ルーセル : バレエ音楽「バッカスとアリアーヌ」第1組曲/第2組曲
ドビュッシー(アンセルメ編) : 付随音楽「6つの古代碑銘」
プーランク : 組曲(バレエ音楽)「牝鹿」
指揮:山田和樹
管弦楽:スイス・ロマンド管弦楽団
録音 : 2015年10月、ジュネーヴ、ヴィクトリア・ホール
CD:キングインターナショナル KKC-5710
これは、山田和樹とスイス・ロマンド管弦楽団のコンビによる録音の第4弾に当たるCD。指揮の山田和樹(1979年生れ)は、神奈川県秦野市出身。 東京藝術大学音楽学部指揮科で学ぶ。藝大在学中に藝大生有志オーケストラ「TOMATOフィルハーモニー管弦楽団」(2006年より「横浜シンフォニエッタ」に改称)を結成し、音楽監督に就任。2005年東京混声合唱団のコンダクター・イン・レジデンスを務め、定期演奏会の指揮、委嘱作品の初演を行う。2009年若手指揮者の登竜門として名高い「ブザンソン国際指揮者コンクール」で優勝。その後、2010年より2012年までNHK交響楽団副指揮者を務めた。 2012年スイス・ロマンド管弦楽団の首席客演指揮者に就任したほか、日本フィルハーモニー交響楽団正指揮者、仙台フィルハーモニー管弦楽団のミュージックパートナーにも就任。 2014年東京混声合唱団音楽監督へ昇格。モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団首席客演指揮者を経て、2016年モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督兼芸術監督へ就任。2017年第67回「芸術選奨文部科学大臣新人賞」受賞。2018年読売日本交響楽団首席客演指揮者に就任。
一方、スイス・ロマンド管弦楽団(OSR)は、1918年に指揮者のエルネスト・アンセルメ(1883年―1969年)によって創設された。ジュネーヴに本拠を置き、創設から関わった指揮者エルネスト・アンセルメが約半世紀にわたって率いた。1938年にローザンヌにあったスイス・ロマンド放送のオーケストラを合併。ラジオ放送のための演奏が増えると同時に、デッカと契約し多くの録音を行う。ジュネーヴ、ローザンヌにおいて定期公演を行うと同時に、ジュネーヴ大劇場のオペラ、バレエの公演も行う。カール・シューリヒト、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、ハンス・クナッパーツブッシュなどの世界的指揮者が相次いで客演を行った。1967年にアンセルメは勇退したが、後継者にポーランド出身でスイス国籍を取得したパウル・クレツキを指名。1968年には初来日を果たしている。歴代の首席指揮者は次の通り。エルネスト・アンセルメ、パウル・クレツキ、ヴォルフガング・サヴァリッシュ、ホルスト・シュタイン、アルミン・ジョルダン、ファビオ・ルイージ、ピンカス・スタインバーグ、マレク・ヤノフスキ、ネーメ・ヤルヴィ 、そして2016年からは、現在東京交響楽団音楽監督を務めているジョナサン・ノットが就任。
最初の曲は、ルーセル : バレエ音楽「バッカスとアリアーヌ」第1組曲/第2組曲。ルーセルは、フランスの作曲家。海軍を経て、1894年パリのスコラ・カントルムにおいて音楽を学び、ダンディなどに師事。同時に教授活動も手掛け、エリック・サティやエドガー・ヴァレーズを輩出している。ルーセルは、初期には印象主義音楽に影響を受けたが、その後は新古典主義音楽へと移行した。現在では、ドビュッシー亡き後のフランス楽壇をラヴェルとともにリードした作曲家として位置づけられている。ルーセルの「バッカスとアリアーヌ」はもともと2幕のバレエ音楽であり、第1幕を第1組曲、第2幕を第2組曲として、演奏会用組曲として演奏される。このCDでの山田和樹の指揮ぶりは、バレエ音楽の特質を最大限発揮させ、流麗な流れを持った優美な音楽をつくりあげている。同時にリズム感覚にも優れ、聴いているだけでダンサーが舞台で踊っている様が目の前に現れてくるようだ。それだけ真柏な音楽が繰り広げられる。どぎつさはどこにも見当たらず、全体が水泡のような滑らかさに覆われている。上品な音づくりは山田和樹ならではの持ち味として、今後多くのリスナーの支持を受けることになるであろう。鮮やかなスイス・ロマンド管弦楽団の音色も印象に強く残る。
次の曲は、ドビュッシー(アンセルメ編) : 付随音楽「6つの古代碑銘」 。この曲は、1894年に発表されたピエール・ルイスによる散文詩集「ビリティスの歌」に、ドビュッシーが作曲した作品。この「ビリティスの歌」は、146歌の散文詩からなる詩集。まずドビュッシーは、「ビリティスの歌」の詩から3篇を選んで歌曲を作曲。次にドビュッシーは、「ビリティスの歌」のための付随音楽を作曲した。副題には「パントマイムと詩の朗読のための音楽」で、詩の朗読とパントマイムと音楽が一体になった上演形態を意図したものだが、草稿だけにとどまり、後にピエール・ブーレーズがこれを復元し、補筆完成させている。さらにドビュシーは、この曲をピアノ連弾のために改作し、「6つの古代碑銘」という題名を付け、1917年に初演された。後に指揮者エルネスト・アンセルメによってオーケストラ編曲された。この曲では、山田和樹は「バッカスとアリアーヌ」の時とは打って変わり、情念を含んだしっとりとした音楽をつくりり上げる。スイス・ロマンド管弦楽団の管楽器群の音色の美しさを最大限に発揮させる指揮としての手腕はなかなかのものだ。遠近感を持った深みのあるオーケストレーションは、このオーケストラの長い歴史を物語る。最後の曲は、プーランク : バレエ音楽「牝鹿」。この曲は、プーランクが作曲した1幕のバレエ音楽で、タイトルの「牝鹿」とは、「若い娘たち」「かわいい子」といった意味。プーランクは作曲から15年以上経過した1939年にそこから5曲を選び組曲の形にまとめたのがこの曲。この曲はバレエ音楽が基となっているいるので、全体が躍動感溢れている。この曲では、山田和樹は同じバレエ音楽の「バッカスとアリアーヌ」の時と比べて少々抑制感を利かせた、スマートな感覚の音楽づくりに成功している。一般的には“エスプリ感溢れる”とでも言ったらいいのであろうか。この演奏を聴いていると、スイス・ロマンド管弦楽団が山田和樹と首席客演指揮者の契約を延長した理由が何となく理解できる。名コンビと言って良かろう。
(蔵 志津久)