと。馬・象・カバ等は、草を山ほど食べて、わずかな栄養を徹底的に吸収する、という戦法でガタイを大きくしてますから。この辺が牛や鹿のような反芻偶蹄類と違う点。偶蹄類は第一胃~第四胃までかけて草を分解してから消化する仕組みを取ってるから、経口投与薬ってまず使えない。不利ですね。
自馬の病気遍歴は、腺疫からの紫斑病(血小板減少症)蹄病(蹄叉腐乱だの蹄葉炎だの)って、ヤバイ病気ばかりじゃん!!
腺疫はね、どうも放牧中に他の馬に咬まれたのがきっかけみたいなんですけどね。不顕性感染してる馬って結構いるらしいので。でねえ、腺疫の治療って教科書を読むと「ほっとけ」って書いてある。だから蔓延するっての。細菌感染症なんだから、抗生剤で治療するのが鉄則なんですが、草食獣にはβラクタム系&セフェム系抗生剤の使用は「禁忌」ってのが、我ら小動物臨床医の常識、これが大動物には知られていないらしいのだなんで
だもんだから馬の獣医に治療させると、すぐマイシリン打てだの、セファロチンなんて超大昔の(いつ製造中止になるか分からんぞ)セフェム系抗生剤を使おうとする。マイシリンなんか使うからペニシリンショックが起きる。抗生剤って治療の超基本なのに、こんなことも知らんとは。最初は、馬の先生がおっしゃることが正しいのかな、と思ってた(騙されたよ)んだけど、単にモノを知らん連中なんだと理解してから、ウサギ治療に準じた治療に転換。ビクタスを使って治療して、それは解決したのだが・・・・。
5%程度の馬に続発するのが後遺障害の免疫異常。それが血小板攻撃になっちゃって、血小板減少症と。これを解決するのはステロイドしかない。ステロイドを使うと、しかし、蹄病が(特に蹄葉炎)起きる。にっちもさっちも、ので、十味敗毒湯を使って免疫を調節してたんですが、症状はやっぱり繰り返すわけ。しょうがなく少量のステロイドをたまに使ってたんですが。
にしても、蹄がおかしくなる。厩舎の床は土だし、濃厚飼料は一切ストップしてるし、運動のさせ過ぎもない、放牧もしてる、蹄鉄もつけてない、何が悪いんだ?散々考えてるうちに、ひょっとして、これ、爪水虫なんじゃあ?と思いついたわけです。寄生感染症が原因なら、外側から何やったってムダ。
そうこうしてるうちに、去年の6月頃、たまたま来た馬の獣医が「このままじゃ蹄が脱落して安楽死だ」と言う。獣医っていい商売だと思うのは、その対応策を全く提示しないで文句ばかりという点。その人が言いたいのは、要は「馬の管理が悪い、獣医のくせに」だったんじゃないの?で、実現不可能なことばかり要求しますわね。毎日1時間蹄を薬浴しろだの。できるわけないでしょ。
アッタマに来たので、どーせ死ぬなら、こっちの治療をやらせてもらうわ、抗真菌剤を経口投与しましょう。この馬は多分、世界で初めて抗真菌剤を投与された馬なんじゃないかしらね。抗真菌剤は結構それなりに高価だから、一般的なプロトコール(誰でも使える標準治療)を目指して1日おきにする。水虫の治療は人間でも時間がかかります。特に爪水虫は白癬菌がいない爪組織に生え変わるまでひたすら飲ませるしかない。現在まで1年半近く飲み続けて、今はこんな感じ。
速歩が改善されてるんだけど、改善じゃなくて、回復。蹄が回復したから、馬場を強く踏めるようになったってこと。
そうそう、ちなみに、この馬は誰にも調教を頼んでいません。自分でテキトーにやってるだけ。グラウンドワークとか、しち面倒なこともほぼやってない。ハミを使わないと、この程度は普通にできるようになります。楽勝。「ハミ受け」ってファンタジーだから、そんなことにこだわる方がヘンなのね。
でね、じゃあ爪水虫はどこからうつされたのか?白癬菌はその辺に転がってる真菌ではない。結論は、「装蹄師」。装蹄師が道具を消毒しないから、水虫を持ってる馬から馬へ、どんどん広がっちゃうわけ。
ということで、日本の馬、いや、世界中の馬や牛の大半が水虫持ちという、恐ろしい事態になっているのが現状です。国際蹄病学会なんてのもあるのに全く解決策を見いだせていないのは、病理把握ができていないから。水虫は、人間でも症状ないけど水虫持ちってのが多いから、症状がないから大丈夫、はない。頼むから道具を消毒してよ、と言いたいんですけど。やってくれそうもない、ヘンなプライドが邪魔するんですかね。ので、今は、削蹄したら即蹄を徹底消毒洗浄(カビに効くやつでないと意味ないですけど)してます。パコマなんか効きませんよ。
そうそう、蹄鉄ですが、サラは蹄質が柔らかいから蹄鉄をつけにくいと言いますが、別にそんなことはない。この人はサラだから。水虫の治療をしたら蹄質がどんどん変化して丈夫になってきた。当たり前です。というか、結局極若い頃から鉄付けられて、その時に水虫もついでにうつされちゃってるおかげで、蹄質が白癬菌に食い荒らされて脆弱になってしまった、という事。実際、蹄鉄なんか不要ですよ。
となると、笑っちゃいますよね、金かけて馬を不健康にして、自分の懐もさみしくして、馬に人生食い潰されてる人の多い事。それってある意味、馬に復讐されてるんだよ。考え直した方がいいですよ、管理全般。