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◇クラシック音楽◇NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

2020-02-25 09:40:08 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー



<NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー>



~ミッコ・フランク指揮フランス放送フィルハーモニー管弦楽団とゴーティエ・カプソンの共演~

ベルリオーズ:歌劇「ベアトリスとベネディクト」序曲
サン・サーンス:チェロ協奏曲第1番
ベルリオーズ:幻想交響曲
シベリウス:悲しいワルツ(アンコール)
       
チェロ:ゴーティエ・カプソン

指揮:ミッコ・フランク
     
管弦楽:フランス放送フィルハーモニー管弦楽団

収録:2019年8月31日、スイス、ベルン州、「グシュタート・メニューイン音楽祭」 
                  
提供:スイス放送協会

放送:2020年1月8日(水) 午後7:30~午後9:10  
 
 今夜のNHK‐FM「ベストオブクラシック」は、2019年8月31日にスイス、ベルン州で開催された「グシュタート・メニューイン音楽祭」で行われた、ミッコ・フランク指揮フランス放送フィルハーモニー管弦楽団とチェロのゴーティエ・カプソンによる演奏会である。「グシュタート・メニューイン音楽祭」は、神童ヴァイオリニスト、後に指揮者、教育者としても知られたユーディ・メニューインが1956年に、スイス中部アルプスの保養地グシュタートの山荘で始めた音楽祭。その後、若いアーティストのための音楽アカデミーが創設され、さらに1977年には「メニューイン音楽学校」も設立された。メニューインが1999年に亡くなった後も音楽祭は引き継がれ、2010年にはフェスティバル・オーケストラが創設されるなど、現在も活発な活動が続いている。毎年7月~9月にミュージック・テントをメイン会場にして、教会など近隣の施設でコンサートが行われている。
 
 指揮のミッコ・フランク(1979年生まれ)は、フィンランド出身。シベリウス音楽院でヴァイオリンを学び、1996年からは同音楽院でパヌラ教授の指揮の授業にも参加。フィルハーモニア管弦楽団、ロンドン交響楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン国立歌劇場、イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団のほか、北欧の主要なオーケストラにおいて次々に指揮デビューを果たした。2002年から2007年までベルギー国立管弦楽団の音楽監督・首席指揮者を務め、2006年から2013年までフィンランド国立歌劇場の芸術監督を務めた。2015年からは、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督を務めている。シベリウスの楽曲を収録した最初の録音は、グラミー賞の最優秀オーケストラ演奏部門にノミネートされた。フランス放送フィルハーモニー管弦楽団(ラジオ・フランス・フィル)は、フランス、パリにある放送局「ラジオ・フランス」付属のオーケストラ。2000年から2015年まで チョン・ミョンフンが首席指揮者を務め、2015年からはミッコ・フランクが首席指揮者を務めている。
 
 今夜の最初の曲は、ベルリオーズ:歌劇「ベアトリスとベネディクト」序曲。この曲は、ベルリオーズが作曲した2幕からなるオペラ。1860年から1862年にかけて作曲され、ベルリオーズが最後に完成した大作である。「シェイクスピア風のオペラ」として知られている通り、シェイクスピアの戯曲「空騒ぎ」を原作としてベルリオーズ自身がフランス語の台本をを書いた。 シェイクスピアによる5幕17場から、ベルリオーズが題材を厳選して、序曲と2幕2場からなる小規模なオペラを作り上げた。内容は、恋人たちが微妙な心理の駆け引きを交わせ、試練を経たのちに結ばれるという物語。喜劇であるが、社会から孤立し打ちひしがれた、晩年のベルリオーズの虚無的な心境を表している作品とも言われている。この序曲でのミッコ・フランク指揮フランス放送フィルハーモニー管弦楽団の演奏は、曲に真正面から取り組み、実に堂々とした雰囲気の序曲として演じ切る。ミッコ・フランクの指揮は、メリハリの利いた、きびきびした音づくりは、確信に満ち、伸び伸びとオーケストラを引っ張って行く。何か、トスカニーニの指揮でも聴いているようであり、向かうところ敵なしといった趣だ。最近の指揮者には無い、自己主張の強い指揮ぶりには大いに感心した。
 
 今夜2番目の曲は、サン・サーンス:チェロ協奏曲第1番。この曲は、サン=サーンスが作曲した2曲のチェロ協奏曲のうちの第1作で、1872年に書き上げられた。前後には、歌劇「サムソンとデリラ」、ピアノ協奏曲第4番、4曲の交響詩などの傑作が生まれている。一方、1902年に作曲された第2番は、第1番ほどの評価を得られず、今日ではほとんど演奏されず、単にサン=サーンスのチェロ協奏曲というと、もっぱら第1番の方を指す。チェロのゴーティエ・カプソン(1981年生まれ)は、パリ音楽院で学ぶ。1999年「モーリス・ラヴェル・アカデミー」で第1位、「アンドレ・ナヴァラ・コンクール」で優勝。2004年ドイツの「エコー賞」と「ボルレッティ・ブイトーニ・トラスト賞」受賞。ソリストとして活発な演奏活動を展開し、世界各地でリサイタルを行う。兄は、ヴァイオリニストのルノー・カプソン。この曲でのゴーティエ・カプソンのチェロ独奏は、実に安定感のある、思慮の行き届いた、奥行きの深い演奏で魅了させる。聴き進むうちに、ゴーティエ・カプソンのこの曲への共感が、リスナーにもじわじわと伝わってきて、聴き終わったときの充実感はこの上ないものとなった。

 今夜最後の曲は、ベルリオーズ:幻想交響曲。この曲でのミッコ・フランク指揮フランス放送フィルハーモニー管弦楽団の演奏は、既成概念を全て取り払い、全く新しい幻想交響曲を聴かせてくれた。一般的に、幻想交響曲というと、全ての指揮者が幻想的で奇怪な世界へとリスナーを誘い込む。ところが、ミッコ・フランクはそんなことに一向にお構いなく、健康的でシンフォニックな幻想交響曲を演奏し切った。私は、いい意味でこんなにも健康的な幻想交響曲を聴いたのは初めてだ。物語を除いても音楽としての幻想交響曲の魅力の尽きないことが、今回聴いて初めて分かった。迎合的な指揮者が多い中、わが道を行くミッコ・フランクの指揮ぶりに、思わず「頑張れ」と言いたくなった。(蔵 志津久)
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